僕の話
僕の話をしよう。
◆◇◆◇◆
僕には思い出せない記憶がある。
う〜ん、空白の時間があると言ったほうがいいかもしれない。
◆◇◆◇◆
空白の時間の前。
僕は、弟が神さまに会えると聞いて自分も会いたいと言って駄々をこねていた。
孤児院の先生は泣いていて、ベッドに横になっている弟をぎゅっと抱きしめていた。
ずるいよ。
弟はどうして神さまに会えるの?
先生が言った。
あの子は、天使だからね。
きっと弟は羽を持っているのだろう。見たことはないけれど。
僕も羽がほしい。
そして、羽を探し回ってとうとう見つからないかもしれないと泣き喚いた。
そこまでは覚えている。
しかし、後の記憶は消えていた。
◆◇◆◇◆
空白の時間の後。
僕はベットの上に寝ていた。
背中がいたい、苦しい。
背中には包帯が巻かれ、先生が泣きながら僕を見下ろしていた。
泣き笑いの顔になると、僕を抱きしめて、何かを口にした。
――すまない。
あまりにも小さいその声は、僕の耳には入らなかった。
すこし落ち着いた僕は、弟を探した。
弟はいつもずっとベッドから出ずに遊んでいたから、すぐに捕まるはずだ。
僕が神さまに会えないなら、弟を引き止めて神さまに会えなくしてやる。
でも、弟は居なかった。
神さまに連れて行ってもらえたんだって。