第一村人発見?
さて・・・・
スキルを実際に使って確認しておきたい。
でも、このスキルって死体が無いと確かめようがないよな?
この場に死体は無いし、実験は後回しにするしかなさそうだ。
ううーん。
ここにもっと枯れ葉を集めれば快適な寝床が出来るし、ここを当面の拠点にするのも悪く無いか。
じゃあ、一旦ここに荷物を置いて、周囲の探索と町や村へ情報収集しておこう。
要望通りであれば、近くに人の住む場所があるハズだ。
探索中に死体や魂を見つける事が出来るかもしれないし、町や村が見つかれば墓場は確実あるだろう。
早めにスキルは試しておきたい。
足元にリュックを置くと、枯れ葉を被せて枯れ葉の中に隠した。
ベルトに挿したナイフを使って、近くの木に刃を立てて傷を付けておく。
木にはナイフの傷を×の形に刻んだ。
凝った形にする必要もないしな。
まぁ、これを付けて移動すれば目印にぐらいにはなるだろう。
小まめに目印を作りながら、林の切れ目を目指して歩く。
林はかなり平坦な場所にあるらしく、木々の間からでもかなり先の方まで見通せた。
枯れ葉を踏みしめながら少し適当に進んでみると、左手の奥の方に明るくなっている地面が見える。
あそこからが林の外っぽいな?
俺はその明るい方へと進んでみる事にする。
お?
暫く進むと林が終わり、岩だらけの草原と灰色の土で出来た道が現れた。
道の幅は3m程で、固い土の上には薄く砂が敷いてある。
へぇ、大きな凸凹も無いのか。
結構広い道だけに、要衝を繋ぐ街道なんじゃないのか?
こんなもん、どうやって整備したんだろ・・・
道の上に立って周囲を見回していると、空に大きな恒星がある事に気が付いた。
あれがこの世界の太陽か?
そう言えば、使徒リブラは別の世界って言ってたっけ。
だとすると、この星の一日は何時間なんだろう?
違う惑星なのであれば、自転周期や公転周期は地球と同じではないハズだ。
自転は一日の長さ、公転は一年の長さになる。
それと、衛星の有無は知っておきたい。
衛星があるか無いかで潮の満ち引きが変わる。
まさか、世界の果てがあったりする様な、お盆みたいな世界だったりはしないだろうしな。
それは、追々この世界の人から聞くしかないか・・・・
林から街道へと出た場所に、ナイフで木に×を刻み目印を付けておく。
何かあったら一旦戻って来ればいいだろう。
まずは手ぶらで、近くにあるだろう町か村の様子を調べたい。
何かあっても逃げられる様に身軽にしておきたいからだ。
この道を辿って行けば、人のいる場所に着くだろうしな。
道の先はどちらも似たような景色に見える。
なら、どっちに行くか・・・・
俺は迷った時は右に行くと決めている。
この印を付けた場所から1km程進んで、何も無ければ反対方向に行ってみるつもりだ。
考える時間が無駄だと思っているだけの話なんだけどね。
俺は林から出た場所から見て、道を右に進む事にした。
幅は3m程の平坦な道を周囲や足元を確認しながら歩きだす。
ザッザッ
足元をサンダルで確かめてみると、感触はかなり固い。
薄っすらと砂を敷き詰めているが、その下ははコンクリートみたいに白くて硬かった。
土木技術は中世ヨーロッパよりも進んでるんじゃないのか?
その当時でもレンガと天然コンクリートで固めた道路は、町の中ぐらいだったハズだしな。
この道路にはかなりの技術と労力が掛かってるんじゃなかろうか・・・
まぁ、魔法やスキルのある世界だし、これぐらいの事は出来てもおかしくないのかもしれないけどさ。
道の上を暫くの間歩いていると、道路右手側前方の奥の方に柵らしき物が見えて来た。
おっ?
柵の向こうには、いくつもの四角く区切られた茶色の区画が見える。
あれは畑か?
俺は周囲を警戒しながら、道を更に進んだ。
柵の近くまでくると、茶色く腰ぐらいの高さの植物が、等間隔で整然と並んでいる光景が目に入って来た。
何の畑だ?
畑に近寄ってみると、どの草の先にもネコジャラシみたいな穂が付いている。
小麦っぽいな?
穂が付いたままで全体が茶色くなっている。
収穫寸前の小麦だろうな。
あれ?
確か麦の収穫時期って初夏じゃなかったっけ?
・・・いや、春に植えて秋に収穫する春小麦か。
大規模な麦畑があるって事は、この地域の主食はパンなのだろう。
麦畑を右手に見ながら道路を歩いていると、畑の先に木製の一際高い柵が囲う区画が見えて来た。
丈夫そうな柵の向こうにはいくつもの屋根が見え、煮炊きと思われる煙も立ち昇っているのが見える。
柵越しに見える屋根の数は20軒ぐらいか。
町と言える規模とも思えないし、このサイズは村かな?
街道から分かれた道が村の入口へと繋がっている。
村の入口には大きな木製の門があり、今は開いていた。
宿場? いや一般的な農村か?
入り口に門番らしい人は誰も立っていない。
この辺りは治安がいいのかな?
さて、どうしよう・・・
いきなり中に入るのはちょっと危険すぎるよな。
もし言葉が通じなければ、不審者として捕まってしまう可能性もある。
ここは、門の出入りが見える場所に隠れて、出入りする人達を少し観察した方がいいだろう。
そう考えて、道路を挟んで村の向かい側にある林の中へと入っていく。
「ん?」
門を観察出来そうな場所を探していると、木の太い枝に座って村の入口を見ている者がいる事に気が付いた。
こちらには背を向けている。
後ろ姿からすると女? いや子供か?
まだ情報収集の段階だし接触は早い、接触は避けて別の場所に移動しよう。
パキッ!
あっ、しまった。
その場を離れようと後ずさりをしたら、枯れ枝を踏んでしまったらしい。
今の音で気付かれたかな?
案の定、枯れ枝の音に反応したのか、木の上にいた者がこちらへと顔を向けた。
少年の様な髪型だが、わずかに胸が膨らんでいる。
髪は短いけど、どうやら女みたいだな。
女はこちらをジッと見つめたまま木の上から動かない。
・・・リアクションは無しか。
まぁ、騒がれるよりはいいか。
だが、どうする・・・・
ここで慌てて逃げたり無言で立ち去った場合、村の入口付近を無言でウロつく不審者って認定される恐れがある。
なら、言葉が通じるかの確認もしたいし、挨拶ぐらいはしてみるか。
俺は2~3歩前に出ると
「やぁ、こんにちは」
と言って声をかけてみた。
女は大きく目を見開くと、音も無く木の枝から落っこちた。
えっ?
驚いた拍子にバランスを崩したのか!?
俺が動き出そうとするよりも速く、女は自分で立ち上がった。
そして、何事も無かったかの様に、こちらへ向かってフラリフラリと歩いて来る。
あれ?
今、枯れ葉の上に落ちた時に・・・・音がしなかったぞ。
『ね、ねぇ』
「な、なんだ?」
女は俺の前で立ち止まると、俺の目の前でゆっくりと手を左右に振った。
俺はその手を警戒しながら身構える。
『えっ! 視線が手を追ってる?・・・・・って事は、ボクの事が見えてるの!?』
「あ、ああ」
『えっ!? もしかして、ボクの言葉が聞こえてるの!?』
「は? いや、当たり前だろう」
『う、嘘・・・・・』
「何を言って・・」
『いやったぁぁぁぁ!!! ボクと話せる人見つけた!』
女は『わーい!』とか言いながら、ピョンピョンと俺の周りを跳ねて回っている。
何を言って・・・何!?
俺達の足元は枯れた落ち葉で埋め尽くされている。
こんなに派手に動き回ればガサガサと音が立つハズだ。
だが、女は目の前で跳ね回っているが、足元から枯れ葉を踏みつける音は聞こえてきていない。
コイツ、何なんだ!?
俺は少し後ずさりながら女に声をかける。
「おい・・・お前、何なんだ?」
俺の言葉が聞こえたのか、跳ね回るのを止めて女はこちらへ戻って来た。
『えっとね・・・ボク、体が無いの』
「はぁ!?」
『体が無いからみんなには見えないの。ほら』
そう言って女は、俺に見せつける様にしてクルリとターンしてみせた。
やはり、足元から枯れ葉を踏みつける音はしない。
足は枯れ葉を踏んでいる様に見えるのにな・・・
女は紺のオーバーオールに、腕を捲った白い長袖のシャツという姿だ。
どこかの食いしん坊か農夫を思わせるいで立ち。
髪型は長めの髪を後ろで二か所結んで、左右に垂らしただけのおさげ髪。
服装はダサいけど、こっちの世界の片田舎ならこんなもんだろう。
顔は整っているがかなり童顔なので、年齢は10代前半にしか見えない。
一人称はボクだが、一応出る所は出ているし性別は女なのだろう。
まぁ、女と表現するにはまだ早い感じだし、少女としておこう。
身長は150cm程度の・・・・んん!?
良く見るとコイツの体、薄っすらと向こう側が透けて見えてる!?
なんか見覚えがあるな、この体の透けてる感じって。
・・・ああ、そうだ。
エンマ様の所いた時の俺が、こんな状態じゃなかったっけ?
そう言えばあの時、エンマ様に『俺は既に死んでいて体の無い状態だ』って言われていたんだよな。
だとしたら、この少女は・・・・?
いや、キチンと確認しておこう。
「お前・・・既に死んでいるのか?」
『それが、わかんないんだ』
俺の質問に困った顔で少女は答えた。
「は?」
『こんな風になる前の事って、全然覚えてないの!」
「ああ、生前の記憶なんて死んだらどんどん薄れてくもんだろうからな、ボケの始まった老人みたいなもんなんだろ」
既に幽霊的なナニカになっちゃって、体はとっくの昔に朽ち果ててるんだろう。
記憶領域である脳みそが無くなってしまえば、記憶が無くなるのは仕方が無い事なんじゃないのか?
『違うよ! ボクがこんな風になるまでの事はちゃんと覚えてるし、地球からこっちにやって来る前の事とかもちゃんと覚えてるもん!』
ん? 地球?
コイツもしかして移住者か?
「お、おい」
とりあえず、確認をしておく必要があるだろう。
『ただ、こんな風になる直前の事だけ覚えてないの。思い出そうとすると、何だかモヤっとした感じになっちゃうんだけどね』
「そうか、確認したい事が・・・」
『でもね! こんな風になってからは、色んな所を回ったんだよ。世界一美しいって言われてる、港町のサン=ブレアンから船に乗って、そこから・・・』