魔王のいないファンタジー世界:『魔王と三騎士』より抜粋
第23章
< 省略 >
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黒きエルフが言いました。
「わたしはあの谷を越える。誰にも邪魔はさせない」
魔王はそれを聞き言いました。
「好きにしなさい。誰も邪魔はしません」
青きサキュバスが言いました。
「行くなら赤き霧も一緒に連れて行ってください」
赤き霧は何も言いません。
黒きエルフは青きサキュバスの言葉を無視して、赤き霧を置いていきました。
赤き霧は何も言いません。けれど、少し離れて黒きエルフの後を追います。
「ついてくるな。わたしは一人でいい」
赤き霧は何も言いません。けれど、黒きエルフの後を追いました。
しばらくして、大きな谷に到着しました。アビスの底は暗く見えず、向こう側ははるか先。その頂上で、黒きエルフは言いました。
「わたしは向こう側へ行く。ついてくるな」
赤き霧は何も言いません。一人谷底へと下っていく黒きエルフを見つめながら、その場から動きませんでした。
だって、その先にはなにもないのだから。谷の向こう側は、アビスよりも深く遠く、不毛な土地が広がるだけだから。だから、赤き霧は何も言いません。
< ページ損傷 >
魔王は言いました。
「地獄の先に果はない。先に進んでも、辿り着く先は地獄だけ」
傷だらけの黒きエルフは悔しそうです。魔王は谷の先を知っていて、何も教えなかったのですから。
「だから赤き霧を連れて行ってって言ったのに」
青きサキュバスが呆れた様子で言いました。黒きエルフは悔しそうにしています。
赤き霧は何も言いません。なぜなら彼は霧だから口がありません。物言う声がありません。けれど、黒きエルフを助けたのは彼でした。それを、彼は言いません。
< ページ損傷 >
魔王が枯れた大地に種を蒔きました。空には厚く黒い雲が浮かんでいます。
種の上に小さな星を産み、その間に小さな雲を浮かべました。雲は雨を降らし、星の熱で消えては地面からの熱でまた雲になりました。
数日が経ち、種から芽が生え、また数日が経ち、芽が伸びて葉を広げ、また数日が経ち、花が咲き、さらに数日が経ち、花は枯れて種を落とし、< 識字不明 >大きな大きな木が雲を突き破りました。
< ページ損傷 >
そして、魔王は滅びました。
おしまい
不穏な感じになってしまった「魔王のいないファンタジー世界」でしたが、異世界のベースになっているのが安直ですが中世西洋。インフラも身分制度も参考にしてます。
ありがちではありますが、本章ではどの世界にもかならずある『悪役』の登場です。退場してしまいましたが。
『悪役』の要素としてあるのが『カリスマ』か『記号』だと思っています。本作では『記号』としての悪役を採用しました。その中で『個人』をあげるにしても、ストーリー展開的に動かしにくいので『個人』としての悪役の採用はしていません。
そしてそれを上回る『暴力』。それ故の恐怖、畏怖…苦手なところではありますが、今後の展開に使えればと。
短いですがここまで。