現実と同じ時を過ごすフィクション世界に住む少年少女の日常
このお話はなるべく1日1話ずつ更新する予定です。
しかし思ったより身の回りの生活が忙しない為、更新が遅れる場合もあることをお許しください。
ジリリリリリリ!!
ジリリリリリリ!!
ジリリ……
けたたましいベルの音が部屋中に鳴り響く。
あまりのうるささに無意識に枕元を弄り、携帯の電源ボタンを押して不快な音を取り除く。
「……ふぅ」
辺りは再び静寂に包まれ……
ジジジジジジジジ!!!
ジジジジジジジジ!!!
……なかった。
今は夏真っ盛り、蝉が命を削りながら鳴き喚いていた。
「うっ……あぁぁぁあぁ……」
一度意識してしまっては眠ることは叶わない。観念して背を起こす。
もう一度携帯の電源を親指の腹で押し込む。時間は12時を回っていた。
「────!
あ……そうか、そうだった」
一瞬心臓が跳ね上がった。
今が夏休み期間とはいえ、数ヶ月続けていた習慣が抜けることはなかった。
「ご飯……食べよ」
足元に綺麗に畳んである衣服を着たあと、部屋の引き戸を開けてリビングへと向かう。
扉を開けると冷房のひんやりとした空気が肌をくすぐった。
「おはよう、貴音。丁度お昼ができたところなんだ」
「……おはよ。冬次クン」
簡単な挨拶を交わしながら、自分のお箸が置いてある席の椅子に座る。
今日は素麺だった。大きな器に無機質な白い麺を彩るようにトマトやきゅうりが添えられており、無性に食欲がそそる。
「今僕の分を作ってるから先に食べといていいよ」
「待つ……。一緒に食べたいから」
「そう?ありがとう。直ぐに済ませるから待っててね」
私は返事をせず、おもむろにテレビの電源をつける。
最初についたチャンネルは、お昼のニュースを流していた。
きっと朝に冬次くんがドラマを見ていたのだろう。最近のドラマは面白くないと聞くが、私はご飯の時にしかテレビを見たないため所詮は眉唾物だ。
起き抜けでパッとしていない私は、頭を空っぽにしながら半日分の時事を取り入れていく。
「お待たせ。じゃあ食べようか」
「うん。頂きます」
掌を合わせて合掌の仕草をする。
そしてお箸を手に取って、麺をつゆに浸した後口へと運ぶ。
「どう?美味しい?」
「うん、美味しくて気持ちいい」
それはよかったと、彼もずるずると麺を啜る。
麺とつゆには氷が入っており、より清涼感を感じる。
蝉の音はかき消され、冷房の風で風鈴がチリンチリンと鳴いていた。
というか、
「……なんか全体的に寒くない?」
「そう?冷房効きすぎてるかな。少し温度あげようか?」
「いや、そうじゃなくてね……いや要因の一つなんだけども、冷房、冷たくて美味しい素麺、そして風鈴、徹底しすぎて寧ろおどろおどろしいというか」
「だって貴音は暑がりじゃん?
昨日の夜だって冷房が切れた後寝汗凄かったから。
熱中症にはなりたくないし、なって欲しくないからネ」
と、彼は平然と答える。
昨日の……夜……っっっ!
途端に頭がフル稼働する。そこから導き出された感情は“恥辱"だった。
私はこの執拗な清涼感の中、額から少しだけ汗が滲み出た。
「えっち……」
「今更恥ずかしがらないでよ」
「……うっさい。早く食べて働いてこい。宿題はやっておく」
「嫌だ❤️」
冬次くんは愛おしそうに私を見続ける。
私は残りの冷たい素麺を啜った。
私たちの夏は始まったばかりである。
次回、8月2日
※初心者でも投稿方法の勝手をまだ理解しておらず、短編から連載の方へと移動させていただきます。
連載側のURL:
https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/2016107/
此方に8月2日以降のお話を載せていこうと思っていますので、よろしくお願いします。
どうか、一夏のお付き合い、よろしくお願いします。