SCENE106 来訪者を見送って
島谷さんたちには、ダンジョン管理局の詰所まで来てもらった。泊まってもらうっていっても、ここの勝手がわからないだろうからね。
「一階層にこんなところがあったんですね」
「はい。ダンジョン管理局の人たちに過ごしてもらう部屋だったんですけど、見ての通りガラガラなんですよね。泊まっていくにあたって空いている場所を使っていただいて結構です」
「ほ、本当にいいのかなぁ……」
僕が説明するも三人ともなにやら不安げにしているようだ。
「大丈夫ですよ。ここはこれまで二回開いたダンジョン体験でも使っていただいた場所ですから。明日、ここから帰る時には衣織お姉さんについてもらおうかと考えています。いくらなんでも、衣織お姉さんにケンカを売るような人はいないでしょうから」
「わ、分かりました。それではひと晩お世話になります」
「はい、ぜひともゆっくりしていって下さい」
ひと通り説明した僕は、ダンジョン管理局の人たちに対応を任せて、ひとまずボス部屋まで戻っていった。短絡ルートが使えるから、とっても便利だ。
ボス部屋まで戻ると、ラティナさんとバトラーが出迎えてくれた。
よく見ると、ラティナさんはなんだか心配そうな顔をして僕を見ている。
「あの、あのお三方は大丈夫でしょうか」
「ひとまずはダンジョン管理局の方々に預けてきました。ギルドとしてダンジョンで活動している以上、管理局と事を構えることはないでしょうから、きっと大丈夫だと思います。ただ……」
「ただ?」
僕がちょっと心配そうに言葉を途中で区切ると、ラティナさんが不安そうに僕を見つめる。
「ダンジョンから外に出た時が問題でしょうね。ダンジョンの中なら僕やダンジョン管理局がどうにかできますが、ダンジョンの外になると管理局の権限はそのほとんどを失います。ギルド同士のいざこざに介入しますけど、基本的には警察任せですからね」
「それは、とても心配ですね。ウィンク様の配信を見て下さっている方ですし、今日話をしていた感じは悪い方に思えませんでしたから」
「うん、そうなんだよね……。だから、衣織お姉さんを呼ぼうかと思うんだ。バックに衣織お姉さんたちがいると分かれば、手を出しづらくなるだろうからね」
「なるほど……」
ラティナさんとの話を終えた僕は、すぐに携帯電話を取り出して衣織お姉さんに連絡を入れる。多分嫌だというだろうけど、僕からの頼みであるならきっと断わらないと思う。衣織お姉さんはそのくらい僕に嫌われることを恐れているからね。
うん、やっぱり渋ってはいたけど、いろいろ条件を付けることで了承してくれた。となると、明日は服を替えなきゃいけないなぁ。ダンジョンポイントがもったいないけれど、衣織お姉さんのという強力なカードを使わない手はない。そのためなら、100ポイントくらい惜しくはないよ。
だって、何かトラブルがあれば、僕のファンを失うってことになりかねないんだもん。500万ポイントを貯めなきゃいけない以上、1ポイントでも取りこぼしが出たらきついからね。ファンは守らなくっちゃ。
「さて、連絡も済んだことだし、夕食の差し入れだけして僕たちも休もうか」
「はい、そうですね。ちょっといろいろあったので疲れてしまいましたもの」
ラティナさんはそう言うと、大きなあくびをしながら奥の隠し部屋へと向かっていった。
僕は島谷さんたちに差し入れをしなきゃいけないから、もうちょっと眠れない。ダンジョンポイントを使って食事を用意すると、僕は三人に差し入れをしておいた。
三人は僕からの差し入れを受け取る時、なぜか泣いていた。いや、そんなに感動するところなのかな。泊まるように言ったのは僕だから、このくらいは当然だと思ったんだけど、どうにもよく分からない。
戸惑ったものだけど、僕はお休みの挨拶をして部屋まで戻っていった。
翌日、目を覚ました僕は、服を着替えることにする。
衣織お姉さんから新しい服を見せてほしいという交換条件を出されたので、それに応じる形での着替えだ。
ラミアプリンセスになってからだいぶ経っているためか、僕は女性の服装を着ることにまったくといっていいくらい抵抗がなくなっていた。
「うん、これでいいかな」
僕はドレスを出して着替える。体が体ゆえに、頭からすっぽりじゃないといけないのは地味につらい。
今日のドレスは肩の大きく開いたものだ。ダンジョンの中は気温が一定になっているのか、不思議と寒くはない。
「まあ、そのようなお姿ですと、プリンセスらしさが一段と出ますね」
「う、うん、まあ。僕は元々男子なので、あんまりこういうのは好きではないんですけどね。最近はだいぶ慣れましたけど」
「そうなのですね。それで喋り方が少し変わってらしたのですね」
「うーん、何度か話したと思うんですけどね……?」
ラティナさんの反応に、僕は苦笑いをするばかりだった。
このあと衣織お姉さんがやって来たので、島谷さんたち三人を預けて僕たちは送り出すことにする。
その際だった。ラティナさんが三人に何かを渡していた。
「何を渡したんですか?」
「私のスキルで生み出した護石です。災いから身を守って下さいと願いを込めておきました」
「あっ、そういうスキルがあるんですか」
「はい。ロックウェル家の直伝のスキルです」
僕が聞き返すと、ラティナさんはそう言って微笑んでいた。
こうして、初めての視聴者さんたちの訪問が終わったわけだけど、心配になってどうにも落ち着かない。
でも、ダンジョンから出られない僕たちには、何事もないことをただ祈ることしかできなかったよ。




