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剣士ミリアム、死して魔王に溺愛さる  作者: セイバン・キイタ
1/2

【前編】

残酷描写あります。

細かいことは気にせず、読んで頂けると嬉しいです。

 目が覚めた。


 薄暗い部屋。

 自分の荒い息遣いだけが聞こえる。

 酷い夢を見ていた気がするが、もう中身を思い出せない。心臓がどきどきしている。

 ベッドから上半身を起こそうとして気が付く。

 腕が、短い。手が小さい。足も短い。おかしい。俺、こんなに足短くない。

 全体的に体が小さい。変だ。

 それとも、これは、、、まだ夢なのか?

 そういえば、俺、誰だっけ?

 その時、寝室のドアが、静かに開いた。

「リアム?まだ起きてるのか?」

優しい声がして、男が入ってきた。

 男は、窓際の俺のベットに腰を下ろした。雲に隠れていた月が顔を出し、月光が窓から差し込む。光は男の顔をはっきりと浮かび上がらせた。

「!!」

 黒い長い髪。彫りの深い顔に金色の目が静かに輝いている。その顔は、、俺が倒そうとしていた魔王だった・・!

 思い出した。俺はこいつに返り討ちにされ、殺された、、。

「悪い夢でも見たのか?」

魔王は、大きな手を俺に差し伸べてくる・・・。

「触るな!!」

思わず、その手を振り払った。

 魔王は、驚いて、目を見開いた。が。

「そんなこと言うなよおぅ!!」

 魔王が、勢いよく俺に抱きついて来た!

「私のかわゆい息子ようぅ!お父さんはお前の事を誰よりも愛してるんだぞっ!」

「何言ってんだよ!てめえ!」

「リアムぅ。かわいいなあ。大ちゅきだぞ!!ちゅっ」

 いやあああああああああ!!!!!!!!!!!!!




 


 


 朝になった。


 結局一睡も出来なかった。

 なんなんだ、ありゃあ。いつまでもベタベタしてきやがって。俺は、とんでもない所に生まれ変わってきてしまった。どうしてこんな事に?!

 大体、あいつはホントに魔王なのか?

 顔が似てる別人てことはないのか?

 あの、アレ(デレデレ)が、ほんとにあの、アレ(凶悪魔王)か?

 ・・・

 逃げよう。


「よし、誰もいない」

と思って部屋を出ると、

「リーアムっ」

ぎくう!

 振り返ると魔王がいた。さっきいなかったのに!何で?!

「どこに行くのかな?」

「あ、遊びに、、」

「外に出ちゃだめだぞ。外は危険だ」

「な、なんで?」

 魔王は、急に冷酷な顔になった。

「お前を、殺しに来る者がいるからだ」

 俺は、やっぱり、、こいつに殺されたんだ、、、。

 魔王は、にこっと溺愛父の顔に戻った。

「いい子だから、部屋の中で遊ぶんだぞっ」

「う、うん、、」


 う~む。

 ぼふっとベットに倒れ込む。おかしい。誰もいなかった筈なのに、、もしかして部屋に結界でも張ってあるのか?だから出ると魔王には分かる、、。おまけに魔王には空間を飛び越える力がある。脱出は無理だ。

 まるで、籠の鳥だ。”リアム”は、ずっと、これで生きて来たのか?

 俺には、リアムの記憶がない。今まで、どうしてたんだろ。なんで、何も覚えてないんだろ。

 前世のことは覚えてるのに。


 俺は剣士だった。とにかく、生き延びる事が出来りゃあいい。それだけだったのが、仲間が出来て、魔王を倒そう、なんて目標まで持つことが出来た。まあ、失敗したが。

 傷が疼くように胸が苦しくなった。

 みんな、死んだ。みんな、、、。

 

 ふと思った。

 逃げるのは無理でも、あいつを殺すことは出来るんじゃないか?溺愛している息子のこの姿なら、あいつは油断する筈。殺れるんじゃないか?


 俺は、昼食で出て来たステーキのナイフをちょろまかし、大理石の床を使って研ぎ上げた。


 そして頃合いを待った。



 夜。

 俺は、寝室のドアを開けた。

「リアム」

目の前に魔王が現れた。

「こんな遅い時間に部屋を出ちゃだめだぞ」

魔王は、ひょいと俺を抱き上げると、ベッドまで運んだ。そしてそっとベッドに座らせる。今だ!!俺はマットの下に隠していたナイフを素早く引き抜くと魔王の懐に飛び込んだ。

 ドッ!!

 


「だめだぞ、リアム。おいたしちゃ」

魔王は、何も無かったように言った。

 ダメだ。まるで手ごたえが無かった。

 ナイフは、指先くらいしか魔王の体に入らなかった。みるみる内に、傷が塞がって行く。子供の腕力じゃ無理か、、、。

 魔王は、俺からナイフを取り上げると、ぽいと床に捨てた。

「こんなもの持ってたら危ないよ。怪我したらどうするんだ」

 それから、俺のサラサラの髪をかき上げて、頭にキスした。もうどうにも出来ない。

「おやすみ、私のかわいいリアム」

 俺を寝かせて、微笑んで、ぷにぷにの頬に触って、部屋を出て行った。

 あああ、、、。



 次の日。

 俺は、部屋のドアを開けた。

 目の前に、魔王が現れた。こいつは、どんだけ息子を閉じ込めたいんだ。

「リアム。外に出ちゃだめでしょ」

 城の中くらいいいだろうがよ。お前を倒せない以上、少しは好きにさせてくれよ。と思う俺は、可愛くおねだりする。

「でも、、部屋の外ぐらい、いいでしょ」うるうる。

「きゅわーん!!リアムぅ!!なんて可愛んだよう!!」

魔王は、がっと俺に抱きつき(キツイ)、顔をすりすりしてくる。

「分かったよ。でも、この月の宮の中だけだ。他の宮に行っちゃだめだよ」

 へえ。ここは月の宮っていうのか。


 俺は、食事を運んできた執事に他の宮のことを訊いた。

 背の高い執事は、銀色の目で冷たく俺を見降ろした。

「今更何を。貴方の兄様方がお暮しでしょうが。トーリ様は(ほのお)の宮、グレン様は嵐の宮」

俺は、兄貴がいるのか。

「そんな事より、リアム様はさっさと魔力を覚醒させられますように。これ以上、()()の世話などしたくありません」

 執事はそう吐き捨てて出て行った。なんだ、あの言い方。リアム、、魔力ないのか?


 夜。俺はドアを開けた。

 しん。

 あれ?来ないぞ。ま、いっか。ちょっと廊下に出てみた。

 シュン!!魔王が現れ、、お!!白いローブの下が裸だ。。最中だったのか?!!

 魔王は乱れた長い黒髪をかき上げながら、俺に歩み寄る。

「リアム、夜は出ちゃだめだよ」

そう言って、部屋の中に押し戻す。女の香りがする。くそお~!!

「ねえ、おとうさん。僕のおかあさんて、、、」

 魔王が、固まった。

「・・もう寝ようか」

低い声で力無く、魔王が言った。俺を寝かせて、頭にキスして、出て行った。

 俺のかあさんに、何が?


 

 次の日の昼。

 あの執事はホントに俺の世話が嫌になったらしく、別の女の人が食事を運んできた。簡素なワンピースを着て、両手首と両足首が鎖で繋がれていた。人間の、奴隷。

 料理をテーブルに置き、しゅわしゅわ泡の出る水の様な飲み物をグラスに注ぐ。その手が細かく震えている。ボトルが重いのかな。鎖も重そうだ。外してやりたいが、今の俺には何の力も無い。

「どうぞ」

 俺は、差し出された泡の出る飲み物に興味を惹かれ、くいっと飲んだ。

 「!!」喉が熱い!グラスを落した。

 体中が熱くなり、息が出来・な・・っ・・っ。

 喉に血が溢れ、口から飛び出した。おれのいしきは、ヤミに、、、





「どうして飲んだの」

 闇の中から、俺の声が聞こえる。変だ。俺、喋ってない。

「あんなの、毒が入ってるに決まってるじゃん」

 そんなの、見た目でわかるかよ。

「ほんと馬鹿だよね。あんたも、かあさんも」

 


 目が覚めた。

 俺は、ベットの上にいた。体が、、動かない。

 目の前に魔王がいた。涙と鼻水で顔がぐじょぐじょになってる。

 俺、、死ななかったのか、、。どうやって助かった、、?

「リアム・・」

 魔王は、寝ている俺にすがりついてきた。

「済まなかった、リアム。お前をこんな目に、、許してくれ、、俺を許せ、、、」

 あの魔王が、泣いて謝っている。こんな情けない姿を晒して、、。

 やめてくれよ。そんな姿、俺に見せるなよ!

 叫びたかったが、声が出なかった。


 夢の中に、(リアム)がいた。

「教えてくれ、俺に、、、かあさんに、何があったんだ」

「かあさんは死んだ。殺されたんだ。その時に僕も死にかけた、、」

「誰が、やった?」

「兄さんたちだよ。二人はかあさんと僕が目障りだったんだよ」

「なんで、、?」

「僕が半分人間だからさ。かあさんは、人間で、奴隷だったから」

「・・・嘘だろ」

「嘘じゃないよ。僕が僕に嘘ついてどうするんだ」

「あいつが、、どれだけ人間を殺してると、、、」

「・・・」

「俺も仲間もあいつに殺された」

「・・・」

「なのに、人間の女との子供をつくった、、?」

「やめろ!あんたは()じゃないか!」

 それは、、、そうだが。

「誰のおかげで助かったと思ってるんだ」

「なに」

「僕は何度も兄さんたちに殺されかけてる。その度にとうさんが助けてくれた」

「!」

「多分、とうさんの魔力の影響で僕の中に僕らふたりがいる、みたいなことになってる。半分人間だから、回復も純粋な魔族に比べたら遅いみたいだけど・・」

「・・・夢でしか話せないのか?」

「どうかな。僕が飲むなって言ったの聞こえなかったでしょ」

「うん」

「あんたが前に出てると僕の声は聞こえないみたいだ」

「じゃ俺がリアムの事を覚えてないのは、お前が前に出てたからか?」

「あんたは生まれてからずっと眠ってた。だから覚えてないんだ。きっと何も無ければ、前世(あんた)が出てくることはなかった」

「なにも、なければ、、」

「たぶん、何度も死にかけた影響で目覚めたんだ」

 俺は、何も言えなかった。目覚めた所で、死んだ仲間たちの様に凄い力を持ってる訳でも何でもない。ただ剣を振るう以外、大したことは、、いや、この体じゃ、重くて剣を持ち上げる事も出来ないだろう。

 俺の考えを読み取ったのか、リアムは話題を変えた。

「おかしいのは、とうさんの方だ」

「・・・」

「魔族にとって、人間の”恐怖”は、エネルギー源の一つだ。だから適度に殺して、奴隷にして、恐怖で支配している。なのにとうさんは、人間のかあさんを妻にして、、、僕を独りで守ってる、、」

 リアムの目が、涙で潤んだ。

「それとも、やっぱり人間の感覚と違うのかな、、。太らせて、後で食べる気なのかな」

 俺の中に、リアムの気持ちが入って来た。

 俺は、リアムを抱きしめた。おかしな話だな。自分を自分で抱くなんて。


 リアムは、愛されてると思うけどな・・・と思ったが、口が裂けても言いたくない。

「聞こえてるんだけど」

鼻声で、リアムが言った。少し、嬉しそうだった。



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