第2話 ベールを脱いだマシンたち
参戦決定から1ヶ月後。俺はとある会場に足を運んでいた。その両隣にはチームメイトとなる、正宏と彼が連れてきた岡田大祐という男がいた(実は一ヶ月前のあの昼休みに対面し、話をしたのだが偉そうなヤツとしか覚えることができなかった)。この会場はVGTに参戦を決めた者たちがマシンを選択し、 エントリーを確定させるための場だという。そしてそのマシンはVRで見るとのこと。ということで係員の指示に従って俺たちはゴーグルを被ってVR世界へと入った(その前になにやらマシンの説明があったが全くわからなかったので後に教えてもらうことにした)。入る瞬間、体から力が抜けていき精神だけが持っていかれる感覚があったのち視界が暗転した。
次に目を覚ましたときに映った景色は
「…ガレージ?」
「計6つのガレージで、一つに一台、マシンとその説明があるってよ」
そう答えたのは大祐だ。
「多分わかってないだろうから説明するがここにはホンダ、トヨタ、ニッサンの3つのメーカーのマシンが二台ずつ収められている。俺たちはそこから一台を選んでレースに参加する」
そういって彼らは一番手前のガレージへと足を運ぶ。俺も遅れてついていくと自動ドアと同じ仕組みなのかシャッターが自動で上がっていく。すると見えてきたのは縦長の、白一色のマシンだった。端にはたくさんのパーツが付いており、後ろには横長の板のような部品が付いている。視線を合わせると、視界の上部に水色のパネルが表示される。コンマ一秒遅れて「LEXUS LC500」と表示された。
「…レクスエルシー500?」
とつぶやくと
「レクサス、だね」
訂正したのは正宏だ。
「トヨタ勢のマシンの一台でストレートは速くコーナーでもスムーズに動くからかなり強い。ただ燃料の消耗がわずかに早いかな」
正宏の説明になるほどな…と思っていると
「…よし、次行こう」
と大祐が言いながらガレージを出てしまった。早くね?と思っていたがそんな感じで他の五台も見て回り、以下のように知識を頭に叩き込んだ。ちなみにこれらの特徴はSGTでの特徴らしい。
・トヨタGRスープラ…直線の速さは六台の中で最速だがコーナーは速くない。
・ホンダNSX-GT…唯一エンジンがコックピットの後ろにあるMR車。タイヤのベストパフォーマンスがより早めに引き出せるが、コーナーの立ち上がりが安定しないうえ、タイヤの摩耗が最も進みやすい。
・ホンダNSX-typeS…NSX-GTのエンジンをコックピットの前に置き換えたもの。一発の速さはピカイチでコーナーも速く安定しているがストレートスピードが伸びない。
・ニッサンGT-R NISMO…コーナー最速のマシンでストレートが最も遅いマシン。タイヤが摩耗してもバランスが維持できるので安定して走ることができる
・ニッサン Z(新型)…最もバランスに優れているマシン。しかし尖った速さはない。
そんなこんなで時間が経過し、現実世界に戻された。ここから十分の話し合いの末エントリーを確定させる。
「マシンはZを使うのかな?」と聞くと2人は
「「違う」」
と即答した。ついでにNSXでもない、と付け加えられた。では何なのか、と聞くと
「ニッサンGT-Rを使う」
と大祐は答えた。俺は一瞬理解ができなかった。
「な、なんで?あ、もしかしてサーキットの多くがコーナースピードのほうが大事とか…」
「違う」
「本来ならZとかを使うけどね。今回はむしろ弱いマシンを選ぶんだ」
「…?」
「GT-Rを筆頭とした一部のマシンが弱いと思われる要因は空力パーツにある」
「ああ。マシンの横とかにたくさんついている羽みたいなパーツか?」
「そうだ。特にGT-Rは高いマシンスペックを持ちながらその空力パーツのバランスが悪くさっきも述べたとおり非常に弱いマシンに仕上がってしまった。そして今回俺らはマシンの空力パーツをアレンジして参加することが義務付けられている」
大祐の説明を聞き、ようやく俺も理解する。
「ああ。なるほど。完成度の高いマシンをいじって下手にバランス崩すよりは失敗したマシンを改善させるほうが安全だし強いというわけか」
「そうそう。だからGT-Rにしようってなったわけ」
と正宏も肯定する。そしてマシンも決定しチーム名だが…
「川口に岡田に野田だから、イニシャルとってKONでいいんじゃない?」
ということで非常にスムーズに決定した。ついに本格的に大会準備が始まることとなり、ワクワクが抑えきれない俺たち三人だった。