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Deep Level  作者: 江菓
4/12

第四話 ムシとタマゴ

 ハナコを初めてF地区に連れて行った日から今日で一ヶ月。友達やらエルニエッタと共に楽しみながら順調に強くなっているらしい。どうして「らしい」とつくのかと言うとあれからハナコにあっていないからだ。会いたくないという理由も否定はしないが、それよりも今の時期がポイントの稼ぎ時だからだ。要は仕事が忙しいからハナコの相手をしている暇がない。ハナコからは毎日のように「今日はこんなことがあった」とメールが届く。それに私は「ふーん」とか「そう」と返している。そのため、私は今のハナコの現状をしらないのだ。まぁ、知りたくもないが。今はU地区で、アメちゃん爆弾をお手玉にしながらモンスターを探しているところだ。やはりこの時期はモンスターが一部の場所に密集しているため見つけるのも一苦労だ。

「いないな〜」

「ウェナトリアちゃーん!」

聞き覚えのある声が後ろから「おーい!」と聞こえてくる。ここに来ることはないはずなんだが・・・

「げっ・・・横顔エルニエッタとハナコ・・・と誰?」

後ろを振り向くと、エルニエッタとハナコ、そして初めて見る黒髪の少年が走ってきていた。少年と言っても背の高さなどを見ると同い年くらいだろうとわかる。

「ウェナトリアちゃん!紹介するぜ!ハナコの友達で俺の教え子のアキだ!」

「アキです!あの、僕、ウェナトリアさんに憧れてて、その、」

「アキ!言っちゃえ!」

エルニエッタが紹介すると、前へ出てきたアキという少年。モジモジしながら何かを言おうとしてハナコに背中を押されている。自分に憧れている人なんかいるんだなぁ〜。

「あの!僕、初めてウェナトリアさんを見たときから、一目惚れしました!!よかったら、僕と・・・お付き合いしていただけませんか!!」

「よくいったぞ!アキ!」

「あとは返事だけ!!」

耳まで赤くしたアキという少年は私の方に手を差し出している。その後ろでエルニエッタとハナコがどうするの!と言いたげな顔でこちらを見ている。そんなことのためにわざわざここまで来たのか。時期が時期だからモンスターは少ないがそれでもこんな茶番をする場所ではない。でもまぁ、少しくらいならこの茶番に付き合ってやろう。お目当ての物を探すのに飽き始めていたところだ。

「えっと、アキ?さんだっけ?」

「はい!」

「付き合うなら私とZ地区に行ける人がいいんだけど、アキさんはZ地区に行ける?」

「Z・・・地区・・・ですか・・・」

アキの顔がみるみる青ざめていく。「Z地区に一緒に行こう」と言うことは「一緒に死にに行こう」と言っているのと同じらしい。この前ソウル先輩に聞いた。

「死にたくはないです・・・でも、僕はあなたにふさわしい男になりたい!!僕は一緒に行きます!!」

「アキ・・・すげぇよお前!!」

「ウェナトリアさんについていくなんて・・・私出来ないよ・・・」

アキの頭を撫でるエルニエッタとアキの肩に手を置くハナコはそんなことを言う。この二人めちゃくちゃ失礼だな、頭吹き飛ばしてやろうか。

「後ろの二人は後で覚えてろよ。アキさんはまぁ面白いし、今日私についてきて生き残ったら考えてあげるよ。」

「ホントですか!?」

「やったな!アキ!」

「良かったじゃん!」

「二人ともありがとうございます!」

ガヤの二人はアキに抱きついて喜んでいる。言い方は悪いが二人はアキに利用されたと気付いているのだろうか。

「まだ今日は終わってないけど。」

「すみません!」

「そういやウェナトリアちゃんは今日何を狩るの?ここにはもうモンスターいないけど?」

エルニエッタが不思議そうに聞いてくる。

「エルニエッタ知らないの!?」

「えっなにが?」

「はぁ・・・いいや。ついてきて、この時期の風物詩を見せてあげるよ。」

「「「風物詩?」」」

「はもらないでよw」

三人は頭にはてなを浮かべながら私についてくる。さっき、ちらりと全体チャットを確認したときここの近くにあるマンションの廃墟に私の探している“風物詩”があると書いてあった。

 三人と出会った場所から少し歩くと崩れかけたマンションの廃墟が見えてきた。

「えっなにあれ・・・」

「き、気持ち悪・・・」

「うわぁ・・・」

三人がそう言っている理由は単純だ。廃墟のマンションにこの辺のモンスターが群がっているからだ。

「マンションの一番上見て。」

「げっ、ムシじゃん!」

エルニエッタが嫌そうな顔をする。それもそのはずだ、マンションの一番上にちょうちょのようなモンスターが二匹飛んでいるからだ。ちょうちょのモンスターの胴体に当たる部分には大量の目玉がついており、一匹の羽には目のような模様、もう一匹の羽には目を閉じたような模様がついている。

「あれは『ムシ』っていうモンスター。ディープレベルにいるモンスターの中では一番強い種類だよ。一匹三百M。」

「えぇ・・・」

「あれが見つけたら逃げないといけないムシ・・・」

ハナコはもちろん初めてだろう、アキは反応を見るに聞いたことはあるようだ。そして、エルニエッタが風物詩がなにか気付いたのかどんどん顔が青ざめていく。

「なぁ、ウェナトリアちゃん・・・」

「なに?」

「もしかして風物詩って・・・」

「正解。」

「まじで言ってる??」

「マジマジ。」

「なんの話?何があるの?」

ハナコとアキはキョトンとしている。多分知らないのだろう。初心者が知らないのは当たり前だ。

「風物詩っていうのは、あいつらのタマゴのこと。」

「タマゴ?」

「そう、今がアイツらムシの繁殖期で、一つ五百Mのタマゴが見つかるようになるの。タマゴを生むと、その場所にはモンスターが大量に集まるから見つけても逃げる職員が多いの。私はきっちり五百M貰うけどね。」

「・・・ウェナトリアさんからしたらあのマンションは宝の山ってこと?」

「うん。」

「・・・」

「さ、さすがです!!」

殺人鬼でも見るような目を無言で向けてくるハナコの隣でアキがキラキラした目を向けてくる。温度差で風邪を引きそうだ。

「じゃ、私いってくるから。」

「あ、あんな地獄にほんとに行くのか!?」

焦ったようにエルニエッタに腕を掴まれる。焦ったような心配そうな顔をしている。

「行くよ。そのためにわざわざ探したんだから。」

「お、俺もついていくから!!一人はウェナトリアちゃんでも無理だよ!!」

「前にもやったし大丈夫だって。てか、エルニエッタそんなに強くないじゃん。ここで三人固まってくれてたほうがまだ生存率高いよ。」

「うっ・・・それはそうだが・・・」

「行かせて。早くしないとムシのオスがどっかいっちゃうじゃん。それとも、エルニエッタが三百Mくれるの?」

「・・・」

エルニエッタは黙って私の腕から手を離した。Mを払いたくないのか、私の強い言い方に怖気づいたのか、まぁでも私より弱いやつの言うことはだいたい弱音だ。そんなの聞く必要がない。

「私が帰ってきたとき三人仲良くドッグタグになってるとか無しね〜。」

そう言って私は三人の元を離れ、マンションへ向かった。三人はただただ無言で私を見送っていた。

 何も考えずに目の前に来たモンスターの頭を吹き飛ばす。少し遠くにいるやつにはアメちゃん爆弾をプレゼントする。

「このマンション、エレベーター壊れてんじゃん階段かよ〜」

だりぃ〜と言いつつもMポイントのために階段を登る。最上階に近付くに連れ、ムシの胴体から切り離れ、個体として攻撃してくる目玉が増えていく。目玉自体は弱いのだが、量が増えると面倒で嫌いだ。後、羽音がハエや蚊に似ていて不快。

「次で最上階か?」

階段から顔を覗かせると、階段の続きは梯子になっていた。ここが最上階であっているようだ。やはり、目玉が八匹ほど漂っていた。やっぱりいるよな〜。爆発させて屋上行こう。アメちゃん爆弾を二個投げ、爆発音を聞きながらはしごを登る。

「お、いるねぇ。」

屋上にはメスのムシが止まっており、その上をオスのムシが羽ばたいている。メスのムシのおしりに当たる部分からオレンジの大きな丸い物、タマゴが生まれたばかりのようだ。産卵が終わってメスの体力が回復するまで三十分ほど。その間オスはメスとタマゴを守るため、近くを浮遊している。オスを仕留めるのは今しかない。アメちゃん爆弾をオスに投げつける。ボフンッという音と共にオスの胴体の一部がまるで焼いてとろけたチーズのようになっている。

「クソッ、外したか。」

オスは溶けた自身の体を気にせずに自分に危害を加えたものを探し始め、私を見つけると残っていた体についている目玉を切り離し、襲いかかってきた。

「見つかったか。」

手に持っていた扇子を開き、こちらに向かってくる目玉たちへ扇子を振る。すると、扇子をひとふりするだけで突風がふき、目玉たちは吹き飛ばされ、地面のコンクリートに叩きつけられじゅわっと溶けてなくなった。

「そんなのじゃ、私は倒せないぜ!」

オスはめげずに自身の体から目玉を切り離しこちらに送ってくる。それをアメちゃん爆弾や扇子で叩き落としていく。オスの目玉が徐々に減っていき、貧弱な胴体が露わになる。ムシが強いと言われるのはこの目玉と幻覚を見せる鱗粉を振りまくことだ。しかし、鱗粉は下に入らなければかかることはないし、目玉も持久戦に持ち込んでしまえば後はムシの胴体から目玉がなくなるまで目玉を叩き潰せばいい。それができれば一人前だと師匠が言っていた。

「いつ見てもムシの体は貧弱だな!!これでおしまいだ!」

そう言って、ムシの羽にアメちゃん爆弾を投げ爆破させる。羽がなくなってひらひらと落ちてきたムシの顔面を扇子で爆破させれば、ムシのオスは溶けてなくなった。

「十八分ってとこか。」

チラリと休んでいるメスの方を見ると何も居なかった。タマゴだけがキラキラと輝いている。

「どこ行った!?」

周りを見るがどこにも飛んでいない。下に降りたのか?そう思い、マンションの屋上から顔を出すと、アキ、ハナコ、エルニエッタが襲われていた。ハナコとエルニエッタは逃げつつ攻撃を当てているが弾が小さい。歌いすぎてもう声が出ていないのだ。エルニエッタの背中ではアキがぐったりとしている。多分鱗粉を浴びてしまったのだろう。

「やばい!!!見てないうちにあっちに行ってたか!!」

飛び降りていきたいがドッグタグがあるので仕方なく階段を使う。間に合え、間に合えと心の中で願いながらマンションの階段を二段飛ばしで駆け下りる。

 下につくと、三人が倒れている上にムシがまるで死ぬのを待つ死神のように飛んでいる。メスのムシは目玉かヒトやサカナがいなければ相手を殺せない。そのため殺してくれる奴らが来るまで鱗粉を撒いて夢の世界に連れて行く。メスの鱗粉は睡眠作用があり、オスの鱗粉には幻覚作用があると少し前に発表された。要はメスの鱗粉を浴びれば眠ってしまい死を待つばかり、オスの鱗粉を浴びれば人間同士で殺し合いをしてしまうということだ。オスを先に殺していてよかったと心の底から思う。それにしてもどうするか、多分アメちゃん爆弾を投げれば外してしまった場合、下に寝ている三人に確実に被弾する。しかし、自分にはこれくらいしか攻撃方法がない。三人によってきている雑魚を爆散させながら策を考えるが一向に思いつかない。

「ウェナ、何を難しい顔をしているんじゃ?」

聞き覚えのある少ししわがれた声が背中から聞こえる。振り向くと杖をついた白髪のおじいちゃんが居た。青い浴衣に見を包んだおじいちゃんは私の師匠であるゲンジだ。

「師匠!実はかくかくしかじかで・・・」

これまでの経緯を雑魚の掃除しながら師匠に話す。

「なるほど、だから雑魚掃除をしておったわけじゃな。」

「ですです。」

「まぁ、ウェナの武器では被害が出るのも仕方ないのう。爆弾を使い始めた頃に何も考えずに投げて五人も怪我させたのが懐かしいのう。」

「あの頃よりかはちゃんと成長しましたよ。」

「そうじゃな。わしは優しいからのう、あいつはわしに任せ。」

「お願いします!」

師匠が肩を回しながらムシに近付いていく。ムシは師匠に気付いて、師匠に近付く。次の瞬間、師匠は助走をつけて飛び上がり、ムシの脳天に仕込み杖を突き刺す。師匠はそのまま、仕込み杖をさした状態で重力により下に落ちていく。刀は切れ味が良く、師匠が下に行くたびにムシは真ん中から避けていき、最終的には真っ二つになり溶けてなくなった。

「おぉ!さすが師匠!」

「ふぅ、やっぱり歳じゃ・・・真っ二つにするのに二分もかかってしまったわい。」

「それでもすごいじゃないですか。」

「そうかのう?まぁ褒めるのは後じゃ。こやつらをどうするか・・・」

「あー、それなら任せてください。」

「なにか良い策があるのか?」

「策と言うかなんと言うか・・・まぁ見ててください。」

「うむ。」

左袖から飴玉を三つ取り出す。包み紙を開け、一人一個ずつ口に入れる。三人がもぐもぐとした次の瞬間、三人の口から同時にすごい勢いで飴玉が飛び出す。

「「「「すっっっっっっっっぱ!!!!!!!」」」

「あーあ、アメがもったいない。」

「ウェナトリアちゃん!!!俺らに何食べさせたの!!!」

エルニエッタが舌をハンカチで拭きながら叫ぶ。ハナコは涙を流しながらぺっぺっとツバを吐いている。アキは静かにうずくまっている。

「これはボスちゃんが特別に作ってくれた酸っぱいアメ。すっぱすぎるから商品化は社長から却下されたらしいよ。」

「なんでそんなもん持ってんだよ!!!てか、なんで食わしたんだよ!!!!」

「全然起きないから三人とも。」

そうすっとぼけると隣にいた師匠が小声で「起こす素振りもしてないがのう。」と言ったが三人には聞こえてないようだ。

「起きたならタマゴ潰しに行こ!」

「そういえば見つけたと言っておったのう。」

「そ、その前に!!この人は誰?」

ハナコは涙を拭きながら師匠を指差す。アキも知らないという顔をしている。エルニエッタは気付いて驚きで顔をこわばらせている。

「この人は私とソウル先輩の師匠。今のところランクキングで唯一殿堂入りしてる有名人。」

「有名人じゃないわい。どうも、うちのウェナがお世話になっとるのぉ。名前はゲンジじゃが、ウェナとソウルからは師匠って呼ばれておる。よろしくのう。」

「ウェナトリアさんの師匠!?よ、よろしくお願いします!!」

「ほ、ほんもの??」

「本物じゃよ。」

「めっちゃ尊敬してます!!!」

ハナコとアキは驚きで目を丸くしている。エルニエッタは目をキラキラさせながら師匠と握手している。師匠は照れながらもエルニエッタと握手を交わす。

「よし、じゃあもういいよね?タマゴ潰しに行こ!!」

「そうじゃな。」

「はい!」

五人でマンションの屋上へ雑談をしながら向かう。エルニエッタは憧れの師匠を目の前に目をキラキラさせながら話しかける話題を絞り出しているが、なかなか出ず、こちらに助けを求めてきたが師匠がそれを察知し声を出してくれた。

「タマゴ狩りなんて久しぶりじゃのう。」

「ゲンジさんはやらないんですか?」

「タマゴ狩りは大変じゃからもう歳のわしには無理じゃ・・・後、しなくてもいいくらいには貯金しとるからのう。」

「な、なるほど・・・さ、さすがです・・・」

 屋上につくと、先程のタマゴがキラキラと輝いている。

「これが・・・」

「タマゴ・・・」

「きれいだなぁ」

タマゴを初めて見たハナコ、アキ、エルニエッタの三人は目を輝かせている。

「ちなみにそのタマゴからオスのムシが二匹、メスのムシが三匹生まれる。」

「決まってるの?」

「決まってるよ。ここはディープレベルだからね。」

「ディープレベルは現実とは逆の世界じゃからのう。向こうで数字が決まっていたらこっちでは決まっていないのじゃ、逆に向こうで数が決まっていなければこっちでは決まっている。そういうものじゃから。」

仕方ないのじゃと師匠は首を立てに振っている。

「ちなみにそのタマゴも生きてるからあんまり近くに行くと大変なことになるよ。」

「大変なことって?」

三人はタマゴに触れようとしている。確かにタマゴはキラキラしていてとても魅力的だが・・・三人が触る前に話さねば。

「そのタマゴからは生物を魅了する成分みたいなもんが出ててそれに引き寄せられた奴らを毒で弱らせて、根を伸ばし養分にする。」

その話を聞いて三人はみるみる顔を青くさせていく。

「三人は今多分タマゴが魅力的に見えてるだろうけどそれはタマゴが見せてるやつで後一歩でも近づけばあんたらは三人仲良くタマゴの養分だよ。」

そうとどめを刺すと三人は急いでタマゴから離れ師匠の後ろに入った。師匠は後ろに隠れた三人はみながら「元気でよいのう!」と笑った。

「五百Mいただき!」

そういいながらタマゴにアメちゃん爆弾を投げつける。紫色の煙がボンという音と共にタマゴを覆い、煙が消えた頃にはタマゴは跡形もなくなっていた。Mアプリを確認するときっちり五百M加算されていた。

「ちなみにタマゴの中って大量の目玉が入ってるみたいになってて、刀とかで処理するときはタマゴを切ると大量の目玉がドロっと出てくるんだよ。」

「想像するだけで気持ち悪い・・・」

「知りたくなかったです・・・」

「俺もうタマゴ狩りはしたくない・・・」

三人は心底嫌そうな顔をして師匠の後ろからこちらを見ている。ハナコとアキはともかくエルニエッタはダサいの一言に尽きる。師匠はニコニコと笑っている。

「ウェナ、まだするのか?」

「んーどうしよう。・・・三人いるしもう帰ることにします。」

「そうか、わしも今日はもう終わる。少しばかり晩酌に付き合ってくれると、この老いぼれが喜ぶんじゃがのう・・・」

ちらりとこちらを伺うように見る。酒は控えろと口酸っぱく言っているがまぁいつ死んでもおかしくないのだから少しくらいはいいか。

「少しだけですよ。」

「うむ、わかっておる。じゃあ先に帰っておるぞ」

「はい。」

酒じゃ酒じゃ!と喜びながらマンションから飛び降りる師匠を横目に、怯えきった三人に話しかける。

「今日はもう終わりだけど、三人はどうすんの?」

「帰る・・・」

「帰ります・・・」

「帰るわ・・・」

「わかった。エルニエッタ、ハナコとアキをちゃんと帰らせろよ。連れてきたんだから。」

「はい・・・」

「ん、じゃあバイバイ。」

そう言って三人を置いて屋上から飛び降り、師匠の待つ師匠の別荘に帰った。


 別荘に帰ると師匠が池の鯉に餌をやっていた。そんな師匠の背中を見ながら、晩酌の準備をする。準備と言っても、ツマミとして小魚アーモンドをお皿に盛り付け、自分の飲む缶ジュースと一緒にお盆に乗せて師匠のいる庭が見渡せる縁側へ持っていくだけだ。

「師匠。」

酒瓶の蓋を開けながら、鯉を見ている師匠の背中に声をかける。

「お、ふふふ・・・嬉しいのう!」

ニコニコとしながら師匠は縁側に座る。師匠の持つコップにトクトクとお酒をついであげると師匠は嬉しそうに目を細める。師匠はコップに注がれたお酒をこくこくと飲み、プハーッと声を上げる。そんな師匠の嬉しそうな声を聞きながら自分も缶ジュースをあけ、飲む。サイダーのシュワシュワと心地の良い炭酸が喉を通り過ぎ、舌の上には甘さが残る。やっぱり美味しいな。そう思いながら缶ジュース片手に月の映る池を眺めていると、師匠が口を開いた。

「わしには、伴侶も子供も、もちろん孫もおらん。」

「そうですね。」

「わしにとってソウルとウェナが子供じゃ。」

「はい。」

「ソウルには前に言ったが・・・ウェナ、お主は少し無茶をしすぎる。」

「・・・」

師匠の空になったコップにお酒を注ぎながら、まぁ無茶をしすぎてしまっている場面もあるなぁと思い出す。

「今日も、お主は三人を助けるために策を練って一人で解決しようとしたじゃろう。」

「そう、ですね・・・」

「あぁいう時は誰かを呼べと言ったじゃろう?今日、自分でも言っておったが、お主の武器は少々周りを巻き込む。今日のような人質が取られている場面ではとても弱くなってしまう。」

「呼べる人がいないんですよ・・・」

「いるはずじゃ。もう一年はこの業界にいるのじゃから、名も知れ渡っておる。わしが呼べば他のものはすぐ来る、ウェナが呼んだってみんな来てくれるはずじゃぞ?」

息継ぎをするように師匠はお酒を飲む。

「それは師匠が有名人だからでしょう?」

「そうかのう?まぁ、それはええ。とりあえず、ウェナは人に頼ることを覚えるんじゃ。」

お酒を飲んではいるが真剣な表情でそういう師匠。いつもとは明らかに違う雰囲気がある。何かあるのだろうか?

「師匠、どうしたんですか?今日はなんか・・・変ですよ。」

「・・・」

師匠にそういうと、師匠は私から目を離し、小魚をつまみながら月を眺める。瓶に残っている最後のお酒を師匠の空のコップに注ぎ、空の瓶をお盆にのせる。

「嫌な・・・予感がするんじゃ。」

「嫌な予感、ですか?」

「あぁ・・・」

「師匠の予感は当たりますからね・・・気をつけます。」

「うむ・・・」

月明かりに照らされてうっすらと見える師匠の顔は険しくなっている。師匠の感は生きていた年数のせいなのか師匠自身が鋭いのか大小様々でも、とてもよく当たる。空になったコップとお皿をお盆に乗せ、瓶を手に持った。

「さ、今日はもう寝ましょう。お酒も無くなりましたし。」

「そうじゃのう。」

「師匠は飲むのが早いし全然酔ってませんね。」

「そうかのう?」

「そうですよ、ソウル先輩は缶ビール一本でべろんべろんになってましたよ。」

「それは・・・ふふふ、弱すぎじゃないかのう?ふふふ」

「ですね。ふふふ」

「ウェナがお酒が飲めるようになったらソウルも連れて三人で飲みに行きたいのう!」

「そうですね、師匠の好きなお酒を飲んでみたいです!」

「ふふふ、ええのう!」

「じゃあ、私はこれ片付けたら帰りますね。」

「うむ。おやすみじゃウェナ。」

「はい、おやすみなさいです師匠。」

そう言って縁側で解散した。師匠は別荘内にある自室に帰っていき、私は台所で片付け、終わった後、自宅へ帰った

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