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葬儀屋、異世界に行く  作者: 80000太郎
3/27

ステータス

気が付くと、俺は銀行の対面カウンターみたいな席に座っていて、向かい側には優しそうな顔をした銀髪の男性が座っていた。

えっ? あれっ?


「・・こ」


俺が口を開こうとすると、銀髪の男性がそれを手で制しながら口を開いた。


「ようこそ、神創世界へ、小野孝久君。私は神創世界を管理運営する神々の使徒のリブラだ」

「神創世界・・し、使徒!? あの、よろしくお願いします」


うおっ!

使徒って確か、神様の直属の子分みたいなもんじゃなかったっけ。


「入界に際しての説明をするからよく聞いておいて」

「は、はい」

「さて、君がこれから行くのはは神々が管理運営する"神創世界"という名の実験世界だ」

「実験ですか?」

「ゲームを元に作成した世界を新たに構築したシステムで数値化し、サーバー毎に管理するという試みでね。君が行くのは日本人だけを送り込むエリアだから、私達は別名日本サーバーとも呼んでいるんだ」

「なるほど」

「日本サーバーにおける現地の言語やシステム表示は日本語+和製英語で統一されているから、長さの単位や重さの単位も日本と共通させているんだ。だから新語や流行語でもなければ、大体の単語がこっちの世界でも通用するよ」


おお、言葉が通じるのはありがたい。

一から全部覚えるのなんて何年かかるか分からないしな。


「もしかして、英語圏の人が送り込まれる世界なんてのもあるんですか?」

「ああ、英語圏エリアや中国語エリアなんてのもあるが、そこは担当神が違うから君とは全く関りの無い別の世界さ」

「そうですか」


なるほど、実験世界は他にもいくつかあるらしい。

英語圏の人達の送られる世界では現地の言語は英語って感じなのかな。


「この世界ではあらゆる生物の能力が数値化され、サーバーの管理システムに登録されているんだ」

「管理システムですか・・・」


ゲームを元に作成したシステムってのはどんな感じなんだろう。

イマイチピンと来ないな。

俺が理解出来ない顔をしていると、使徒リブラは打ち込みの手は止めずに言った。


「ふむ、では具体的な物を見せようか。手のひらを見ながら”ステータス”と言ってごらん」


俺は言われるがままに、左の手のひらを見つめ"ステータス"と口にした。


「ステータス」


すると、手のひらの上に青く縁どられた半透明の小窓が浮き上がった。


「うおっ!?」


小窓には何やら文字が浮き出ている。

これって、3Dホログラム?


名前  小野 孝久

職業  無職 LV 0

性別  ♂ 

年齢  28歳

    HP/154

    MP/312


「俺の名前にHP・MPって、これステータス画面ですか!」


ゲームで見たようなレベルにHP・MPの表示。


「画面を直接触ればスクロールできるよ」


スクロール!?

いや、そもそもホログラム画像って触れるの???

俺は半信半疑ながらも、言われた通りに画面へ指を伸ばす。

表示されている画面に指が触れると、その部分が光った。

おお、感触は無いがタッチパネルになってるぞ。

スマホの要領で画面を下へとスクロールさせてみる事にした。

 

力  100/36

俊敏 100/28

知能 100/77

器用 100/68

魔力 200/142

精神 200/168

運  100/5


 魔術

 ----

 精霊術

 ----

 スキル

 ----


あっ!?

この数値ってもしかして・・・


「ええっと、この数値って」

「これは君の能力値を神創世界のシステムで数値化した物だよ」

「やっぱり・・・」

「ふむ、精神と魔力の数値が高いね。魔力・精神力の最高値は200だから、この数値が高いのは今まで得た知識分が上乗せされているからだろう」

「へぇぇ、知識の上乗せがあるんですか」


まぁ、二流とは言え大学までの知識と社会人経験があるしな。

色々と、精神修養を積み重ねてきたおかげとも言える。


「それ以外の肉体的ステータスの最高値は100。まぁ、人間としての限界値だ」

「これが俺の数値・・・・」


なるほど、人間の限界値が100か。

えーっと・・・力も俊敏も低いな。

知能はそれなり器用さは普通か。

魔力と精神力はそれなりに高いっぽいのか。

・・・・うげっ! 運がたった5しか無いじゃん!

おぅふ、ギャンブルは絶対アカン。

いや、それ以前に・・・こんなに運悪くて生き残れるのか?

しかも力の数値はたったの36。

ボディービルダーみたいな鍛え方したヤツを数値100としたら、ロクな運動もしてない俺の数値が36なのは仕方ないのか?


「これらの基礎的なステータス数値って装備やスキルで加算されて変動したりはするけど、肉体の基本値は100っていう上限を超える事は無いよ。あ、魔力と精神のアストラル体の数値上限は200だけどね」

「あれ? レベル表示がありますけど、レベルが上がってもステータスの上昇は無いって事でしょうか?」

「ああ、それは職業(ジョブ)のレベルだね。生物を倒す事によって増えるのはHP・MPと職業経験値だけだから、基礎ステータスを上げるには筋トレしたり走りこんだりするしか無いんだよ」


敵をひたすら倒してたら、神をも超えるステータスになって俺TUEEEEEEにはならないらしい。

まぁ、そりゃそうか。

モンスターを倒しただけで筋力が際限なく上がる世界なんて、人類はすぐに滅ぶだろうしな。


「あの・・・この無職とかって表示されてる所が職業の欄ですか?」


俺自身、いちおう葬儀屋で社員をやっているから無職ではないハズだが、そういう事じゃないんだろう。

けど、定職に就いていた身としては、無職という表示にされるのは何となく嫌な気分だ。


「これは神創世界における職業が表示される欄だね。この世界の人間は成人すると必ず何かしらの職業に、強制的に就かされるシステムになっていてね。今は無職と表示されているけれど、現地に降り立つと職業が表示されているよ」


ゲームで言う所のジョブシステムみたいなもんか。

強制なのはニート防止?

のんびり農家を営むとかはダメなのかな。


「何の職になるかは選べたりしないんですか?」

「現地の人間は10歳になった時に教会でジョブを選べるけど、移住者にその選択肢はないんだ」

「えっ? それは何故でしょう?」


現地の人の方が色々選べて良さそうに見えるけど。


「移住者を保護する為だよ」

「保護?」

「現地の人間は何年も何十年も職業レベルを上げて鍛えているからね、そんな中に普通の職業をレベル1で与えていたら使いこなす前に死んでしまうだろう? だから移住者には使い勝手の良いスキルが使える職業を与えているんだよ」

「おお、それはありがたい」


既に何年も鍛えた職業を持つ現地の人間に対抗できるだけのスキルか。


「移住者の性格や個性や能力を加味して最適な職業を与えているから、現地に着いたら確認してみるといい」

「じゃあ、俺の職業は現地に着くまで判らないって事ですか」

「まぁ、そう言う事だね。だけど、転職は就いている職業が転職可能なレベルに達すれば、後から転職する事も出来るよ。システム上、転職の出来る場所に辿り着くまで無職という訳にもいかないから、こっちで勝手に決めているってもあるんだけどね」


ああ、職業を得る場所の情報を現地で集める所からだと、どんだけかかるのか判らないしな。

だったらそれまでの間、何かの職に就けとけって話にもなるのか。

危険な世界だとは聞いているし、職業は生き残るための生命線なのかもしれない。


「なるほど」

「それから、移住者が最初に神より貰う職業は、移住者のみに与えられる特別な職業だから、十分に職業レベルを上げてから転職する事を勧めるよ」

「あ、判りました」


ふーむ、現地の人には就けないレアジョブってヤツか。

なら、暫くは貰った職業で頑張るしかないな。


「職業に就いていると、職能としてスキル・魔法・精霊術なんかが使える様になるからね。用途はステータス画面をタップして調べれば説明のテキストが表示されるから、活用するといいよ」

「おおっ」


スキルや魔法か・・・それは是非使ってみたい。


「ステータスを閉じる時は”クローズ”と唱える。やってごらん」

「クローズ」


俺は言われたままに唱えると、目の前にあったステータスの画面が消えた。

ゲームのシステム取り入れた世界か・・・・凄いな。


「移住に際して、初期装備一式、一週間分の水と食料、10万円相当の現地通貨、これらをリュックに入れて渡すから。持って行くといい」


足元にはいつの間にか大きなリュックが置いてあった。


「あ、助かります」

「後は・・神創世界でやってはいけない事がいくつかあるから覚えておいて欲しい」

「やってはいけない事ですか?」

「そう、神創世界は意図的に文明の進化を抑え込んでいるから、それを乱す行為は禁止されているんだ」

「えっと具体的にはどういう事が乱す行為になるんでしょうか?」

「火薬・蒸気機関・鉄道・銃・電気機器、これらの知識を伝達したり実際に製造したりする事は禁止だよ。それらを使った戦争が起きたらあっという間に文明が滅びちゃうからね」


なるほど、銃や鉄道があったら世界大戦みたいなのが簡単に起きるだろうしな。


「はい」

「禁止事項を破ると運営の現地監視役に問答無用で殺されちゃうから気を付けてね」

「ひうっ、気を付けます」


監視役なんてのがいるのか。


「と、ここまでは通常の移住者への説明ね」

「ん?」

「さて、現地へ行く君に神創世界の管理者として頼みたい事があるんだけれど」

「何でしょう?」

「この世界のバグを取り除いて欲しいんだ」

「バグ?」


バグって、プログラム上のミスでシステムに異常が出たりするアレだよな。


「神創世界のシステムも完璧とはいかなくてね。所々に人によっては進行不可能になる致命的なバグが見つかったりしているんだ。そのバグを見つけたら積極的に取り除いて欲しいんだよね」

「えっ? 俺がですか」

「うん、ダメかな?」


そう言って管理者リブラはニコッと笑ってみせた。


「ダメっていうか。何で俺なんかに頼むんですか? 筋力36しかなかったりしますし、運に至っては5しか無いんですよ? これ、アッサリ死ぬ確率高いんじゃないですか?」

「ああ、君のその運の数値の低さを見込んでの頼みでもあるんだよ」

「は?」

「神創世界において運はエンカウント率を表すんだ。数値が低ければ低い程に、イベントエンカウントの確率や魔獣とのエンカウント率が上がるんだよ」

「げぇっ!」

「まぁ、逆に運の数値が100近くの人間がいたとしたら、一生イベントに巡り合う事は無いし魔獣との遭遇も殆ど無いんだ。平和な人生を送れるんだろうけどね」

「・・・・随分と極端ですね」

「この数値はギャンブル的な運の要素ではなく、エンカウント率の目安なんだ。だから、デバッグをするにもイベントを発見する事無くスルーしてしまう様な人には頼めないんだ」

「ああ、なるほど・・・」


運100の人は人生に障害も無く緩やかな生涯を送れるけど、運5の俺は波乱万丈に生きる事が決定づけられてるって話らしい。


「どうかな、受けてくれるかい?」

「えっと、そのデバッグは具体的にどんなバグでどんな対処が必要なんですか? それが解らないと返事も出来ません」

「ああ、それもそうだね。悪い悪い。うーん・・・基本的には神創世界を適当に回って、移住者のトラブルに気が付いたら解決の手助けをしてやってくれないか」

「移住者のトラブルがバグなんですか?」

「バグが発生しているのは全て移住者がらみなんだ」

「具体的にはどんな事でしょうか?」

「うーん、困っている移住者を助ける事かもしれないし、スキルを悪用する移住者を処分する事かもしれないんだけど。それを解決する事によってバグが解消すると、エリアマネージャーを担当している上司が言っているんでね」


あ、そうか。

この人は使徒で、その上には使役している上司の神様がいるんだっけ。

まぁ、神創世界に移住したら色々と見て回りたかったし、別にいいか。

神様の依頼を断るのは気が引けるしな。

ここは受けておこう。


「まぁ、俺に出来る範囲の事しか出来ませんけど、それでいいのなら」

「ああ、それで構わないよ。君は神創世界での生存を優先してを欲しい。ほっといても、バグの方から君にエンカウントしてくるだろうから」


まじか! 運5優秀だな!


「・・・分かりました」

「一応、報酬の前渡しとして年齢を少しだけ若返らせておくよ。それと四肢の欠損すらも治る万能薬も報酬の前渡しだ。リュックの中に入れておくから大事に使ってね」

「ありがとうございます」

「さて、それじゃあそろそろ現地に送ろう。転移先に希望はあるかい? 人気のない山奥でも、魔獣の巣でも構わないけど」


何でそんな死亡確率の高そうな場所に・・・

まぁ、選ばせてくれるのなら有難い。

んーー・・・、最初は人がいない場所の方がいいのか?

いや待てよ?

人がいない場所なんかに転移したら、魔獣に遭遇する危険も高いのか。

それに、食料も一週間分だ。

人の生活圏が近くないと、食糧難であっという間に詰む可能性がある。


「人の生活圏の郊外にある村とかの近くでお願いします」

「解った・・・・・では、現地の者とコミュニケーションを取って、上手くやってね」

「はい」

「移住者の職能はかなり強力な物が多いから、最初の一週間さえ乗り切れればその後の生活は何とかなると思うよ」

「解りました」

「では、良い人生を」


使徒リブラの言葉が終わると同時に、視界が歪んだ。

・・・・・・・・


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