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問題の違和論

 私は初めての通し練習のあと、反省点を話しながらずっとコウくんのことを考えていた……と言うと、語弊がある。実際のところ私は、劇の内容を考えたコウくんのこと、そしてコウくんに漠然と関係するであろう様々なことを考えていた。突如として私の中に何かがささやいた声が響いたような気がした。あの、コウくんがやるはずだった「ヒロシ」の台詞。それがどこかで突かえて、何か不思議な力をもって私に何かを訴えている。


「ここがどこかは、受け取り方次第なんだ。受け取り方と演じる役、台本に書かれた内容の解釈によって、ここがどこかは変わる」


「舞台監督が幕を下ろせば僕たちはただの役者に戻り、今の僕たちは消えてなくなる。だから、そろそろお別れだ。じゃあね、みんな」


 このセリフに、何かがある。




……まあいい。やめだ。私はこの場にいる、それで十分じゃないか。今、私は楽しいし、何より大切な仲間と大好きな演劇に打ち込んでいられる。わけのわからない悪夢より、これまでのどんなときより、よっぽどマシだ。


「アヤナ、どうしたの?まだ何か言うことある?」


「いや、なんでもない」


「じゃあもう今日は終わり?」


「うん、もう遅いし終わり」


 すでに時刻は18時30分。終了予定時間を15分はオーバーしている。


「わかった。じゃあ1年生ちゃんたち、お疲れ様」


 チヒロはそう言って、1年生たちが帰っていくのを見送った。


「お疲れー」


 私は1年生たちを見送ってから荷物をまとめると、戸締まりをして電気を消し、チヒロと一緒に練習場所になっている空き教室を出た。太陽は西の空にかなり傾き、橙色とも黄色ともいえない不思議な色で照りつけていた。もう職員室以外に明かりがなく静まりかえった学校はその中に照らされ、とても綺麗だ。私がじっと見ていると、チヒロが私を急かした。


「寄りたいところがあるんだけど……一緒に来る?ってか行こうよ」


 チヒロはそう言って私を顧みる。私はうなずいて、チヒロについていった。


「この先にあるんだけど……」


 チヒロは田んぼの中を抜ける通学路の延長、駅とは真逆の方向へと歩き出した。いつか神社に行ったときとは逆の方向へと曲がると、何も言わずに歩き続ける。


「この先に何かあったっけ?……ってか、どこに行くの?」


 私が言うと、チヒロはニコリと笑って「いいとこ」と言う。そして私たちは、昭和から切り出してきたかのような一軒の店にたどり着いた。


「ここ」


「ここって……」


「駄菓子屋さん。アイスクリームも売ってるんだって」


「へえ……こんなところに駄菓子屋さんなんてあったんだ」


「この前神社を見つけた日にストリートビューで見つけたんだよ」


「なんかチヒロらしいね」


「それどういう意味よ?」


「どういう意味だろうね」


 私たちはワクワクしながら引き戸を開けて、駄菓子屋に入った。


「いらっしゃい」


 駄菓子屋の店主らしい女性の声がする。


「そこの高校の生徒さんかしら?」


 店主はそう言って私たちをまじまじと見た。


「あっはい二年生です」


 私が少しどもりながら答えると、割烹着とロングスカートを着た店主は丸眼鏡をかけ直して言った。


「私、君たちの6つ先輩なの」


「そうなんですか?」


 チヒロが目を輝かせて言う。店主はカウンターの下からタロットカードを取り出す。


「そうなのよ。占星術同好会にいたんだけど、多分もうないわよね」


「……そうですね」


 占星術同好会は今やウィキペディアでその存在が語られているだけである。


「もしよければ占ってあげましょうか?当たらないどころか真逆になることもあるけれど、心配はとれるかもしれないわね。当たるも八卦、当たらぬも八卦。小学生にも人気なのよ」


「あ、えっと……」


 店主はこの駄菓子屋の店内に少し不思議な世界を醸し出していた。私が言いよどんでいると、チヒロが言った。


「演劇の大会について占ってほしいんですけど、いいですか?」


「もちろん」


 店主はそう言って、タロットカードをシャッフルし始めた。

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