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魔王のいないファンタジー世界(6)


 ――グリコレス=サルバトール一行が馬車に乗り込み去って小一時間後。エントランスにある作業台の近くに座って気持ちを落ち着かせた。


『珍しく動揺していましたね、ナカムラさん。血圧はまだ高いようです』


 マリアの身体だけあり、こちらの動揺は筒抜けのようだ。


「グリコレス=サルバトール。あいつはやばいな。はやくロロを安全なところに移動してあげなければ……」


 でも、どこに? グリコレスや小太りの様子から、匿っているのを疑われているはず。揺さぶっていたにしても、しつこすぎる。建物の外に移動させるにしても、遠くから様子を伺われてしまえばすぐに露見する。


『憲兵が奴隷業に片足を突っ込むなんてかなり特異的ですね。彼の憲兵内での立ち位置はこちらからは知り得ませんが、堂々とした立ち振舞からしてそれなりの地位はありそうです』


「となると、適当に通報することもできないか」


 やはりかなり面倒なことになりそうだ。信頼できるところに繋ごうにも、その先が安全かどうかなんてわからない。


 そもそも、俺にとって信頼できるのは誰だ? アルブやオルクス? グリルン家? リベン? なおさら頼れない。彼らの身に降りかかるリスクが大きすぎる。


『直接王宮に繋がるパイプも私にはありません。いや、あるといえばあるのですが……う、うーん』


 歯切れが悪いな。あ。もしかして。


『気付かないで! あそこには関わりたくない!』


「やっぱり、元勇者? 旧知みたいだし」


 なんなら今はネムというツテがある。割りと正攻法だとは思うが。


『嫌です! あんなクソ性格の悪い穀潰しに頼るくらいなら別の案を考えます! ええ考えますとも! 私は人助けの魔女マリア様ですよ! 私に恩があるヒトは数多しれず、きっとロロの助けになって――』


「そいつらは憲兵の圧力を跳ね除けきれるほどの力があるのか?」


『ぐっ……ない、……です。みな一般市民です……』


 つかえねー! 人助けの魔女つかえねー!


「よし。ネムに連絡を取ろう。話はそれからだ」


『どこから!? だから嫌だって言っているでしょう!』


「マタタビ―。ネムと連絡取りたいんだけどー」


『やーめーてー』


///


「――あいわかったのです。元勇者は避けて使えそうなヒトさがしてみるのです」


「ありがとう、ネム。マリアがどうしても元勇者とは関わりたくないみたいで助かったよ」


『さすがネムちゃん! 愛してる!』


 ホログラム的な通信方法を展開する魔法陣。魔法便利。


「あ。さすがに盗聴とかされてないよな」


「それは大丈夫なのです。ちゃんと暗号化されてますのです」


 セキュア通信も兼ね揃えてるとか魔法超便利。


「それよりも、憲兵が奴隷業とは物騒なのです。王都では権利の確立が盛んになって久しいのです。今の時代、夜王の眷属ですら正当な扱いを受けられるのにです」


 夜王の眷属? 何だそれ。


『魔王の属種と同義です。表現のブレってことで』


「夜王は魔王の二つ名みたいなものなのです。今は地獄と呼ばれる南側の地域は基本的に暗かったのでそう言われているのですよ」


 なるほど。……なるほど?


「そのロロって亜人の特徴を聞くにアナクスかもしれないのです。たぶん月の明かりを浴びると目が赤くなると思うのです」


『アナクスは亜人の中でも絶滅の危機に瀕する希少族ですね』


「アナクスは最南端の大地から移り住んだと言われているのです。彼らが死んだ後の眼が高級装飾品として乱獲された過去があるのです」


 何だそれは。奴隷とは名ばかりじゃあないか。殺される前提だなんて、性奴隷のほうがかわいいまである。


「古い文献には呪いの触媒にも使われていたようなのです。奴隷商人が重度の呪い持ちっていっていたのはそこから来ているかもしれないのです。まあ、それはデマなのです。ネムが知る限りではそのような効力はないのです」


『なら、ロロは誰かを呪うための触媒にするつもりだったのかもしれませんね。逃げ出した以上、行き場を失った呪いが自分たちに来ないように。横暴なのか臆病なのかわかりませんが』


「とにかくロロについては追って連絡するのです。それまでは上の階で匿って、外からも見えないようにするほうがいいのです。覗きはどこからされるかわからないのです」


 ネムとの通信が切れ、エントランスに静寂が訪れる。ネムの言う通り、ロロは上の階に移動してもらおう。


「まあ、マリアの部屋くらいしか使えないだろうな。ほかは危なっかしいし」


()()()()()()()()()()()()の部屋はほぼ魔界の空気なんで陰鬱なんですよねぇ。臭いし』


 んん? オリバとなんだって? 誰?


『あ、残りの弟子の二人です。オリバはロロが隠れていた武器部屋の主、スヴァルタアールヴは私の部屋の向かいにある散らかってる臭い部屋の主です』


 形容し難い脳筋のやつと野性味あふれるダークエルフだっけっか。いっちゃなんだが、あの二部屋はヒトが住める環境とは思えない。


『スヴァルタアールヴなんてそろそろ追い出したいんですけどね。あの子ガサツだし。けど片付けてくれないんですよね』


 かなしいかな、大家と借り主だと案外借り主のほうが強いのよね。


『あ、私の中身がナカムラさんってことはその二人には秘密にしてくださいね。オリバは私にマヂラブなんで殺されます。スヴァルタアールヴも鼻が利くので多分殺されます』


 そういう大事なことはもっと早く言え! こえーわ!


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