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葬儀屋、異世界に行く  作者: 80000太郎
11/27

大道芸

タンタン、タタン、タン、タタタン

タンタン、タタン、タン、タタタン

俺は空洞にくり抜いた木を、スティック状に削った二本の木で叩いてリズムを刻む。

独特のリズムが街の入口近くの広場に広がってゆく。

通行人が不思議そうな顔で、木を叩いてリズムを刻む俺を見る。


「そろそろ頼む」

『リズム崩さないでね』


俺の小声の呟きと同時に、ウサギのぬいぐるみが俺の頭の上に飛び乗った。

”おおっ!!”

こちらへ視線を送っていた人達から驚きの声があがる。

俺は頭の上に乗ったカノンへの文句を我慢し、二本のスティックで同じリズムを刻む。

カノンは宙返りをして木を叩く俺の1メートル程前に着地をすると、リズムに合わせてステップを踏み始める。

タンタン、タタン、タン、タタタン

タンタン、タタン、タン、タタタン

”なんだあれ?”

”ラパンか?”

”人形っぽいぞ”

動くウサギのぬいぐるみが珍しいのか、遠巻きに見物人の輪ができる。


『結構集まったよ』

「よし、始めてくれ」

『オッケー』


リズムに合わせて軽く左右にステップを踏んでいたカノンが、徐々に大きく動き出す。

まずは、アイドルグループの様な手振りを交えた振り付けを踊りを5分程。

それから、パントマイムみたいな動きをリズムに合わせて5分程。

”すごい! ラパンの人形が動いてるぞ”

”どうやって動かしてるんだ?”

"お母さん、ラパンちゃんかわいいねー"

おおーー!! パチパチパチ!!

カノンが決めのポーズで止まると、辺りは歓声に包まれた。


『こんなもんでいいかな?』

「ああ、試しに袋を出してみてくれ」


カノンは見物人達にお辞儀をすると、俺のポケットから袋を取り出し見物人に向けて袋の入口を広げた。

"何だ、金取るのか。まぁ、珍しいもんが見れたし、仕方ねぇ"

"なかなか面白い踊りだったぞ"

"面白かったし。まぁ、いいだろう"

"ラパンちゃんにあげるー"

文句を言いながらお金を入れる人もいれば、正当な対価としてお金を入れる人もいる。

何には親にねだってお金を入れる子供も現れはじめた。

カノンを指さして”ラパン”と言っているみたいだけど、”ラパン”ってのは何だろう。

みんな口々にカノンを指さしてラパンと言ってるんだよな。

もしかして、この世界にはウサギっぽい生き物で”ラパン”てのがいるのかな?

一応覚えておこう。

まぁ、馬車を引いていたのは馬が俺の知ってる馬じゃなかったし、この世界の生物は名前じゃ判断がつかないんだよな。

チャリン、チャリン

袋が小銭で膨らんで来た。

見物客の中からそれなりの人数が、カノンの持つ袋に小銭を入れてくれた様だ。

カノンは見物人をひと回りすると、俺の前に入口を開いたままの袋を置く。

タンタン、タタン、タン、タタタン

タンタン、タタン、タン、タタタン

俺は集金の間もずっとリズムは刻んでいた。

リズムを止めると大道芸が終わったと思って、見物人が散ってしまう気がしたからだ。

思惑通りに集金後も何かあると思っているのか、お金を払った見物客はちゃんと残っている。


「よし、アンコールいくか」

『了解』


リズムに合わせてカノンが再びステップを刻みだす。

タンタン、タタン、タン、タタタン

タンタン、タタン、タン、タタタン

徐々にステップを大きくしてゆくと、カノンはどこかのダンスユニットみたいな踊りを一曲分披露した。

そして、最後は体操の床運動の選手みたいな動きから、側方宙返りや後方宙返りを決めてポーズを決めた。

ほー、上手いな。

コイツ日本での生前は器械体操でもやってたのか?

”おおーー!” 

”すごいぞー!”

”何だあの動きは!”

パチパチパチパチ!

カノンがお辞儀をして俺がリズムを止めると、見物人から一斉に拍手と歓声が起こった。

追加の小銭を袋に入れて行く人が、それなりの数で現れる。

チャリン、チャリン


「ありがとうございます」


俺も立ち上がって頭を下げておいた。

その後は子供たちが「ラパンに触らせて」とお願いしに来たり。

大人たちが「どうやって動かした」のかの質問攻めにあった。

後の騒ぎを治めるのが大変だったが、それなりの稼ぎにはなる事が判ったのは大きな収穫だろう。

もしも、何らかの事情で無一文になっても、大道芸で最低限生きて行くだけの金は稼げるからだ。

この世界で生きて行く上で大きな安心に繋がる。


「よし、この金で食料を買いに行こう」

『うん』


俺達は祝儀袋を回収すると広場を後にした。


村を出発から3日目、俺達はグルナ王国の東端の街アンクールへとやって来ていた。

石の城壁で囲った大きな城塞都市だ。

アルゴール村からアンクールまで移動してみて、判った事がある。

どうやらグルナ王国は小国だが、他の国に比べてかなり治安が良いという事だ。

ここまでの道中で野盗に襲われる事も、魔獣に出くわす事も無かった。

運がたった5の俺がエンカウントしないのだから、相当なもんだろう。

グルナ国の軍は真面目に魔獣を退治し、各地を軍がキッチリと警備しているかららしい。

治安がいいというのは、商売をやる上でかなり重要な条件と言える。

将来的にはこの国で商売をやるのもアリだよな。

ま、今の俺には無理な話だけど。

何せ金が無い・・・・

グルナ王国内では俺のスキルを活かしての資金稼ぎをするのはまず無理だろう。

俺の使い魔となったアランとジャンを人前には出せないだろうし、魔獣を個人で退治したりすれば軍の資金源を潰す事になる。

ヘタをすれば捕まってしまいかねない。

そこで、カノンと話し合って決めたのが”大道芸”だ。

道中の暇つぶしの会話の中、カノンの年代では学校の授業でダンスがあるらしく、「ウサギのぬいぐるみなら、別に恥ずかしくもないから踊れるよ」と言っていたのがきっかけだったかな。

なら俺はと、楽器代わりに木の枝を削ってスティックを作り、中身が空洞な木を叩いてリズムを取ってみた。

楽器を使う訳でもないので移動しながらスティクを振っていたが、やってみると良い感じになってきた。

試しに馬車の集まる休憩所で練習がてらに披露してみた所、馬車の商人に飯をおごって貰った上でチップが貰えたのが決め手だろう。

そこで「これ、いけるんじゃね?」と考えて、アンクールの街で本格的に披露してみたという訳だ。


市場で食料を買い込んだ俺達は、カノンの要望で武器屋へとやって来た。

カノン用の武器が欲しいらしい。

武器屋のカウンターにはやる気の無さそうな店員が椅子に座っていた。


「こんちは、武器見せて貰うよ」

「どうぞー、買う物が決まったらここに持って来て」

「ああ、判った」


俺は武器が見える様にカノンのぬいぐみを抱えてやる。


「どれがいいんだ?」

『ダガーナイフみたいに小さいヤツがいいかな』


ダガーナイフってのは小ぶりで刺突に向いたナイフらしい。


「まぁ、そうなるよな」


カノンのぬいぐるみの大きさは50cm程なので、小ぶりのナイフより大きな武器だと地面に引き摺ってしまうからだ。

ナイフやダガーのコーナーに移動してカノンに見せてやる事にした。

カノンは武器の置かれた台の上に乗ると、一つずつ手に取って確かめている。


『ボクはこれがいいかな』


カノンが振り回しているのは柄の先が輪になっている両刃のダガーナイフだった。


「この輪は何だ?」

『リングダガーって言って本来は指に引っかけて使うん物だけど、この手でも扱い易そうだしね』


そう言って輪の部分にぬいぐるみの腕を通すと、器用にクルクルと回して見せた。

まぁ、ぬいぐるみのパンチはモフモフだったしな。

武器でも持っていれば、何かの役には立つだろう。


「じゃ、それ買うか」

『タカヒサは小さいのでもいいから、盾を買っといた方がいいよ』

「盾?」

『うん、弓矢を防ぐのに必要だから』

「ああ、そうか。そうだな」


この世界では魔獣だけじゃなく、人間からの攻撃にも気を付けなくちゃいけないんだった。

俺は購入を決めたナイフを持って盾のコーナーへと移動した。

木に鋲が打ってあるでかい盾から、金属製のの盾まで色々ある。


「うっ」


値段の書いてある木札を見てみると、どれも5万エンはするらしい。

流石に手が出ないな。

エンはこの世界の通貨で、日本の円を元にしたこの世界で共通の通貨だ。

カノンに聞いた所、この世界は日本基準で統一してあるとの事。

通貨は円・長さはメートル・重さはグラム。

馴染みがある分計算しやすくていい。

ええっと・・・・さっきの大道芸の稼ぎが3万エンぐらいか。

食料に約1万エンとダガーに5000エンだから、残り15000エンか


「15000エンで買える盾なんて無さそうだぞ」

『これは?』


カノンが俺に見せたのは、直径30センチ程の大きさの黒い甲羅。

・・・・亀の甲羅だよな?

持ち上げてみると軽くて固い。

内側には金具が付いていて、そこを握って装備する物らしい。

値段は3000エン


『それはバックラーだね』

「小さいけど、一応盾だよな?」

『盾の面積が小さいから扱いは難しいけど、矢を弾いたり盾で殴りつけたり出来て便利だよ』

「へぇ、安いしこれなら買えるか」

『トカゲの甲羅は硬いから、かなり役に立つと思うよ』

「ん? トカゲに甲羅?」

『うん、これシェルリザードってトカゲの甲羅なんだ』

「マジか・・・」


この世界じゃあ、トカゲも甲羅も持つのか。


「・・・まぁいいか。値段も手ごろだし、これ買ってくか」


普段は紐を通して背中側に下げておけばいいだろう。


『ダガーは鞘ごと背負うから取り付ける為の紐も買ってね』

「ああ、雑貨もちゃんと買っておく」


俺はリングダガー・バックラーという装備と、革紐などの旅に必要な雑貨を買って武器屋を出た。

路地の裏でダガーを紐で鞘を固定してカノンに装着させてやる。

カノンは輪っかに腕を入れては引っぱって、ダガーを鞘から抜いて具合を何度も確かめていた。

この世界で兵士をやってただけあって、武器の扱いには慣れているんだろう。

俺もバックラーを装備して振り回してみる。


「表面がゴツゴツしてるから、これで殴られたら痛いだろうな」


最低限の装備ってヤツか。

まぁ、普段は紐をたすき掛けにかけて、背中側にぶら下げておこう。

移動の邪魔になるが、身の安全の為にはそれぐらいは仕方がない。


「よし、準備が出来たし街を出よう」

『宿には泊まらなくていいの?』

「そこまでの金が無い」

『また大道芸で稼げば?』

「んー・・・一か所で一回までだろうなぁ、まともに稼げるのは」

『どうして?』

「派手に稼ぐと余計な揉め事が増えるんだよ。場所代をよこせとか、みかじめ料をよこせとか言う連中が寄って来るんだよ」


広場からずっと、粘つくような視線を感じている。

尾行されてるのか、見張られているのか・・・


『追っ払っちゃダメなの?』

「どうやって? 俺のスキルを街中で使ったら大騒ぎになるぞ」

『そんなのボクがぶっ飛ばして・・・』

「それを街の広場なんかでやったら兵士に捕まるのは俺だろ。それに、確認しておきたい事もあるしな」

『確認?』


俺は周囲を見回してみるが、それらしい存在は見つけられない。

人や建物が多いから紛れやすいんだろうな。


「まぁ、ここで揉め事を起す訳にもいかないし、取り敢えず街を出よう」

『うん』


そうして俺達は、昼間の内にアンクールの街を出た。

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