第7話 意外な反響
(あー…ねみぃ…)
シーズン開幕前最後の公式練習を終えたのはつい昨日のことだ。
まだこれからだ、などといっておきながら密かに喜んでいた俺は昨日、嬉しさのあまり寝れなかった。
(いや、落ち着け俺。まだシーズン始まってすらいないんだぞ)
そう思っていつもの通り、教室の扉をスライドさせる。そうすればいつもの通りの光景が広がっている…はずだった。
「あ、岡田だ」
クラスの1人のその声を皮切りに人がどんどんよってきた。
「昨日のあれみたぞ!トップタイムとかすげぇな!」
「試合はいつからは始まるんだ?」
「岡田くんと一緒にいたもう1人のドライバー、喜んでるところがめっちゃ可愛くてお話できればなと思ってるんだけど紹介してくれる?」
など、多くの賞賛の声と一部の不埒な声に
「おう」とか「考えとく」などと自分でもわかるくらいぎこちなく返してからようやく自席についた。
そして太陽が真上に来た頃。
僕たちKONは校内にあるウッドデッキの一角で昼食を広げながら情報交換…と言う名の愚痴り合いを始めた。
「マージで何なんだあれ…」
大祐も相当な目にあったらしい。珍しくぐったりとしている。
「ご愁傷さま…お互いに…」
「ホントだよ。なんでこうも皆知ってるんだ?」
「ふぉれなんへじょひからなじょにかりゃまれたじょ
(俺なんて謎に女子に絡まれたぞ)」
「「食べながら喋るな」」
「ふまん
(すまん)」
「創一の件はさておき、なんでだろうね」
「ネットじゃないか?ゲームがこうも発展したとはいえ流石に日常生活で頻繁にVR機器は使わないし、そもそも持ってる人が珍しいからさ」
チームメイトの言葉をヒントにメガネに手を当て、内部に組み込まれた小型コンピュータを起動させる。小さな声で検索をかけるとそれはヒットした。
「…あ、創一のヤマカンがあたってる」
「ヤマカンとはなんだよヤマカンとは」
「いや今そこ論点じゃねぇから。
…んで?なんて出たんだ?」
僕は今ネット界隈で思いの外VGTが話題になっていること、サーズがその様子を基本無料で配信していることがそれに拍車をかけていることを簡潔に伝えた。
「なるほどな…そりゃこうなるわけだ」
「けどなんでこうも急に?」
「そりゃ日本では海外ほどモータリゼーションが進んでないからね」
「もーた…?」
「創一…中学で習わなかったの…?」
モータリゼーション。車社会化ともいい、その名の通り車が生活の必需品となることだ。日本では治安やサービス制度の良さから電車やバスなどの公共交通機関がどちらかといえば使われているためあまり進んでいないというわけなんだけど…
「まぁ、端的に言えば日本人にとって車は特にティーンエイジャーには馴染みのないものだからモータースポーツは敬遠されがちだったってこと」
「なるほど。でそれが今回のサーズのコンテストによって変わったためこうなったと」
「そうだ。
…つまり俺等はそれによるミーハーも今後対処していかなきゃならんってことだ」
「…まぁそこも含めてレーサーに近い体験をってことで…」
「こんなとこまでリアルに再現されてたまるかぁ!!」
彼の叫びは虚しく響くばかりだった。