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深紅の魔女(2)

長らくエタっていましたが戻ってまいりました。

またよろしくおねがいします。

文体がかわってしまったらすみません。


「――ふぁ、……あぁ。眠い」


 先日の騒動――グリコレス=サルバトールの襲撃――からしばらく経ち、日常が徐々に戻りつつある。


 二階の廊下は惨劇の跡は凹んだ壁と傷ついた床だけになり、割れた窓ガラスも張り替えた。襲撃のときに負った傷はオリバの影響もあってかほぼ完治といってもいい。床や壁に染み付いた油の臭いはわずかに残るが、日常生活には特に問題はなさそうだ。


『あの日以来、仕事を全部キャンセルしたのでそろそろ復帰してくださいね。魔女業は新規獲得は厳しい生業なので』


 そんなこといっても俺のせいではない。文句があるならグレコレスに言ってくれ。


『死人に恨み節をしても何も得はありません。墓でもあれば火でもつけてやりたいですが、オリバが全部持っていってしまいましたけど』


 持っていった――あの赤い霧があの場の死体の全てを消し去った。ある意味完全犯罪だ。油断するとこちらまで消されてしまうほどの終末装置に血の気が引いてしまうが、アレのおかげで助かったと思えば感謝をしなければいけない。


「たっく。感情のバランスが悪いんだよな」


 マリアのガワになっての生活が長くなって忘れていたが、ここ俺が元いた世界とは違う。あそこも大概理不尽に体がついているような場所だったが、異世界には異世界(よう)とした理不尽があるのだった。


『壊されたものはあらかた変えれたので、午後からは仕事ですよ。その前に食事をして準備してください。先からいい匂いがするのでホラ! マタタビにお願いして!!』


 うるせぇな。食えないくせに急かすんじゃないよ。


 けど確かにいい匂いはする。これは……魚か? この前窓を持ってきてくれた行商から買い付けたのか。思い返せばこの世界に来てから食べたことなかったな。


『北半球はほとんど川もありませんし、海といえば赤道あたりまで行かないといけないので危険なんですよね。この世界で一番危険な仕事といってもいいでしょう。強い海流を泳いで育ったので脂も乗って絶品ですよ』


 うまい魚なんてもう何年も食べたことはない。寿司なんて以ての外だ。子供の頃と比べれば回転寿司のチェーン店が増えてお手軽にはなってきたが、俺からすれば高級食品だったことに変わりはない。万年貧乏だったしな。


「うまいものが食べれるようになったことには感謝してるよ。見た目はぜんぜん違うからまだ驚いているが」


『そこはそろそろ慣れてください』


「いやー。どうしても色が、ね」


 なぜか知らんがここの食材は色合いが減退色が多い。


『まあまあ。私からすれば、ナカムラさんがいた世界の食材のほうが違和感すごかったですよ』


 そんなの知るか。


「待てよ。お前、ちょいちょいあっち側のこと知ってるよな。風呂場の天蓋雨(シャワー)も参考にしたとか言ってたし」


 この家の床が歩く度になるのも、昔の日本家屋にある鶯張りを参考にしたとか言ってたな。この世界にはない技術に建築を担当したオークたちの頭を悩ませたとかなんとか。


『あれに関しては一時期一部魔女界でブームになりましたよ。マージンの契約をするべきだったと反省してます。冗談ですが』


 ホントかどうかわからんトーンだな。


 ――コンコン。


『おや。誰か来たようですね。気が早すぎる客ですね。追い返してください』


 なんでだよ。少し早いではあるが、客なら話くらい――


『ダメです! ご飯が先! ちょっと嫌な予感がするので!!』


 ――コンコン。コンコンコン。ドンドン! ドンドンドン! ドンドンドンドン!!


「――マリィ! いるのはわかってるのよ! さっさと開けなさいよ!!」


 不躾な客人はまさかの知り合いか。聞いたことのない声だが、かなりガサツだな。


『やっぱり! あいつは追い返して! 絶対! 厄介事だから!』


 はいはい。厄介事ならまだ関わりたくないのは確かだ。


 ――ドンドンドン!


「うるせぇな。はいはいはい、今開けますよ」


 扉が激しく揺れている。せっかく整えた環境を入口から壊されたらたまったもんじゃない。ノブを掴んで回そうと手を伸ばす。


「あっっっっっっつ!!」


 触れたノブがヤケドしそうなほど熱い。咄嗟に手を離すと――


『あーっ! やっぱりやりやがった!!』


 紙を燃やすように扉の中心から火が広がり、きれいくっきりと消失させてしまった。外の景色と一緒に、赤いドレスを来た女が立っている。


「居留守を使おうなんて許さないわよマリィ! せっかくアタシが来たんだから出迎えなさいよ!」


 顔を合わせて開口一番不敬がすぎるな。何だこの女は。


「相変わらず辛気臭い場所ね。聖都からは遠いし、殺風景だし。なんでこんなところに拘るのかしら。ん? あなたは誰?」


 ……なんだ。目が合った瞬間、初対面の人を見る目つきに変わった。


「マリィはいないの? おかしいわね。魔力の残香はあるのに」


「マリィ……マリアは私ですが」


「嘘よ。顔は似てるけど、あなたはマリィじゃないわ。妹? あいつに肉親なんていたかしら。うーん」


『バレちゃいましたか。さすがはコチニールですね。ナカムラさん、私のことを別人だと思ってるならそのままでいいのでそのまま追い返してください』


「あ、あの。コチニールさん、用がないなら――」


「まあいいわ。戻って来るまで待つから。わざわざ来たってのに入れ違いだとめんどくさいもの。マタタビは? 奥にいるの? 使い魔とはいえマリィのこと嫌いなのによく甲斐甲斐しく続けてるわね。偉いけど不憫だわ」


「あ、ちょっと!?」


 コチニールという女はそのままズケズケと中まで入って椅子に腰掛けた。


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