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深紅の魔女(5)


 ――そこから半日、足場の悪い砂丘を歩き続け、日が暮れる頃には灼熱の気温は急激に下がり始める。


「さっむ! 気温の高低差でキーンってする!」


 一回言ってみたかった。ナニイッテンダというコチニールの顔と、内から無言の冷ややかさが伝わってくる。スベりすぎた。


「たっく。アンタの鈍足で想定の2/3しか進まなかったじゃない。砂丘で野宿なんてイヤよ。せめて霊峰の足元までは行くわよ」


 コチニールが指差す先に――頂上が雲の上にある大きな山の麓だった。


「……お前、今日はあそこの頂上まで行くって言ってたよな」


「言ったわね。なんなら明日の夜明けを見る予定だったわ」


『ロマンチストですねぇ〜』


 暢気か!


 けど、コチニールが麓まで行くというのは理にかなっている。砂しか周辺にないここと比べれば、緑が広がっているのがわかる。砂漠のゴールが本当のオアシスだったのだと思うほど、環境バフが強い。


「あと三時間位歩けばつくでしょ。さあ、キリキリ行くわよマリィ」


 オーッ! とは言いたくないが、終点が見えているならと足を進めた。


///


「――嘘つき! 三時間て言ったじゃん!!」


 ようやく目標の霊峰の麓に着いたが、三時間は三時間前に過ぎていた。


「ほんとね。思ったよりも鈍足すぎて逆に疲れたわ。マリィ、帰ったら鍛えなさいよ」


 なんで呆れられてるんだよ。脳筋すぎるだろ。


 太ももがパンパンになるほど歩き続けた結果、ようやく砂以外の地に到着した。心做しか下からの冷たさは緩和された気もする。


「さすがにこれ以上の行軍はムリね。今のうちに野営しないと日を跨いじゃうわ」


 時計の類は持ってきてないが、コチニールの体内時計を信用するならば今は二十七時頃――普通の時間感覚なら夜の十時前くらいだろうか。


 担いできた荷物を下ろして広げていく。簡易的なテントと光源になるランプ、刃渡りの短いナイフと軽量化するために水分を抜いたパンらしきもの。そして空になった水のボトル。マリアがとりあえず入れとけと言って来た数枚の羊皮紙とペン。これだけみれば絶望的な有り様だ。


 最小限の理由も、


「食事は現地調達、水分は砂漠さえ抜ければどうとでもなる。緊急用の熱源さえあれば死にはしない」


 との脳みそまで筋肉魔女のありがたいお言葉の結果である。


「冷静に考えて、俺倒れるのでは?」


『私も思います。ナカムラさんって元もやし(ボーメマ)っこでしょ。出発前に疲労緩和の術式と水分補給に疲労物質分解のエキスを混ぜても筋疲労がまだまだ蓄積されてます』


「アタシは食べれそうなもの探してくるから、マリィは薪になるものを探してきて。そうね、あなたの体重と同じくらいあれば足りるはずよ」


「いくらなんでも多すぎないかそれ」


「あら、火は高く燃えるほどいいじゃない。獣避けにもなるしね」


 キャンプファイアかよ。どうにもコチニールの言葉が軽い。ほぼ娯楽のように感じる。


『言ったでしょう。自力踏破は彼女の趣味です。本当は燃料なんて必要ないくらいの魔力量があります。ただ、彼女の魔法だと火力が高すぎてここら一帯を焼け野原にしてしまいかねないからです』


 滅却の魔女恐るべし。


 コチニールは近場の雑木林の奥へと照明もなしに進んでいく。俺も適当な薪になりそうな物を探すとしよう。


///


「――こんなものでいいだろう」


 コチニールのオーダーではXXキロ分(自主規制)だったが、目算で十キロ分ぐらいの薪を集めることができた。暖を取るのには十分ではないだろか。


「――え。これっぽっち? こんな燃えやすいものばっかだと肉も焼けないわよ」


 雑木林から悪態をつきながら戻ってきたコチニールは、――ヒトの三倍くらいある巨大な獣を牽引してきた。


「夜を越すにはもっと油分が少ない密度が高いものにしないと」


 あー。なんか聞いたことあるな。確か、針葉樹と広葉樹? 火が付きやすいけど短時間で燃え尽きるものと、火は付きにくいが燃焼時間が長いものがあるとか。焚き火らしいことはしたことがないから違いはわからない――もっとも、この世界の植物が同じ原理かどうかも怪しいところではある。


『概ね一緒のはずです。(セカイ)間の違いはあれど自然法則に大きなズレがあるとさすがに生命活動に影響があるので、コチニールが所望するものを追加する分には私も賛成です』


「まあいいわ。食材は調達できたから薪は一緒に探しに行きましょう。林の奥ならそういうのもありそうだわ」


 コチニールは仕留めた獣に野生の生き物による横取り防止のための簡易結界を発動させて一緒に林の方へと歩みを進めた。


///


 十分程度林の奥へと進んだところで、比較的薪に適したものを調達できた。


 薪を背負うための背板はコチニールが手慣れた手つきで組み上げてくれたおかげで往復することなく済ませきれそうだ。


「俺、いらなくねぇか……」


 もっとも、俺が頑張って20キロほど背負っているが、コチニールは規格外に数倍量背負ってるからだが。


『なにはともあれ、これで夜は越えれそうですね』


 確かに、これだけの薪があれば足りないってことはないだろう。燃やし切るにはそれこそキャンプファイアでもしないと。


「ちょっとマリィ、どこに行くの。道が違うわ」


「え。そうなのか」


 光源の少ない林の中を歩いていると方向がわからなくなる。以前のオルクス捜索のときは日が暮れる前だったがそれでも道がわからない状況だった。日が暮れてる状態の今、簡単に方向は見失う。コチニールが止めなければそのまま奥へと進んでいただろう。


「あれ?」


 踵を返し戻ろうとした時。視界の端で何かが光っているのが見えた。


「まてコチニール。あそこになにかあるぞ」


 木々の独特の香りの中に、燻った匂いが混ざる。これは――


「焦げの臭いだ。なにか燃えてる……」


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