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魔女の弟子:告白


 はじめは興味本位だった。


 お父さんはいつも仕事で忙しいし、お母さんが亡くなってからはずっと一人だったから寂しかった。


 友達はいない。外は嫌いだから。


 だから、あまり人と話せない。話すのが苦手だから。


 お父さんは「人見知りだね」って言っていたけど、お父さんともあまり話さない。いつも忙しそうだから、声をかけると困ると思って。


 いつだったか。自分の声って変だなって思うようになって、余計に話すことが減っていた。


 それで困ることもなかったから、ずっと一人で遊んでいた。




 そして、――家の倉庫で、見たことのない種を見つけた。




 はじめは興味本位だった。




 家にある図鑑には同じ種のことは書かれていなかった。けど、アイブラスには少し似ていると思う。少し大きいかな? けど、やっぱりアイブラスとは違うみたい。


 植物を育てることは嫌いじゃない。ちゃんと育てたら大きくなってくれるから嬉しい。


 だから、家の後ろで育ててみることにした。


 何回も失敗してしまったけど、種はたくさんあった。だから、時間をかけて、かけて、三ヶ月くらいがんばったら花が咲いた。


 赤い、アイブラスに似た花。やっぱり似てるけど、少し違う。


 けれど、育てるのが慣れてきたころ、家の植木鉢では手狭になったから、日陰があるところを探して、村の近くにある草原に程度が良いところを見つけた。そこに植え替えて少ししたときに、小鳥が赤いアイブラスに似た花の蜜を吸いに来るようになった。




 だから、――はじめは興味本位だったのだ。




 少しだけ舐めてみた。思ったよりも甘かったけど、詳しいことがわからない花だし、毒とかあると怖いからすぐやめた。





 そうしたら、その日の夜に熱が出た。


 もしかしたらあの花のせいかもって思っていたけど、お父さんに怒られるかもって思って言えなかった。怒られたことはないけど、知らないものを口にして熱を出したってなると、もしかしたらあの花を処分しないといけなくなるかも。


 だから誰にも言わなかった。


///


///


 気が付いたら、知らないところにいた。


 大きな家で、硬いベッドの上で寝ていて、……なんでここで寝ていたかわからない。隣のベッドには頭に耳のついた子供が寝ている。亜人の子かな?


 自分がどこにいるか知らなきゃって思って、建物の中を探検していたら、本がたくさんある部屋があった。


 本は好き。一冊一冊に世界があって、夢がある。希望も絶望も、本によって違う。救いのない本もあるけど、それはそれ。どんな物語でも、そこには意味があるから。




 だから、はじめは興味本位だった。








 そこでたまたま開いた図鑑に、見覚えのある《《花》》のことが書いていた。


 それを読もうと思ったときに、乱雑な本の山にぶつかって、それがズレて、支えようと思って手をかけたら余計にズレて、大きな雪崩が起きた。


 頭の上から降ってきた本の雨。あまりの衝撃に意識を失って、――気付いたときには広い部屋にいた。


 そこには、銀色の髪をした綺麗な女の人がいた。あと、目が覚めたときに隣で寝ていた子供。


 この綺麗な人を見たときに、自分が丘の上にある魔女の館にいるんだと理解した。


 村にはマックイーン先生の診療所がある。だからこそ、村人はめったに魔女の館に行くことはない。話に聞いていただけで、自分も初めて会ったけど――綺麗な人だなって、心を奪われた。


 声も綺麗で優しくしてくれた。勝手に取った本も読ませてくれた。なんなら、読みたりなかったから借りていってもいいって言ってくれた。


 だから、最初の興味本位の答え探しができると内心気持ちが高まった。


 お父さんは仕事が一段落したみたいで、家に着くと泥のように眠ってしまった。声をかけても揺すっても起きない。ご飯のときに少し起きたけど、ぼーっとしてて、少しだけ食べてまた眠ってしまうほど。


 だから、時間はたくさんあった。一人の時間には慣れている。やりたいことを好きなだけしても怒られない。だからこそ、この時間であの花のことを調べた。


 アイブラスに似た赤い花。どうやら古い薬草のようで、なぜその花の種が離れの倉庫にあったのかはわからない。けど、好奇心をより刺激するには十分だった。


 花の効能もわかったころ、家に魔女さんがやってきた。一緒にいる眠そうな人がいたけど誰だろうか。


 魔女さんは貸していた図鑑で確認したいことがあるみたいで、――まさか同じ赤いアイブラスに似た花のことだった。離れに残っていた種を見せたら、やっぱり同じものみたいだ。


 偶然かもしれないけど、花のことを探しているみたいだったから、草原の日陰に移した場所へと案内した。


 なぜか、すこし花の様子が変わっていた。だれかが、来ていたのだろうか。


 魔女さんはすぐに花の蜜を吸うと、眠るように倒れてしまった。事情はわからなかったけど、一緒にいた人の指示でお父さんとマックイーン先生を呼んで、花のことと魔女さんのことを話して、それで台車で魔女さんを館まで運んで、それで……。


 終わってしまえばあっけなかった。はじめは興味本位だった。一人の時間を消費するために、家で見つけたよくわからない種を育てて、自分一人の秘密がこんな事態になってしまったけど、誰も怒らなかった。


 花は村に伝わる古い薬草で、ご先祖様がそれを管理していたけど、医療の発展で役目を終えて、けど、種だけが時間を超えて残っていて、それを見つけて、また薬として使われるようになるそうだけど、――




 どこか、寂しい。遊んでいたおもちゃが、みんなのものになる感覚。


 どこか、寂しい。見つけた宝物が、みんなのものになる感覚。


 どこか、寂しい。せっかく見つけたのに、どこか、寂しい気持ちが残った。




 けど、――村の子供達が、声をかけてくれるようになった。この子達は、花のせいで眠り病になったことを知らない。この子達は、自分が一人で何かをしていることに興味があったようだ。



 お互い、――はじめは興味本位だったのだ。

 



 村を出て、あの丘の先にいる魔女さんは、いつもそこにいる。いつまでも変わらない姿で。









赤いアイブラスとはイメージ的にはサルビアの花です。子供の頃、よく蜜を吸っていたのを思い出して採用しました。


『アイラム=マ=ドーナ叙事詩』は物語異世界の数千年前に起こった『アイラム』という魔王を巡る文学作品。全1688頁の長編。『アイラム』の出生と何故魔王になったのか、魔王時代の繁栄と滅亡、そして魔王亡きあとの世界について時系列順に記されています。




とま、新たに出したネタですが、メインはそこではなく、今回は魔女マリアの弟子の一人であるネムのお話です。


夢魔なのにいつも眠いからネム。安直ですが、頭の中のイメージは超かわいい。すでに登場したキャラの中では一番好きです。


ストーリーの中心は「大丈夫」という言葉です。口癖のように使うこともある「大丈夫」ですが、本当に「大丈夫」でしょうか。そう思って引っ張り出したお話です。


言葉は時に刃になり、時には麻酔にもなります。感覚は敏感にも鈍感にもなる。その処方箋として「大丈夫」があります。が、用法用量があるのがお薬。あなたは守ってますか。


さてさて。うらばなしもかなり放置していましたが、現在第3章「魔王のいないファンタジー世界」を書いていますが、正直言ってここらへんで異世界要素を出そうかと思っています。残酷にも鮮明に。元の世界感から乖離するかもしれませんが、これも実験。しばしまたれよ!


それではこのへんで。アデュー。

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