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Deep Level  作者: 江菓
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第二話 ヒト

 待ち合わせ場所で、スマホをいじりながらミキの到着を待つ。学校があるといえど、もう三十分も待たされている。どうせまたどっかで道草でも食ってんだろ。

『いつくんの?もう行っていい?』

そう個人チャットに送る。すぐに返事が来た。

『ごめん!もうすぐ!』

「もうすぐ・・・ねぇ・・・」

こいつのもうすぐなんて信じていない。どうせ今頃、やっと自転車に乗って学校からこちらに向かっているところだろう。Tシャツにジーパンという格好で三十分近く待たされている私の気持ちも考えろよクソが。

「あいつとの待ち合わせとか何ヶ月ぶりだ?あぁ苛つく・・・」

はぁ、とため息を付きながら、近くにあったファミレスに入る。流石に駅前で三十分も立ちっぱなしで足が仕事の前に棒になって使い物にならなくては困る。まぁ、今回は初心者が練習で行くA地区に行く予定だ。強いモンスターはいないから、私の出る幕はないだろう。ファミレスでドリンクバーと山盛りポテトを頼む。

『待ち合わせ場所の近くにあるファミレスで山盛りポテト食ってるから。』

『わかった!』

「まずごめんだろ。ほんと嫌いだわ〜」

すぐに来た熱々の山盛りポテトを食べながら独り言をつぶやく。お水と一緒に来たおしぼりで指を拭いたあと、ドリンクバーに行き、コーラをつぎ、席に戻ってぼーっとスマホを眺めながらハナコが来るのを待った。


 待つこと約十分。チリンチリンという客の来店を知らせるドアベルの音と共にハナコがファミレスにやってきた。私を見つけ、私の前に走ってくる。こけねぇかな、という願いも虚しく、ハナコは私の前の席に座る。

「ごめん!遅れた!」

「いいよ。先出てて。」

「わかった!」

そう言って氷が溶けて味の薄くなったコーラを飲み干し、レジに向かった。お会計をしていると、レジ横の棒付きキャンディーが目に入る。そのキャンディーはいつも自分が食べているロリポップキャンディーの新しい味だった。緑色の包装がされたロリポップキャンディーを手に取る。

「これ・・・」

「どうぞ!そちら無料でお配りしております!」

ニッコリと笑顔でレシートを渡しながらそう告げる店員。店員の鏡だなぁ・・・自分も愛想良くこうやって笑顔が作れたらもう少し友達とかできて、友達とお金稼ぎ以外の共通の趣味でまだ高校生やってたのかな・・・今更だがな。

「ありがとうございます・・・」

レシートを受け取り、ロリポップキャンディーも一本貰ってファミレスを出た。自転車置き場に行きながら、ロリポップキャンディーの味を確認した。

「どれどれ・・・『君に渡せなかったミントガム味』。いや、キャンディーなのにガムの味かよ。」

文の意味不明さに思わずつっこんでしまった。はっとして周りを見る。良かった、周りには誰もいない。ちゃちゃっと手馴れた手つきで包装を剥がし、ゴミをカバンの内ポケットに入れる。キャンディーをぱくりと口に入れると、ミントが口に広がる。鼻がスースーするほど強烈なミントがキャンディーを口に入れている間、持続的に攻撃してくる。

「なかなか・・・うまいな・・・悪くない。」

やはり、私とこのロリポップキャンディーの味はとても相性がいいらしい。だが、やはり雨の日味には勝てないな。そんなことを考えながら自転車置き場に着くと、ハナコが自転車に乗っていた。やる気満々という表情で。

「今からどこ行くの?」

「今から私のお気に入りの水に入れて人気のないスポットに行って、A地区で狩りをする。」

「わかった!」

「じゃ、黙って着いてきてね。信号以外は待たんから」

「はい!」

自転車に乗り、私はミキを連れてお気に入りの入水スポットに行った。


 自転車で走ること二十分。ファミレスのある煩い大通りから外れ、静かな住宅街を抜けたところにある大きな和風建築のお屋敷。

「ね、ねぇ、ここって誰の家?ナミの家じゃないよね?」

「違うよ。私の師匠の家。正確には師匠の別荘かな。」

「べ、別荘!?」

「そう。ここは別荘でもあり、稽古場でもあるかな。師匠の弟子になったときに『人前で急に消えると色々大変だから、ディープレベルに入るときはここから行くといい。』って教えてくれたの。本当は教えたくないけど特別ね。あんたが一人でディープレベルに入るときは家の風呂からでも行きなさいよ?ここは私と一緒のときだけ。おk?」

「わかった!」

門を開け、自転車と一緒に屋敷の敷地内の入る。邪魔にならない場所に自転車を止め、庭に行く。

「中には入らないの?」

「中には入らない。基本、中には先輩か師匠が眠ってるから。中に入って起こすようなことはしないよ。」

「師匠もその先輩?も何してる人なの?」

「さぁ?師匠は聞いたことない。先輩はブラック企業で働いてるって聞いたことあるけど・・・もうやめたんじゃない?まぁ、SKPの職員はよくわかんない人が多いから、気にしてるほうが疲れるだけだよ。」

「な、なるほど・・・」

「私はいつも、ここの庭の池からいくんだよね。」

「池!?そんなのあるの!?」

「あるある、ほら。」

指を指した方には大きな池ときれいな花々が咲いている庭があった。

「す、すごい!!こんなの漫画とかアニメでしか見たことないよ!!」

「でしょ。師匠の趣味なんだって。」

すごい!!と言いながらミキは池を覗き込む。池には一匹何千万もする錦鯉が三匹優雅に泳いでいる。赤と白の美しい錦鯉はミキの顔を見て池の反対側に逃げるように泳いでいく。

「あっ・・・行っちゃった・・・」

「良かったね。あれ、一匹何千万もする錦鯉だから下手に触って殺したら弁償だよ。」

「えっ!?は、早くいってよ!!」

「はいはい。じゃ、さっさと行こ。」

「あっ、うん!どこの地区だっけ?」

「A地区。」

「A地区ね!わかった!」

自信満々で言うその顔に不安しかない。まぁ間違えて違う地区行って死んでくれればそれもそれでいいか。

「じゃ、向こうで」

そう言って目をつぶり、『A地区に行く』と念じながら池に飛び込んだ。いつものふわりと体が浮かぶ感覚。

足の裏に硬い感触を感じてから目を開けると、黄色い空に浮かぶ紫の雲が目に入る。瓦礫の少なさから見てちゃんとA地区に来れたようだ。

「ハナコは・・・」

周りを見ると、少し離れた場所にへたりこんでいる白いワンピースの奴が見えた。近付くと白いワンピースを着たミキが目を回していた。そういえばこいつ、すぐに酔う体質だった。

「おーい。生きてるー?」

「生きて・・・ます・・・」

「良かった。じゃ、行こうか。」

「ちょっと待って・・・酔ってて動けん・・・」

「はぁ・・・わかった。」

「ありがと・・・」

顔を手で覆ってうずくまるミキの隣で私はスマホをだし、全体チャットに『A地区居ます』とだけ書き込んだ。スマホをポケットに入れ、舐めきったアメの棒もポケットに入れる。左袖からロリポップキャンディーを出し、剥がした包装もポケットに入れる。ポイ捨てはしない主義だ。ロリポップキャンディーを舐めながらあたりを見る。初心者連れの三人パーティーや初心者だけのやつもいる。みんな楽しそうに狩りをしている。あんな時期もあったなぁと懐かしく思う反面、久々に来たA地区は始めてきたときのときめきがなかったのを感じて自分も成長したのだな、と実感する。

「ふぅ・・・もう大丈夫。行けるよ!」

「ん。じゃあ、ついてきて。人が少ないとこのほうがいいでしょ。」

「わかった!」

スタスタと、モンスターと人の間を抜けて人の少ない穴場スポットに向かった。

「おい・・・あれって、ボムクイーンのウェナトリアじゃないか!?」

「嘘だろ!?ボムクイーンじゃん!なんで初心者向けのA地区にいんだよ・・・!」

「いつもT地区とかU地区のくせに・・・」

「前にZ地区に行ったって噂だぜ・・・」

「嘘だろ・・・?V地区以降のW、X、Y、Z地区は熟練者でも死ぬ可能性のある危険地区だろ・・・?」

「気をつけろ、あいつの近くにいると早死するぞ・・・」

「戦闘狂の弟子でもあり、鬼殺しのソウルの弟弟子なんだろ?やべぇよ・・・」

「さすがランキング1位ってところか?俺は関わりたくねぇな・・・」

ヒソヒソ話している声が聞こえる。いつものことだ。人の多いところへ行けばみんな逃げていく。戦闘狂と呼ばれている師匠の弟子であり、鬼殺しという二つ名を持ったソウル先輩の弟弟子である誇りを持ってただただ仕事をしていただけなのに、いつの間にかランキングは上位をキープし、ボムクイーンという二つ名がついた。その代わり、友達とか情報交換できる人は誰も居ない。

「ねぇ、さっきの人たちが話してた危険地区って何?」

「いってなかったっけ?」

「地区については聞いてなかったと思う。」

「あぁ、了解。目的地につく前に簡単に説明するよ。」

「頼みます!」

「まず、地区はA〜Zまであって全部で26地区ある。Aから始まってアルファベット順に地区があるから。覚えやすいでしょ?」

「うん。」

「その地区でも、難易度によって8つの分類に分けられてるの。」

「ほう・・・」

「まず、A〜E地区までが初心者地区。一番人が死なない地区ね。」

「うん。」

「F地区は初心者・中級者地区。」

「Fだけ?」

「そうだね、検問所みたいな感じ。G〜Jが中級者地区。とりあえず初心者の人はこの地区に行って死なずに帰ってくることを目標にしてる人が多いかな。」

「なるほど、じゃあ私もまずはそこまで行けるようになることを目標にする!」

「お好きにどうぞ。K地区が中級者・上級者地区。ここから死亡率が高いから、間違っても初心者はこないでね。」

「えぇ・・・こわ・・・」

「L〜O地区が上級者地区。ここはモンスターのバランスが良くて上級者はみんなここで稼いでるかな。」

「なるほど。」

「P地区が上級者・熟練者地区。ここに行けたら自信を持っていいと思う。平凡なやつはK地区で止まってここまでこないんだよね。」

「なるほど。」

「Q〜U地区が熟練者地区。慣れればMが効率良く手に入るけど、なれてなかったら即死。私はいつもここの地区で狩りをしてる。」

「えっ怖くないの?」

「怖い?そんなこと言ってたら金なんて稼げねぇよ。」

「あっ、はい・・・」

「で、最後にV〜Z地区がさっきアイツらが話してた危険地区。熟練者でも下手すれば死ぬかもしれない地区だから多分初心者が入ったら注意する前に死ぬんじゃないかな。知らんけど。」

「ヒェ・・・ウェナトリアさんは入ったことあるの?」

「あるよ。」

「えっなんで?」

「お金稼ぐため。一回だけ行ったけど、あそこM稼ぎにもってこいなんだよね。一日で十万くらい貯まった。」

「す、すごい・・・」

「でもあそこ、モンスター湧きすぎて休憩できなから・・・もう一回行くなら一人じゃなくて誰か連れていきたいな〜。」

「そんな地獄に、誰かついてきてくれる人が?」

「いないんだよね〜。先輩も絶対行きたくないって言ってたし、師匠はもう年だから行きたくないって言っててさ〜ちぇっ」

「当たり前な気がする・・・」

そう話していると、人の少ない場所まで来た。ここは師匠から教えてもらった隠れたモンスター狩りスポットだ。初心者の頃はここに入り浸ってモンスターを狩っていたな。

「ついたよ。」

「おぉ、全然人いない!」

「ここなら暴れられるから。」

そう言いながら、周りを見る。いいところに一匹モンスターが歩いているのが見えた。ミキの頭を掴み、自分の横に持ってくる。

「あいつ、見える?」

そう言って指差した先には大小様々な目玉が集合したモノから木の根っこのようなものが生えた異形がノソノソと動いていた。

「あ、あいつって・・・あそこの気持ち悪いやつのこと?」

「そう。あいつがディープレベルにいるモンスターの中で一番弱い『ヒト』ってモンスターで・・・」

「えっ、ちょ、ちょっと待って!!」

「何?」

「あれがモンスター?」

「うん。」

「嘘でしょ?あんな見た目だけでSAN値ゴリゴリ削るようなやつがゴロゴロいんの!?」

「擬音が多くてうぜぇ。そうだよ、ああいうのがわんさかいて、アイツらを狩ってMをためる仕事だよ。」

「嘘・・・」

「嘘じゃない。あいつらと戦うから負けたら死ぬって言ったじゃん。今更怖いから嫌ですなんて言わせないよ?」

「うぅ・・・まじか・・・じゃあ、これだけ教えて。」

「なに?」

「アイツらって何種類いるの?」

「非戦闘種も合わせて今のところ五種類いるよ。これ前にも言った気がするけど。」

「ご、五種類・・・」

「じゃ、あいつの説明聞いて。」

「はい・・・」

「あいつは『ヒト』。人間っぽいからこの名前がついてる。一匹倒したら五十

M。あいつのことを五十Mって呼ぶやつもいる。」

「はい・・・」

「攻撃はタックルだけだからめちゃくちゃ弱い。あいつで死んだやつは間違ってこっちに入ってきた一般人くらいじゃないかな?知らんけど。」

「はぁ・・・」

ハナコは横でため息と返事が混じったような声を出している。人が説明してやってんのに何だその態度は、腹立たしい。

「ため息ついてないで一回死んでこい。」

「死んだら二回目なんてないでしょ!!」

「そうだな。まぁいいじゃん。マイクスイッチ入れて、さっさと死んでこい。ここで待ってるから。」

「えぇ・・・行ってきます・・・」

マイクを握りしめ、ヒトに近付いて行くハナコの背中を眺めながら近くにあった瓦礫に座る。頬ずえをついてハナコの初めての狩りを遠くから見守る。もちろん、心配だからとかではなくあいつが死ぬのをしっかり見てやろうという気持ちだ。ハナコがヒトに近付き、マイクを口に近づけ声を出す。ここからでは何を言っているかよく聞こえないが、マイクから黄色いBB弾のような弾が出ているのを見ると暴言は言えてないようだ。

「さっさと死ねとか言えばいいのに。」

舐めて小さくなった飴をガリッと噛み砕き、ハナコのところへ行く。ポテポテと効果音が付きそうなほど弱々しい弾がヒトに当たる。ヒトは当たったことにも気がついていないようだ。これだから意気地なしは・・・ハナコの横に立ちマイクを奪う。

「死ねカス」

マイクに向かってそう言うと、マイクからトゲトゲした弾が出て、猛スピードでヒトの目玉が固まっている所を貫通する。ヒトは貫通したところから溶けていき、跡形もなくなった。マイクの電源を切り、ハナコに返す。ハナコはキラキラとした目でこちらを見ている。

「す、すごい・・・!」

「このくらい言えよ、カス。」

「ヒェ・・・ごめんなさい・・・」

「どうせ、『消えろ』とか『あっちいけ』とかしか言ってないんだろ。」

「・・・」

あはは・・・と苦笑いするハナコ。図星かよ。

「こういうのはな、一発でビシッと暴言はきゃ終わるんだよ。」

「えぇ・・・暴言はちょっと・・・」

「はぁ・・・わかった。裏技教えてやるよ。」

「裏技!?そんなのあるの?」

「あるよ、マイクかせ。」

ハナコの差し出したマイクの電源を入れ「歌声モード」と言うとマイクの電源ランプが青色になり、『歌声モード起動完了』と機械的な声で言われる。そのマイクをそのままハナコに渡し、少し前でユラユラ揺れているヒトを指差す。

「あいつに向かってなんか歌ってみろ。」

「えっ何でもいいの?」

「何でもいい。リズムにのってなんか言え。」

「わかった。えっと・・・」

そう言ってハナコはどんぐりころころを歌い出す。ハナコの歌うどんぐりころころに合わせて弾がマイクから溢れ出す。その弾は一直線にヒトに当たり、なん十発か受けたヒトは先程と同じように溶けて跡形もなくなった。

「おぉ!!倒せた!!」

「おめでとー」

ぱちぱちと適当に拍手をする。ハナコは初の狩り成功に喜びを隠せないようではねまわっている。流しの三角コーナーによってくるコバエみたいだ。

「説明されないけど、マイクには音声モードと歌声モードがあるんだ。」

「なんで知ってるの?」

「ボスちゃんが教えてくれた。」

「なるほど。」

「音声モードは強力な弾を打つのに使える。銃で言うところのスナイパーライフルとに近いかな。」

「スナイパーライフル?」

「遠くから狙って、一発ずつ撃つやつ。スパイ映画とかでよく使われるやろ。」

「うーんなんとなくわかる気がする。」

「まぁそれでいいや。で、歌声モードが歌声だけを検出してくれて、攻撃力がそんなにない弾を大量に撃てる。銃で言うとサブマシンガンみたいなやつかな。」

「サブマシンガン・・・?」

「それも知らんの?はぁ、攻撃力の少ない弾を連続でいっぱい撃てるって思って。」

「わかった!」

ミキに一つ一つ教えるのがめんどくさくなってきたな・・・あいつ呼ぶか。

「あれだな、私説明下手だし、そもそもマイク使ってないからちゃんと教えられないわ。」

「えっ」

「ちょっと待ってて。」

ハナコにそう言ってスマホを取り出す。個人チャットに行き、ある人にメッセージを送る。

『横顔エルニエッタ、いま暇?』

『ウェナトリアちゃんじゃん!どうしたの?』

『マイク武器の初心者がいるから先生やってほしいんだけど。』

『オッケ〜!それしたらウェナトリアちゃんの友達に認めてくれる?』

『てめぇはまずK地区に行けるようになれ。それができないなら論外』

『手厳し〜!』

『黙れF地区野郎が、さっさと来い。』

『今行きまーす!待っててねウェナトリアちゃん♡』

『吐きそう。』

相変わらず気持ち悪い。ただただ同じ時期にここに入ったってだけで友達になろうとしてくる。友達が少なくても、友達を選ぶ権利くらいはあるだろう。こんな横顔エルニエッタと友達になんて死んでもなりたくない。一回うざすぎて、ガチで殺そうとしてソウル先輩に止められたのはいい思い出だ。

「今から横顔エルニエッタが来るから。うざいけど、マイクを使うのはうまいから。」

「わかった!横顔エルニエッタさんが来るんだね!・・・エルニエッタって何?」

「え?知らないの?」

「知らない。」

「高校で習うはずですけど?」

「お、覚えてないです・・・」

「これだから低能は・・・」

「でも、ウェナトリアさんがいた頃は習ってないじゃん!」

「そうだよ?だから私より知ってないといけないんだよ?」

「う、じゃ、じゃあなんでウェナトリアさんは知ってるの?」

「面白そうだったから色々調べたの。個人的に。」

「や、やめてるのに勉強したの?」

「もちろん。私馬鹿じゃないから。」

「う、負けた・・・」

「存在自体負けてるけど?」

そう言うとハナコは不貞腐れてしまった。いいきみだ。新しいロリポップキャンディーを左袖から取り出し、食べ始めた。

 三分ほどして、手を振りながら走ってくる男がこちらに向かってきた。男は赤いつなぎに金髪といういかにもやんちゃな工事現場の人という格好をしている、間違いなく横顔エルニエッタだ。

「ごめんごめん〜」

「遅い。」

「ごめんって!高台探すのが大変でさ〜」

「言い訳はいいから、こいつにマイクの使い方教えてやって。」

そう言って座り込んでいるハナコを指差す。横顔エルニエッタはハナコの前にしゃがむ。

「こんちわ!君がマイクの子?俺、エルっていうんだ!ウェナトリアちゃんの同期!ウェナトリアちゃんには『横顔エルニエッタ』って呼ばれてる!よろしくな!」

「ハナコって言います!エルさん、よろしくお願いします!」

「おう!元気がいいのはいいことだ!」

「じゃ、横顔エルニエッタ、ハナコをよろしく。私狩りに行くから。」

「は〜い!」

「ウェナトリアさん!どこいくの?」

「今日はU地区。」

「え〜!U地区行くの〜!ウェナトリアちゃんスゲ〜!」

「UU地区って、A・B・C・・・V地区の隣じゃないですか!?」

「それが何?」

「危険地区の隣に行くなんて・・・死なないんですか?」

「そんなんで死なねぇよ、私のこと甘く見てると爆散させるぞ。」

「ヒェ・・・ごめんなさい・・・」

「じゃ。」

「ウェナトリアちゃん、いってらっしゃ〜い!」

「行ってらっしゃい!」

二人の声を背中で受け止め、高台に移動する。地区から地区へ移動する方法は帰るときと同じだ。U地区に行く、そう念じながら高台から飛び降りた。


 U地区に移動して一時間ほど経った頃、スマホに連絡が入った。個人チャットに横顔エルニエッタから『終わったよ〜』っとメッセージが入っている。

『おつ』

『いや、返信短っ!』

『今狩りしてるんだけど。』

『いや〜ハナコがウェナトリアちゃんの狩りしてる姿みたいって聞かなくてさ〜連れてっていい?』

『死にてぇのか』

『長生きしたいって〜』

『じゃあ、来るな。死ぬぞ。』

『俺が守るから連れてっていい?』

『晩年F地区が守りきれるとは思えんけどな。』

『頑張って守るよ〜!』

『いや、絶対ムリだから。来るならどちらかがK地区に行けるようになってからにしろ。ドッグタグをちまちま拾わされるこっちの身にもなれバカ。』

『そっか〜じゃあ、また今度にする!』

『り。あと、帰るならハナコも帰らしといて。』

『は〜い』

スマホを閉じ、周りにいるモンスターを狩る。もう二匹くらい狩ったら帰ろうかな。と考えながら歩いていると、一人で歩いている男を見つける。男は前かがみになって何かを探しているようだ。不審な動きが少し気になって瓦礫に身を潜め、観察する。

「このへんで反応があったんだけどな〜」

うーんっと首を傾げながら、足で地面を撫でるようにしながら歩いている。すると、男が足で横に避けた砂の中にキラリと光るものがあることに気付く。男も気付いたようでさっと拾い上げ、ポケットから出した布でそれについた砂を退ける。

「あった!!やった!!」

大喜びしている男の手の中にあるのは、ドッグタグだった。巷で噂の『ドッグタグハンター』だとすぐに理解した。ドッグタグハンターはドッグタグを見つけては会社に返すことを仕事にしている半端者たちだ。ドッグタグハンターを『死人の骨を貪るもう一種類のモンスター』だ、と言って嫌うものも多く、あまり好かれる存在ではない。SKPはそのやり方に文句は言えないため、ドッグタグハンターは悠々自適にドックタグを探している。私的には、ドッグタグハンターは普通の職員よりも死亡率の高いハイリスクハイリターンなやり方だと思っている。安全な中級者地区で少ないMのドッグタグを集めるよりもモンスターを狩ったほうがMは貯まるし、Mを大量に持ったドッグタグは高確率で熟練者地区に落ちているが、熟練者地区に行けば自分の死亡リスクも上がる。そんな危ない橋を渡らずに真面目にモンスターを狩ればいいのに。そう思いながらドッグタグハンターの男を見ていると、男は後ろから来ているモンスターに気づかず、男の首から上はモンスターに持っていかれた。叫ぶ暇もなく死んだ男の死体は近くにいたモンスターに食われ、跡形もなくなった。残ったのはドッグタグだけ。

「ミイラ取りがミイラになったな。」

男の死体を食べたモンスターを爆散させ、二つのドッグタグを拾う。後ろにいるモンスターに気付かなかったところを見ると、さっき死んだ男は初めて五ヵ月ってところだろうか。ドッグタグを右袖に入れ、高台に登る。ドッグタグを拾ったら会社に行かなければいけない。SKPに行く、と念じながら高台から飛び降りた。


 SKPの入り口の前につく。SKPがどこにあるかは誰も知らないらしい。空が黄色で紫の雲が浮いているところを見ると、多分ディープレベル内なのだろうがモンスターが湧かないのはとても不思議だった。会社に入ると、機械頭の受付嬢がいる。モニターになっている受付嬢の頭に『今日はどうされました?』と表示される。

「ドッグタグを持ってきた。」

そう言うと、受付嬢のモニター頭に『エレベーターで三階です。』と表示される。円形の受付カウンターの後ろにある、エレベーターに乗り、三階を押した。

 チンという音と共にエレベーターの扉が開く。扉の先には白い部屋があり、部屋の真ん中にぽつんと機械が置いてある。機械の左右に赤と青のドッグタグ置き場が設けられており、赤の方に死んだ人のドッグタグ、青の方に自分のドッグタグを置いて、真ん中の緑のボタンを押せば、赤の方に入っているドッグタグのMが青の方に入っているドッグタグに送信され、赤の方に入っているドッグタグの情報はSKPの会社情報から消える、というシンプルな機械だ。赤の方に二つのドッグタグを置き、青の方に自分のドッグタグを首から外してセットする。緑のボタンを押して、待つこと一分。赤の方にドッグタグが残っていなければ終了だ。

「どれどれ、Mはいくらかなー」

独り言をつぶやきながらスマホのMアプリを開く。Mの入手・消費履歴を確認する。『ドッグタグ発見:五百M』と『ドッグタグ発見:三千M』と書かれている。多分五百Mがドッグタグハンターだろうと検討がついた。

「合わせて三千五百Mか。ドッグタグハンターの気持ちもわからなくはないが・・・やっぱりモンスター狩るほうが楽しいだろ・・・まぁいいや、さっさと帰ろ。」

自分のドッグタグを回収し首にかけ、エレベーターに乗り、一階に戻る。受付嬢にペコリと会釈すると、受付嬢も返してくれる。高性能な機械だな〜と思いつつ、外に出た。故意的に作られた高台から飛び降り、師匠の別荘に戻った。


 外は暗く、時間を見ると深夜二時だった。庭には電気がついており師匠がつけていってくれたのだと思った。門まで行き自転車を見ると、ハナコの自転車がなくなっていた。生きて帰れたんだな〜と思いながら自分も自転車にのって家に帰った。


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