ハイタッチ 【月夜譚No.275】
思わず、隣の知らない人とハイタッチをしてしまった。お互いにすぐ我に返って軽く頭を下げ合い、正面に向き直って俯く。
青年は一人、サッカー観戦にスタジアムを訪れていた。そこで応援しているチームがゴールを決めて興奮し、つい隣にいた男性と手を打ち合ってしまったのである。
興奮したとはいえ、見ず知らずの人とハイタッチをしてしまうなんて、普段の引っ込み思案な自分からしてみればとんでもないことである。恥ずかしくて頬が熱くなる。しかし、まだ試合は中盤。ここで席を外すわけにもいかない。
その後は若干隣を気にしつつ、試合を観戦した。しかしながら、試合が終わる頃には羞恥心も薄れて、最終的には応援しているチームが勝ったので、嬉しさで一杯である。
「あの~」
声をかけられてそちらを見ると、そこには先ほどハイタッチをしてしまった男性がいた。
「あ、さっきはすみませんでした……」
「いえ、こちらこそ。でも、良かったですね、今日の試合」
「はい! ゴールの瞬間なんて、ドキドキして――」
話してみたら、なんのことはない。好きなことを語り合う内に恥ずかしさなど何処かへいってしまって、咲いた花は駅前の居酒屋で暫く色づいていた。