魔女見習いはじめました:その後のふたり
――広場に響く鐘の音。遠くまで届く金属音は、誰かの旅たちを告げるもの。追憶にも響くそれを、皆誰に送るものか知っている。数度鳴る鐘の音を、皆静かに聞いていた。
「今日もいい日ね。あなたと出会えてよかったわ」
空は高く、雲はない。その下で、涼しい声が青々とした草原に広がる。
小高い丘の上には何人もおり、黒いベールを羽織った女性がその中心に立っていた。
ベールの下で、緑色の綺麗な髪がおさまっている。髪の影には、わずかにシワが刻まれていた。その彼女の傍に、ヒト型に編み込まれた蔦の様な植物が立てられていた。
「あの人の旅立ちを見守って頂き、ありがとうございます。お別れの場に来れなかった方も含めて、故人との親交を深めてくださり感謝してもしきれません」
別れの言葉。それは、遺された者が、自己を慰めるものではない。
一字一句、故人に向けた最後のメッセージであり、――それは愛の告白にも近い、甘い言葉であった。
「わたしはこの愛を、この髪に誓いました。死がふたりを分かつまで、と。けど、この思いはきっと、死してもふたりは分かれない。これが、わたしのプロポーズです」
再度響く、鐘の音。遠くから鳴るそれは、きっと彼岸の先にも届くだろう。
蔦の根本に、優しく火を付ける。徐々にヒト型の全身に火が広がり、黒い煙となって空へと昇っていく。まるで、天に届くように。
すべてが燃えた頃、蔦の灰の中に、琥珀色に輝く石が遺っていた。
彼女のこれからは、先に待つ彼を追うものではなく、彼とともに過ごした轍を、再度確かめるものとなる。
数年後か、数十年後か。それともすぐか。そればっかりは誰にもわからない。
けれど、彼女が緑色の髪に誓った愛の言葉だけは、永劫色褪せることはないだろう。
今日も丘の向こう側には、銀色の髪をした碧眼の魔女がいる。あの日と変わらない姿で。
この度は「銀髪碧眼巨乳魔女マリアの災難」をお読みいただきありがとうございます。本作品の各章における裏話を書いていこうかと思います。
さて、本作についてですが、私的には珍しく設定ありきのノープロット、D-51 バリに走り出した作品となります。ある意味 Brand new world です。
書きながら伏線になりそうなものを追加してキャラクターに物語を動かさせているのが現状です。
第1章となる「魔女見習いはじめました」では、異世界で魔女マリアとして生活を余儀なくされた旧ナカムラですが、いきなり女になったことによる葛藤、異世界ゆえの亜人との遭遇、前世界での性格との齟齬などなど、導入故に詰め込みすぎた感はありますが、世界が違うのである程度の世界設定を変えてみました。
1つに食事の見た目、1つに世界そのもの、1つにヒトと亜人との違い。
国が違えば食文化がかわり、宗教が変われば口にできるものも変わる。なら世界が変われば? それはもう見たことのない見た目のものや色から得られる情報が変わるのでは。とかなり実験的な設定です。
世界そのものは、これは宗教的な考えからの思いつきです。数百年前まで地球は平面であるとの考えや、天と地と冥界の三層構造、または世界は亀の甲羅であるなど、世界中に点在する世界のあり方のミックスです。グルグルまわってもバターにはなりません。
ヒトと亜人の違い、これはファンタジー作品では亜人は奴隷的風潮も多々あり、ヒトは白人、亜人は有色人種などが下地なのではと思っていました。けど、本世界観では単純に生き物として違い、互いに文明があるとしました。人種によって得手不得手もあって然るべきかと。
今回はエルフの『アルブ』とオークの『オルクス』の話にスポットを当てましたが、参考としては友達の話をベースとしています。そこからどう落とすか、を書きながら考えた結果、今回のオチとなりました。ラブストーリーにするつもりはなかった。
ちなみに。オルクスの元奥さん『アイセム』の由来になった異世界の花『アイセンマ』ですが、その名前の由来は健忘症の意味を持つアムネシアの逆再生(AMNESIA → AISENMA)です。
広げた伏線で後々に使えそうなのは3人の弟子(本の虫サキュバス、短気で野生児のダークエルフ、謎の脳筋)と滅んだ魔王と穀潰しの勇者でしょうか。第2章以降での展開でどう料理するか考えます。
それでは、今回はこれくらいで。アデュー。