第4話『元ホスト、ライバル登場♡』
八女の町に、新しい風が吹いた。
ガラス張りのカフェ《RINDOU TEA STAND》。
中では、抹茶を点てる音と、ポップな音楽。
――まるでクラブと茶室の融合。
その中心に立つ男は、白いシャツの袖をまくり、茶筅をリズムよく回していた。
「Ladies & Gentlemen、ショータイム抹茶、始めまーす!」
ライトが照らす中、茶碗に泡が立ち、金箔が舞う。
観客が歓声を上げる。
「……あいかわらず、派手だな。」
入口からその様子を見ていたのは、黒瀬蓮。
カウンターの奥で気づいた男――竜胆が、ニヤリと笑う。
「おぉ、蓮。まさか八女で再会するとはな。」
「こっちのセリフですよ、竜胆さん♡」
二人の目が交わる。
かつて《ECLIPSE》でNo.1とNo.2として競い合った伝説のホストコンビ。
今は“茶”で再戦する運命だった。
⸻
後日、地元商店街主催で「八女茶フェスティバル」が開催された。
話題を呼ぶため、特別企画が決まる。
――《元ホスト対決! 茶で人を癒すのはどっち?》
司会の声が響き、観客が集まる。
先攻は竜胆。音楽に合わせて点てる抹茶は、まるでパフォーマンス。
「みんなのハートを泡立てろ!」
観客がスマホを構え、SNSは爆発的に拡散された。
次は蓮の番。
静寂。
音楽もライトもない。
ただ、湯が落ちる音だけが響く。
「八女茶入りま〜す♡ ……貴方の心、静かにリセットで。」
湯気が立ちのぼる。
香りが風に溶ける。
観客が息を呑んだ。
――派手さは、ない。けれど、温かい。
蓮の目の前に座っていたのは、美結だった。
彼女は一口、茶を口に含む。
そして、ぽたりと涙が落ちた。
「……あなたの茶、心が喋ってますね。」
その声は震えていた。
竜胆が腕を組み、低く笑う。
「チッ、やっぱNo.1のままだな。」
蓮は柔らかく笑う。
「俺は、ランキングより“体温”で勝負してるんで♡」
⸻
対決後、裏で二人が肩を並べて立つ。
竜胆が缶の抹茶ラテを差し出した。
「……昔、お前、こういう甘いの飲まなかったよな。」
「今は、苦味の中に甘さを探すのが好きなんすよ。」
「お前、変わったな。夜の頃より、穏やかになった。」
「茶のおかげですよ。心を“冷ます”技、覚えましたから。」
竜胆はしばらく黙ってから、微笑んだ。
「……いいな、それ。俺も“温める”ばっかじゃなく、“冷ます”学んでみるか。」
「いつでも稽古付き合いますよ♡」
⸻
夜、蓮は縁側で茶を点てながら呟いた。
「盛り上げる茶も、悪くない。でも……俺が淹れたいのは、“落ち着く恋”かな。」
マメが膝に乗り、喉を鳴らす。
「にゃぁ。」
「そうそう、お前も“癒しの達人”やけんね♡」
茶の香りが、夜風に乗って広がる。
八女の星空の下で、蓮はまた一歩、“茶人”として進んでいた。




