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魔女見習いはじめました(3)


「――ごちそうさまでした」


 マタタビとの食事を終える。頭の中にはずっとマリアからの妬みの声が響いていたが、食事が始まればマタタビは一切喋らないようで、気が散りながらも喧嘩などをすることもなかった。


『少しくらい分けてくれてもいいのに。ナカムラさんのケチンボ』


「実体がないのにどう分けるんだよ」


「ゴシュジン、今日は午後から仕事ニャ。それまでに準備しとくニャ」


 食器を片付けているマタタビがさも当然のように、けど予想していなかったことを言ってくる。


「え、……シゴト?」


「まさか、ここで(ニャに)もしないで生活していくつもりかニャ? 稼ぎがニャいとニャーたちは餓死ニャ」


『普段は午前十時から午後五時までの()()()()()です。と言っても、世迷い人が来るのを待ってるだけですが。今日は予約はないので比較的暇かと』


 ちょっとまて。十時五時で十時間? 計算が合わないぞ。それなら七時間だろう。


『こちらの世界に来てからまだ時計を見ていませんでしたね。建物の東にあるエントランス兼仕事場に柱時計があるので見に行ってください』


 なにか、すごく嫌な予感がする。食事も思ったが、ここが異国ではなくて本当に異世界なのだと肌にビリビリと感じてしまう。




「――やっぱり! なんで!? なんで()()()()()()()()()になってるんだ!?」


 目を覚ましたら女になっていたとか、ネコのような女の子がいるとか、食材が食欲減退色なことがデフォルトだとか、そんなことがバカみたいに感じるほど頭がどうにかなりそうだ。


「さ、さすがに時間は普遍的なもんだと思っていたぜ……」


 時計の頂が十五ということは、一日は三十時間になる。六時間も長いとなると、さすがに体の感覚がバグりそうだ。しかもすでに起きて二時間くらい経っている感覚なのに、今はまだ八時ときた。


 午後から仕事と言われても、これでは夕方くらいと錯覚してしまう。


『あなたがいた世界とは"世界のあり方"そのものが根本的に違いますからね』


「他に言うことはないのかよ……。さすがに不安になる。この世界ってのは何なんだ?」


 まさか、亀の甲羅の上に乗っている、なんていうなよ。どんな神話だよ。


『んー。世界の半分は魔王によって行方不明とか? けど魔王はだいぶ昔に滅ぼされたので比較的平和とか? 勇者は今や世界の穀潰しとか? 世界を支えているのは巨大な三頭の虎で、そいつらがグルグルと動いて世界を廻しているとか? 南の果ては虚無で、北の果ては光源の熱で年中燃えてるとか? どれから聞きたいですか?』


「……もういい。何も聞きたくない」


 思っていた以上にヘビースタイルなファンタジー世界だった。


 ――マタタビとの昼食(?)を終え、謎の仕事の準備を整える。


 エントランスにはいくつかの本棚や薬品棚、巨大な作業台、天蓋で仕切られたいくつかの寝台、診察室らしきテーブルと椅子が配置され、そこはまるで町病院のようだった。


『仕事に関する全てはマニュアル化しているので、それに沿っていけばこなせるはずです。時間になれば、私からは何も言いません。ナカムラさんの好きなようにしてください』


「好きなようにって無責任な……。そもそも何をしてたんだ?」


 さっきは世迷い人が来るのを待てばいいとか言っていたが、根本的な生業がわからない。あ、生業は魔女か。


『顧客の話を聞いて、適切なことをすればいいお仕事です。簡単でしょ?』


「……俺からすれば世界一難しい仕事に聞こえるぞ」


 やっぱり、やっていることは医師と変わりない。そして、"人の話を聞く"仕事ってのが俺は一番苦手だ。


『当たり障りのないことを言えばいいときもあります。吐き出すだけで薬になる方もいるので。失敗しても大丈夫ですよ。一回や二回で職を失わないほど徳は積んできたつもりです。それが疲れるんですけどね』


「ううう。胃が痛い。なんでこんな事になったんだ。俺が何をした。罰ゲームか。罰ゲームならケツバットのほうがよっぽどマシだ……ブツブツ……」


『ありゃ、聞いてませんねコレは。おーいナカムラさーん。とりあえず時間までマニュアルに目を通しておいてください。運が悪ければ今日は仕事ゼロで済みますよ』


「ぜひ仕事ゼロでいこう。運が悪いには定評があるんだ」


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