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VirtualGT(改)  作者: ラドロ
シーズン1
6/11

第6話 着々と進む準備 公式練習 in富士

岡山の練習の後10分間の休憩を挟んだあと再びダイブするとそこは別のサーキットだった。見回すとここはガレージのようだ。後ろには俺たちのNSXがある。そう思っていると

「よう、春樹。どうした?」

「おう、兄貴。なんでもねえよ」

と言葉をかわし、兄におくれてガレージに入った。ここは富士スピードウェイ。2回目の公式練習の舞台にして、ここでの1時間が最後の空力パーツを調整できる時間だ。俺たちの直近の課題は

「んで?どうやって重心を前にするんだ?」

そう。岡山での練習の最後にあったモジューロのクラッシュ。あれはNSX-GTのエンジンがMRでーーコックピットの後方にあることによって重心が後ろによってしまいコーナーで立ち上がりが安定しないのが原因であると思われ、うちのNSXもMRなのだ。

「安パイなのはブレーキの重心を前に寄せてバランスを取ることだ」

そういったのは監督兼エンジニアの森田帆高だ。俺は帆高に向かって反論する

「けどそうするとブレーキもフロントタイヤもあっという間に摩耗してしまうぞ?」

「ならどうするんだよ。空力パーツで前後のバランスは取ったんだぞ?」

ぐっ、と言葉に詰まる。フロントにブレーキを寄せるとフロントタイヤにより強くブレーキが働くのでブレーキを掛けるパーツもかけられるタイヤも負荷がでかい。しかしブレーキのバランスを取り空力パーツによるダウンフォースでフロントに重心を寄せると空力パーツの空気抵抗、トラッグでストレートスピードが半減してしまう。どうしたものか…なにか別の発想が必要だ、と思っていると突如エンジン音が響いた。外を見ると1台のマシンがガレージからピットに出てくる。前回2番手のタイムを叩き出したKONGT-Rだ。NPCがガレージから押し出し、向きをピットロードに平行になるようにするとドライバーが乗り込む。しばらくするとジャッキが抜かれ、マシンが地面に降りる。その時サスペンションによってマシン本体が少しバウンドする。それを見ていた時頭に一つのアイデアが浮かんだ。

「なあ。サスペンションに手を加えられるか?」

「硬さだけならできなくはないが…なぜ?」

「フロントは柔らかくして、リアは固くすることでコーナーのときだけ慣性で重心が前にずれるようにするんだよ!」

これに帆高と大輝は反対しないわけがなかった。早速修正に取り掛かった。



(まさかサスに目をつけるとはな。)

そう思いながら俺はパネルを操作する。修正に取り掛かったのは5分前のこと。先に乗り込む予定の大輝はレーシングスーツに身を包みヘルメットを着用している。こちらの操作にミスがないかだけ再確認すると声をかけた。

「マシン、準備できたぞ!」

「OK。こっちももう乗れる」

そう返事すると彼は表情を引き締め、コックピットに乗り込んだ。KONから遅れること7分、練習が始まって10分。タキオンNSXはエンジンを起動しガレージから出た。俺と春樹はすぐさまガレージからでてピットロードの向こうにあるモニターへと駆け寄る。画面にはピットアウトする1台のNSXが映っており、そのすぐとなりをもう1周目を終えたGT-Rが通過してゆく。今の所、コース上に出ているのは2台だけだ。早速無線で指示を飛ばす。

「大輝、大輝。聞こえるか?」

「…ああ。聞こえる」

「よし。とりあえずこの周はしっかりタイヤを温めてくれ。そして2、3周目に1回アタック。問題がないようならば行けるだけ走ったあと最大で10周でピットイン」

「了解」

そうやりとりをすると無線を切る。

そしてそれから少しした後、一気に残りのマシンがピットアウトしてゆく。こちらもカスタマイズを終えたのだろう。するとその1周目からハプニングが連続した。まずVRレーシングZが100Rという半楕円形の高速コーナーでスピン、コースオフを喫した。つぎにBコーナー ーー詳しくは後ほどーーでタイヤの温まり切っていないNTTLC500がブレーキングミスをして止まりきれず、姉妹チームである楽天LC500に軽く接触した後2台揃ってコースアウトした。しかし大輝はそんな他車を尻目にタイムアタックを始めた。

まず世界最長の長さを誇る1.5キロのメインストレートをフルスロットルで駆け抜けた後、一気に1コーナーで急減速する。右に鋭角ターンを決め、下り坂を少し下るとすこしだけ右にマシンを寄せた後今度は少しのストレートを経て左コーナーに差し掛かった。わずかに減速するとスムーズに左に方向転換し100Rに突入した。半楕円形であるため横Gが激しい上にコースの外側に向かって傾斜しているためうまく制御できるのか…と見つめているとリアを滑らせることすらなく完璧に抜けた。そして今度は左ヘアピン。再び一気に減速し左にマシンの向きを変えると素早く立ち上がる。すると短い直線を抜けて右になだらかに道がカーブしておりマシンもそれに沿ってコーナリングする。その先にはやや角度のついた下り坂を抜けてBコーナーに入る。それまで少しスピードが乗り気味だったマシンが再び1コーナーと同じスピードにまで落ちる。そして右に左にとまがったシケインをゆっくりと抜けると少し大回りな右コーナーが現れる。それを急加速しながら通過するとそこからは上り坂となっている。大輝はNSXの強みである加速力を生かしてスピードを取り戻し、緩やかな左コーナーに入る。そして短めの直線を抜けると最終コーナー。ヘアピンじみたコーナーを抜けるとそこには再び1.5キロのメインストレートだ。ぐんぐんとスピードを上げ目にも留まらぬ速さでコントロールラインを通過する。そこに最高速度とタイムが表示された。それを無線で伝える。

「大輝、今のラップ1分25秒7。1分25秒7。最高速度は297キロ出てたよ。その調子で…」

そこまでで言葉を失う。KONGT-Rが最終コーナーを立ち上がっていたのだ。大輝の最終コーナーまでのラップより速いタイムで。

無言でGT-Rの加速を見守る。GT-Rがパッシングしながらコントロールラインを通過した。タイムは1分25秒1、最高スピードは302キロ。

「馬鹿な…!!」

無線が繋がっているのも忘れて呻く。大輝が訝しげに

「どうした?」

と聞いてくる。タイムと最高速度を伝えると

「はあ!?どういうことだよ!」

と叫び声が返ってきた。実況も大騒ぎだ。無理もない。彼らは前回自分たちに負けたカスタムそのままで走っておりこちらは前回よりも確実に速く安定したカスタムに変わっているのにコンマ6も早いということだからだ。

そしてここから熾烈なタイム争いが幕を開ける。他の周回遅れを大輝は強引にオーバーテイクし周回を重ねるが、焦りが募るのか、リアを滑らせたりさせ結果としてタイムは自己ベストすら上回れない。そして7周目も後半に差し掛かる所。Bコーナー以降で1台の周回遅れに長いことひっかかってしまった。そして真後ろに冷静に処理してきていたGT-Rがせまる。すると大輝がこれまでにない怒声を上げる。

「なにしてんだこのスープラは!!KON来てんじゃねえか!!」

「落ち着け大輝。無理に行っても事故るだけだ」

最終コーナーでなんとか周回遅れのスープラをオーバーテイクする。しかしKONも並びかけた。三台が同時に横並びになる…

『スリーワイドだ!スープラ、NSX、さらにはGT-Rが並んでホームストレート!!並んで並んでストレート!少しGT−Rが頭一つ分前に出る!!』

実況の声に実際のレースみたいだな…と、考えて気付く。

「大輝!GT-Rに前譲れ!これはレースではなく練習だ!」

するとそれで我に返ったのかNSXのテールランプが赤く点灯する。しかしその急ブレーキが仇となり

『あああーー!!タキオンNSXがタイヤをロックさせ、白煙を上げながらコースオフ!』

思わず頭を抱えた。



『タキオンNSXがタイヤをロックさせ、白煙を上げながらコースオフ!』

これを聞いた時俺はもう動いていた。レーシングスーツを手早く着ると無線で

「兄貴。ピット戻って」

とだけ声をかけヘルメットもかぶる。2分ほどして漆黒と麹色の車体を砂で汚したNSXがピットに戻ってきた。すぐさまドアを開け、マシンに体を滑り込ませる。シートベルトを締め、NPCによる給油とタイヤ交換が終えられたのを確認するとスタートボタンを押しエンジンを始動、ピットを出発した。

「GT-Rのタイムと現在位置を教えてくれ」

「最速タイムは変わらず1分25秒1。現在最終コーナーを立ち上がって…ピット入った。多分ドライバー交代だな」

「了解。絶対抜いてやる」

そう意気込んでコースへ復帰し、最終的に15周、時間にして30分周回してきたが結果的にタイムで上回ることはできなかった。



幸い今回は自他共に大きな事故や中断もなく練習を終えることができた。初めてのチェッカー通過に俺は密かにわけもなく興奮していた。アクセルを踏み、インジケータの電球が全て点灯するたびにパドルでシフトアップする。序盤に記録した最高速度302kmを上回ることはできなかったがまあ十分な成果だろう、そう思ってチェッカーを受けると

「創一おめでとう」

「ん?何が?」

「お前のラップタイムは1分24秒8でVGTのコースレコード。この練習でトップだ」

「マジ?!やったぁ!」

思わぬ朗報に左拳を上に突き上げる。パッシングと意味もないがウイニングもしておく。

そして幻のウイニングランを終え、ピットに戻ると横に正宏と大祐が待ち構えていた。

降りると無言で互いの手を握る。喜びで腕が震える。

「言っとくがまだこれからだからな」

「わかってるわ」

そう軽口を叩きながら喜びを噛み締め、VR世界を後にした。

(続く)

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