世界を救ってもいいですか?
いきなり転生した元自宅警備員の「俺」。
どうやら悪の教団に召喚されたっぽい。
そしてどうやら勇者枠。
どうすればいい?
俺は勇者ミーム。
気がついたらこの世界に来ていた。
前世のことはおぼろげながらおぼえている。
日本のどこかの小都市でニート、もとい、自宅警備員をしていた。
ネットで求職しつつ、ぶら下がり健康器とダンベルで体を鍛える、大いなる未来に備えた日々。
そう、自宅警備員とは、何もしない人ではなくきちんと警備活動をしている人をさす言葉なのだ。
そして、趣味は動画鑑賞とネットサーフィンと近所の散歩だった。
栄養にも気をつけて三食カプメンにならないようには気をつけていた。
憶えているのはそんなことくらいだ。
転生(?)以前のことは、頭に霞がかかったようにぼんやりして思い出せない。
目覚めたのは、暗くジメジメとした聖堂の中だった。
周りには黒いローブをかぶった怪しげな修道士が何人か並んでいて、「よく来たな、勇者よ」とかなんとか言っていた。
〈人を見た目で判断してはならない〉とはよく言われることだが、どう見てもあやしい集団った。
そして、二言目には、「死ね!」だった。
爺さんっぽいのがよろよろと短剣を突き出してきたので、手首を取ってひねって逆にした。
武術講座の動画を見てたからとっさに技が出てしまったのだ。
……なんか弱かった。手首がポキッと鳴って妙な反動があった。
そして、思わず突き飛ばすとそこは魔法陣の真ん中だった。
爺さんっぽいののローブがはずれた。
ヤギの顔があらわになった。
そう、あの長方形で水平な瞳孔をもった草食動物の顔だ。
マジマジと観察する間もなく別の一人が襲いかかってきた。
蹴り飛ばした。
腹にまともに入った。
そのローブを着た何かは壁まですっ飛んでいって背中をぶつけて崩れ落ちた。
そいつはハエの顔をしていた。
……なんだこいつらは。世界びっくり人間教団か何かか!
「さすがは勇者、手ごわいぞ!」
「だが、我らホニャララ教団の手の内にあるうちは、逃がしはせぬ」
ホニャララ教団……少なくとも俺の耳にはそう聞こえた。
敵が距離をとったので、何か武器はないかとあたりを見回す。
手頃な得物……
あ、向こうにある祭壇に刺さっているのは……
いかにもイワク因縁がありそうな長剣だった。
正統派のRPGに出てきそうな立派な剣。
……走れば手に取れるか!
が、敵もその考えに気づいたのだろう、祭壇を守るように配置を変える。
手にはボウガンとか殺傷力の高そうな武器を持っている。祭壇の影から取り出したらしい。
……やんぬるかな!
そう観念した時……
閃光と爆煙があたりを包み込んだ。
「そこまでよ! ホニャララ教団!」
「お前たちの陰謀はお見通しだ!」
「悪即斬!」
いかにもな勇者パーティーが登場した。
煙の間から我々の緊張した対峙が見て取れたのだろう、勇者パーティーもしばし固まる。
動いたのはホニャララの連中だった。
俺に向けていたボウガンを、新たなる闖入者に向けて……
ビュン、バシッ、「ぐわー!」
勇者パーティーが初弾の犠牲になってくれた。
……すまない見知らぬ人々。君たちの犠牲は無駄にはしない!
俺は、剣に向かって走った。
というか、跳躍した。
感覚で言えば地球人が月に行った感じか。
途中、手を伸ばした来た黒ローブがいたので、その手は蹴り飛ばした。
もう一人が剣をかばうかのように動いたので……
俺はもろにそいつとぶつかって、そいつは剣にぶつかった。
青い血が吹き出した。
……ヘモグロビンではなくてヘモシアニン!?
案の定、そいつはイカの頭をしていた。
俺は長剣の束に手をかけて引き抜こうとした。
パーティーの一人、一番勇者っぽいのが叫んだ。
「やーめーてー!」
武器を確保するのは戦闘の常識。俺は構わず剣を引き抜いた。
あたり一面にまばゆい光が放たれた。
「愚かよ、愚かなり勇者よ!」
黒ローブの誰かが天井をあおいで両手を挙げ……
天井から落ちてきた石の塊につぶされた。
聖堂の床に記された魔法陣からも激しい光が吹き出した。
グモモモモ……
湾曲した角、ごつごつした額、ぎょろりとした三白眼……
牛だった。
普通の牛の何倍もありそうな、巨大な牛の頭だった。
「あーあ、出しちゃったよ、大魔王」
勇者パーティーの魔道士っぽい女の子がつぶやいた。
※先頭の一文字下げは省略しています。本になったら下げてね。