ある堕天使の回想
なんか続きを書いてしまったので、再投。
ある堕天使の回想。
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私の愛する人には大きな傷があった。
肩甲骨を大きく裂いたような鋭い傷が。
◆◇◆◇◆
日曜日。教会に祈りを捧げに行く。
彼は誰よりも早く来ているのにもかかわらず、一番後ろの席にひっそりと座っている。
朝日が照り込み、十字架を反射した光が彼に注いでいる。
私はこの瞬間がとても好きだ。彼は、ピッタリと膝を合わせ、十字架をひたむきに見つめている。
その瞳は穏やかな湖のように美しく、優しい愛をたたえているような気がして。
◆◇◆◇◆
彼は、孤児院で育ち、そこを切り盛りしている。
あの傷が痛むのだろう。彼は、暇さえあれば体を横たえている。
晴れの日、子どもたちと畑を作る。
協会からの補助金を貰いに行く。
子どもたちに引き取り手が見つかる日もある。
雨の日、子どもたちに本を読み聞かせ、文字を教える。
この生活に満足している。
そう彼は言った。
でも、穏やかな日常のなかで、彼が苦しんでいるのを私は知っている。
彼の持つ傷は労働には耐えられないほどに悪化している。
毎夜満月が彼を照らし、背中の傷はジクジクと痛みを主張した。
◆◇◆◇◆
それでも私は手を伸ばすことができない。
私はもう、神ではないのだから。
(*´ω`*)