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Deep Level  作者: 江菓
11/12

第十一話 変異体Ω

 変異体γが現れて二週間、あれから変異体γに寄生されたものはいないが寄生され眠っているものは今も眠ったままだ。アキも例外ではない。

「エルニエッタも来てたのか。」

アキの病室にはいるとエルニエッタがおいていったと思われるCDがおかれていた。それらをサイドテーブルの引き出しに片付け、買ってきた花を花瓶に添える。アキはスースーと寝息をたてている。寝返りなどは打たないため体を動かしてやり、マッサージをする。

「今度一緒に行こうって話してた映画、公開終了しちゃったよ・・・起きたら、DVD借りて見よう・・・一緒に・・・」

返事はない、もしこのまま起きなかったらどうしよう。そんな最悪の場合ばかり考えてしまう。喪主は私なのだろうか。少し前に行われた師匠の葬式を思い出す。師匠の葬式は現実味がなく、今でも夢を見たような感覚だ。喪主は社長が勤め、参列者はたくさんいた。みんな泣いていたが私とソウル先輩は泣かなかった。いや、泣けなかった。師匠が死んだことをきっと理解できていなかった。師匠のドッグタグも、スマホの写真から消えた師匠の笑顔も、飾られない遺影も、どこを探してもない師匠とのメール履歴も、二人で確認したのに、この目でしっかりと見たはずなのに、涙はでなかった。もしかしたらショックで感情がなくなっていたのかもしれない。わからないけど、泣けなかった。最後に見た師匠の笑顔が忘れられない。ソウル先輩に師匠を助けられなかったことを謝ると「師匠が死んだのはウェナトリアのせいじゃない、謝らなくていいよ。」

そういって笑顔を見せてくれたがその笑顔はどこかひきつっていて私はなにも言えなかった。

 首にかかったドッグタグの片方をギュッと握る。今や師匠の形見はこのドッグタグと修理に出していて紛失しなかった師匠の愛刀だけだ。

「あぁ、もう行かなきゃ・・・社長に呼ばれてるんだ。行ってくるねアキ・・・」

そういってマッサージしていたアキの手を布団の中に戻す。アキの頭を撫で、病室を出た。トイレに行き、タイルの場所で持っていたペットボトルの飲料水を頭からかけた。

 目を開けると会社のロビーだった。受付嬢に会釈してエレベーターに乗ると八階のボタンを押した。途中、六階に止まったかと思うとソウル先輩と鉢合わせた。

「おぉ!今から社長室?」

「そうですよ。」

「よかった~一緒に行こうぜ。」

「言われなくても行く事になりますよね。」

「エレベーターひとつしかないからな!」

ハハハッと笑いながら隣に来るソウル先輩。正直、師匠が死んだのは私のせいだからソウル先輩にどんな顔で会えばいいかわからない。たぶん、私よりも師匠に憧れ、心酔していたソウル先輩に恨まれても仕方ないと思っているし、前みたいに冗談言って笑い合える仲でいられるかもわからない。そんなことを悶々と考えているとソウル先輩がそういやさ、と口を開いた。

「社長俺らになんの話なんだろうな。」

「そうですね、やっぱりこの場合相続的な感じでしょうか?」

「それはないだろ~遺言書とか書いてても消えてるよ。」

「そうですよね・・・」

そこで会話は終わり、どうしようと思っているときにちょうどエレベーターの扉が開いた。八階についたようだ。

 ノックして社長室にはいると、社長が資料を読みながらパソコンになにかを打ち込んでいた。こちらに気付くと「お、来たか」といって資料やパソコンを閉じて机の端に寄せる。

「遅くなってすみません。」

「いや、急に呼んでしまったからね。さ、座ってくれ。」

そういって目の前のソファに誘導された。ソウル先輩とソファに座ると向かい側のソファに社長が座り、ローテーブルに白い封筒をおいた。

「これは?」

ソウル先輩がそういうと社長は封筒の封を解いた。

「これは兄さんの代わりに僕が兄さんの遺言を代筆したものだ。」

「師匠の・・・」

「遺言・・・!?」

「その通り、死んでしまうと全て消えてしまうだろう?だから、僕が代わりに書いて消えないようにしたんだ。」

そういいながら社長は僕のも書いててもらったんだけどなぁ、きっと消えちゃったね。と苦笑いしていた。

「今から読むね。」

ソウル先輩と共に師匠の遺言に、師匠の最後の言葉に耳を傾ける。

「『遺言書。私、遺言者五十嵐ゲンジは次の通り遺言する。』」

社長が読んだ師匠の遺言は簡単にまとめると、ソウル先輩に師匠が大家さんをしていたマンションと使っていた刀を相続し、私にドッグタグと別荘を相続するということらしい。

「兄さん、なにか悟ってたのかな・・・マンションなんかは生前に僕が相続してるから後で、君たちに相続しよう。ソウル君、これを。」

そういって机のほうから師匠の刀を持ってきてソウル先輩に渡した。

「あ、ありがとう・・・ございます・・・」

師匠の刀を受け取り、ソウル先輩はビックリ顔で固まっている。

「ウェナトリアさんは・・・もう持ってるね。」

社長はニコッと笑う。師匠を救えない私にも笑ってくれるなんて、どこまでも優しい人だ。

「僕からの話は以上だ。兄さんは結婚してないし、子供もいないからさ・・・少し心配してたんだけど、君たちみたいな弟子がいて幸せだったと思うよ。ありがとう。」

社長の目は潤んでいたが笑っていた。

「私も、師匠の弟子でいられてよかったと思っています。」

「俺も師匠の弟子でよかったです。ありがとうございます。」

三人で頭を下げ合ってきっと話の主軸である師匠がこの光景を見たら笑うだろう。

 コンコンとノック音がして頭の下げ合いが終わる。焦ったように入ってきたのはベリーショートカットの中性的な研究職員だった。

「社長大変です!!」

「どうした。」

「U地区で巨大なモンスターの出現を目撃したと報告が!!」

「なに!?どの変異体だ。」

「目撃した職員の報告によれば上半身が人間で下半身が蛇だったと・・・」

「蛇女か!?」

思わず声をあらげてしまう。社長も思い出したようで目の色が変わる。

「U地区を閉鎖して、T地区にランキング上位者と戦ってくれる職員を集めるんだ。害獣は駆除対象だからね。」

「はい!!」

研究職員は急いで社長室を出ていった。社長は左側にある本棚に向かうと、本を数冊奥へ押し込んだ。すると本棚が横へスライドし、中から使い込まれた弓が姿を表した。

「腕が鈍っていなければいいんだが・・・」

そういって社長は弓と矢筒を背負う。きっちり着ていたワイシャツの第一ボタンをはずしてドッグタグをだした。

「僕はお先に、T地区で会いましょう。」

社長室の大きな窓をガラッと開けると社長は飛び降りて先にいってしまった。その背中は師匠とよく似ていた。

「社長は弓なんだね・・・」

「なんと言うか・・・かっこいいな・・・」

「ですね・・・はっ、ボーッとしてる場合じゃないですよ。私たちも行かないと!!」

「そ、そうだな!俺たちも、師匠の仇を取りに行かないとな。」

「そうですね。」

ソウル先輩はさっき受け取った師匠の刀を少しだけ眺めたあと自分の刀と共に腰に携えた。

「よっしゃ行きますか!」

「行きましょう、師匠と一緒に!」

そう言ってソウル先輩と社長の後を追って窓から飛び降りた。


 T地区にはもう何人か集まっていた。その中には炎やエルニエッタ、アヤさんにボスちゃん、ハナコもいた。待っていると他にも研究職員やハンター職員関係なく誰かの仇のためや研究のためなど理由は様々でも多くの職員が集まってきた。周りにはモンスターが一匹も居らず、師匠と最後にすごしたあの時と同じ空気に苛立ちを覚えた。ハナコは端の方で青い顔をしている。

「ハナコも来たんだ。」

「うん。みんな頑張ってるし、ランキング上位だし・・・」

「そうなんだ。」

「この戦いを最後にしたいなって思って・・・」

「じゃあこれ終わったら辞めるんだ。」

「うん・・・もう大学行けるくらいには貯まったし、なんて言ったらいいか分からないけど、お母さんに言いたいこと言えるようになった気がするんだ・・・」

「その言葉は結構フラグ立ってる気がするけど、まぁ頑張って。」

「えっ嘘、フラグ立った?えっじゃあ今のなし!!」

「フハッ、過去は取り消せないって、まぁフラグへし折って生き残りなよ。ハナコ意外としぶといし。」

「んなっ、しぶといって何!?」

「フフッ、こっちの話。」

ハナコと話していると社長が拡声器片手に瓦礫の上に乗った。

「集まってくれてありがとうございます。長々と喋っても何も生産されない、さっさと行こう。ただ一つ、自分の命を最優先に戦って生き残ること。」

それだけ言うと社長は瓦礫から降りてU地区へ足を踏み入れた。その後ろをスタスタとついて行く。と言っても弓や銃などの遠距離武器職員は後ろの方に行き、刀や剣などの近接武器職員は社長の前へ出て歩いていた。

 ある程度歩くと、大きな影が見えてきた。そいつはゆらゆら左右に揺れている。近付くにつれて特徴的なケタケタという笑い声が聞こえる。ヒラヒラ揺れる白い面布、両手首には金色のブレスレットが輝き、胸の部分はさらしを巻いているがその大きさを隠しきれておらず、みぞおちから下に丸みを帯びた蛇の下半身が広がっており、しっぽがチラチラ見えている。

「おやおや、ご飯がいっぱい来てくれたんだねぇ・・・アハッ!ウェナトリアちゃ〜ん!会いたかったぁ〜!」

「うるせぇ蛇女」

「アハッ、酷いなぁ〜!そんなところも好きだよぉ〜!」

蛇女が手を上にあげると足元の地面がグンッと上へ伸びた。咄嗟に避けると蛇女は嬉しそうに手を叩いて笑う。それを皮切りに職員全員で攻撃を開始した。弓や銃が蛇女のターゲットを取り、背中側から近接武器が近付き切る。しかし、蛇女は向かってきた攻撃をひらりひらりと交わし、近くにいた職員はしっぽで遠くへ払い飛ばし、遠くにいる職員の足元から土で出来たトゲが飛び出し職員を貫いた。

「怪我人は下がって!!」

「救護班!!!」

「今行きます!!!」

そんな声が飛び交い、砂ぼこりが喉に引っかかって気持ち悪い。ケタケタという蛇女の笑い声と職員の叫び声や怒号が不協和音を作り出す。

「ソウル先輩、どうしますか・・・あいつ強いです・・・」

「そうだな・・・弱点が分かれば多少は楽なんだが・・・とりあえずあいつがへばるまで頑張ろう。」

「持久戦に持ち込むってことっすね!」

そう言ってソウル先輩から離れ、扇子とナイフを構えて蛇女の元へ突っ込む。

「オラァ!!」

「アハッ!そんなんじゃダメだよ!」

そう言って蛇女はするりと避けるとそのまま尻尾で後ろへ投げられてしまった。

「クソっ!!」

「アハッ、可愛いねぇ〜!」

「ウェナトリアさん!」

遠くからハナコがこちらを心配してマイクを通して名前を呼んでくる。蛇女はそれに気付き、面布の隙間からニヤリと笑ったギザ歯の口が見えた。

「あの子、ウェナトリアちゃんのお友達かしら?可愛い子ねぇ〜ぐちゃぐちゃにしたくなっちゃう!」

わざと私とハナコ両方に聞こえるくらい大きな声でいう蛇女。ハナコは顔を引き攣らせた、それは蛇に睨まれた蛙そのものだ。

「あいつは友達なんかじゃ!!」

それを言い終わる前に蛇女はズンズンとハナコの元へ体を左右に揺らしながら近づいて行く。ハナコは腰が抜け動けなくなっている。すぐに後を追うが先ほど投げ飛ばされた影響で治りかけていた怪我が開いて痛みで倒れそうになる。

「ハナコ!逃げろ!!」

そう叫んでもハナコはガタガタと震えて動かず、走って向かってはいるがほぼ無傷の蛇女と傷だらけの私ではあまりにもスピードに差が出てしまい追いつけない。ソウル先輩はこちらに気付き、ボロボロの体を支えてくれる。

「これ以上俺の友達に手を出すな!!」

そう言って蛇女の前に飛び出したのはエルニエッタだった。アキの件もあり、怒りを力にしたエルニエッタはモンスターに怯えるいつもの彼の面影はみじんも感じなかった。蛇女は「邪魔なんだよ!!!」と言いながらエルニエッタにしっぽを振り下ろす。エルニエッタはそれを華麗に交し、後ろのハナコの隣に飛んだ。蛇女はすぐに地面を動かしたがエルニエッタはハナコをお姫様抱っこして蛇女の攻撃を交わしながら距離をとった。蛇女はぴょんぴょんと逃げる身軽なエルニエッタにイライラしているようでしっぽをべしべしと地面に叩きつけている。

「イライラする!イライラする!イライラする!幸せな奴なんて・・・全員不幸になってしまえばいい!!!」

そう叫ぶ蛇女の右胸に一本の矢が刺さった。その矢は社長が放った矢だった。蛇女は刺さった矢を抜くと空いた穴からドロドロと黒い血が流れた。

「あぁ・・・痛い・・・!痛い痛い痛い痛い!!!!」

そう言いながらボロボロのウェナトリアの方を見る。

「ウェナトリアちゃん・・・面白い話をしてあげる!私、昔ウェナトリアちゃんの師匠のおじいちゃんを殺したことあるんだよ〜!油断して大切な人を殺されて馬鹿だよねぇ!仇も取れないまんま同じ相手に殺されちゃうんだからウェナトリアちゃんの師匠はほんとに馬鹿!!!」

ハァハァと息を切らしながら声を荒らげて師匠を侮辱する蛇女。今すぐにでもその首を切り落としてやりたいのに動かない体に嫌気がさす。ソウル先輩は黙ってそれを聞いていたが無表情にまるでゴミでも見るかのような目で蛇女を見ている。

「お前みたいなゴミが馬鹿にできるほどあの人は弱くない!!!!」

「弱いんだよ!!弱いから私に負けて死んでんだ!!!」

蛇女がそういった瞬間、蛇女の首元にソウル先輩の刀が触れた。蛇女は咄嗟に避け、刀は蛇女の頬に大きな傷を作った。ダバダバと唾液と血液が混ざった液体が切れた傷から流れ出てくる。蛇女はそれを必死に抑え、ソウル先輩を見る。

「黙って聞いてれば調子に乗ってベラベラと・・・そんな口、切り落としてやるよその首と一緒に!」

そう言ってソウル先輩は蛇女に距離を詰める。蛇女は地面を操り、ソウル先輩と蛇女の間に分厚い土の壁ができる。蛇女はあの一瞬でソウル先輩の間合いに入ってはいけないと気付いたらしい。ソウル先輩は分厚い壁をものともせず刀で切る。

 真っ二つになり落ちた壁の先にはウェナトリアを人質にとった蛇女がいた。

「ハァ・・・ハァ・・・これで攻撃できないだろ!!」

「クソッ!離せよ!」

そう反抗するが蛇女の力は強く、痛いほどだった。ソウル先輩も怒った顔のまま少し困ったような顔をする。

「この子には特別な力があるんだ・・・!!!お前達みたいな並の人間なんかよりもよっぽど濃密な不幸を食べられる!!!」

蛇女はゲラゲラと笑いながら大きな声でそう言う。そして小声でウェナトリアの耳元で囁いた。

「私の元となった不幸の感情はウェナトリアちゃんの不幸なんだよ」

「はぁっ!?」

「アハッ・・・アッハハハ!!そう・・・その驚いた顔・・・!最高に可愛いわ・・・!あたしのウェナトリアちゃん・・・」

「な、えっ、ど、どういうこと・・・!?」

「珍しいのよ・・・あたしみたいな知能まで兼ね揃えたモンスターを一人の不幸で作り出すのって・・・でもウェナトリアちゃんはやってのけた・・・!しかも無意識のうちに・・・!」

恍惚とした笑みを浮かべ蛇女は自信満々にそう叫ぶ。

「私が・・・あんたを作った・・・?無意識の、内に・・・?」

「そうよ・・・あたしは昔ちっさくて不味い不幸を食べながら必死に生きてた・・・でもね、ウェナトリアちゃんの不幸を初めて食べた時・・・あたしの世界が色を帯びたの!それからあなたの不幸を食べ続けた!幸せにされるとお腹が空くからちょっと手は加えたけどね・・・?今や私はあなたと同一・・・あたしは、あなたの分身なのよ・・・ウェナトリア・・・!!」

「耳をかすなウェナトリア!!!」

ソウル先輩の言葉に励まされ、耳元で囁かれる言葉を聞かないようにする。しかし、嫌な考えばかりが巡ってしまう。

「ウェナトリアの考えてることもよくわかるわ・・・あたしがみんなを殺したの・・・殺せるようにモンスターを作った・・・あたしとあなたは同一・・・あたしがあなたなら・・・」

「私が・・・みんなを・・・?師匠を・・・殺した・・・?」

そう震える声で言うと蛇女はケタケタと笑う。ウェナトリアから生み出された府の感情を吸って蛇女の怪我はみるみるうちに治っていき体もさらに大きくなっていった。ソウル先輩やハナコ達はそれを見て目を丸くし、反抗する力さえ無くなったウェナトリアはブツブツと「私が・・・殺しちゃったの・・・?みんなを・・・?師匠・・・を・・・?」と呟いている。

「ウェナトリア!!!」

「ソウル・・・先輩・・・ごめんなさい・・・あたしが・・・師匠を殺しちゃった・・・」

「ウェナトリアは殺してない!!目を覚ませ!!!そんなの全部嘘だ!!!そんなやつの言葉なんか信じなくていい!!!」

そう叫ぶソウル先輩の声は耳元で囁く蛇女の声でかき消される。目の前が朧気になり、頭がふわふわする。

「あなたが殺したの・・・みんな殺した・・・大切な人もみんな・・・これからも殺すわ・・・今、目の前にいるソウルやハナコ・・・エルニエッタだって殺すわ・・・」

そう言われ、ボロボロになって死んでいるみんながモンスターに食べられる姿を想像してしまう。蛇女の腕は先ほどよりも太く硬くなり首が絞められ、目の前が暗くなってくる。

「やめて・・・もう誰も・・・傷付けたくない・・・!!!」

そう叫んだと同時に気を失った。血を流しすぎたのかもしれないし、もしかしたら首を絞められていたせいかもしれない。分からない、死んでしまいたい・・・もう誰も・・・あたしのせいで・・・傷ついて欲しくない・・・死んで欲しくない・・・


 眩しいほどの光に目を開けるとまっさらな空間にいた。蛇女や他の皆もおらず、体の痛みも流れていた血もきれいさっぱり無くなっていた。

「天国・・・?」

「いや、ここは生と死の狭間じゃ。」

「!?」

驚いて振り返るとそこには死んだはずの師匠が立っていた。

「師匠!!!」

そう言って師匠に抱きつく。会いたかった、幻覚でもなんでもいい、会いたくて仕方がなかった。大きな暖かいしわしわの手で頭を撫でられる。

「会いたかったです・・・」

「すまんな、突然いなくなってしまって。」

そう言って笑う師匠の笑顔が懐かしくて寂しくて涙がこぼれてしまう。しかし、師匠に先程知ってしまった事実を謝らなければいけないと思った。

「ごめんなさい師匠・・・あたしが・・・殺してしまったんです・・・全部・・・あたしのせいだったんです・・・」

そう泣きながら懺悔した。師匠の前にへたり込み、師匠に頭を下げた。師匠はしゃがんで頭を撫でてくれる。

「言わんで良い、全て聞いておった。」

「ごめんなさい・・・あたしが・・・あたしなんて・・・あたしが師匠の代わりに死んでしまえば良かった・・・」

「顔を上げろウェナ。」

涙をふいて顔を上げると、師匠は真っ直ぐとこちらの目を見て真剣な表情で話してくれる。

「あいつの言ったことは半分本当じゃが、半分嘘じゃ。確かにあいつはウェナの負の感情を摂取し育った。あいつはウェナをわざと不幸にしてウェナから濃い負の感情を出させ、それを食べていた。ウェナの負の感情が他の者に比べて上質であるのも事実じゃ。」

やはりそうなのか。あたしのせいであいつは強くなったんだ・・・あたしが生きていたばっかりに・・・

「じゃが、どんなにあいつがウェナの不幸を食べようともあいつがウェナになることは無いのじゃ。ウェナはウェナ、あいつはあいつじゃよ。」

そう言って笑顔を見せてくれる師匠。蛇女は蛇女で、あたしはあたし・・・蛇女が何をしても・・・あたしになることは無い・・・

「じゃから、そうやって一人で泣くな・・・死にたいなんて言わないでくれ・・・わしの愛弟子に不幸なやつはおらんはずじゃぞ・・・」

そう言って師匠は抱きしめて、背中をさすってくれた。暖かくて、優しくて、まるで暗闇を照らしてくれる太陽のように感じた。師匠の肩を濡らしてわんわん泣いた。

 師匠は泣き止むまでずっと背中を擦りながらたまに頭を撫でてくれた。師匠は泣き止んだ私の目を腫らした顔を見てニコッと笑った。

「スッキリしたという顔じゃな!」

「はい!ありがとうございます、師匠!・・・私行かなきゃ・・・あいつの・・・蛇女の好きにはさせない!」

「うむ、行っておいで。」

「はい!見ててください、師匠!蛇女の泣きっ面を師匠に捧げてやります!」

「楽しみにしておくよ。」

そう言って手を振る師匠は嬉しそうだった。師匠に背を向け、真っ直ぐ来た方へ歩く。眩しいほどの光で目をつぶった。


 色んな人の声や大きな音で目が覚める。自分を掴んでいた蛇女の手は先程よりも筋肉質になっている。手をグーパーして動く度合いを確認する。ある程度は力が入る、何かを掴むことくらいはできそうだ。目の前ではソウル先輩やアヤさん、ボスちゃんや社長、ハナコ、エルニエッタが私を掴んで離さない蛇女に攻撃するタイミングを伺っている。ボスちゃんと目が合った、ボスちゃんはすぐに声をあげようとしたので唇の前に指をあて、シーッと合図した。蛇女にはまだ気絶していると思ってもらった方が動きやすい。ボスちゃんに伝わったようでボスちゃんは見なかったことにしてくれた。

 蛇女にバレないように左袖ポケットから銃のような形をした物を取りだした。形状は銃だが、水鉄砲に近く、水鉄砲の水が入るタンク辺りには緑色の液体が入った試験管がついていた。それを右手首辺りに当ててトリガーを引くとチクリとした痛みの後、何かが入ってくるような感覚がじんわりと全身に広がる。ボスちゃん印のハイポーションは効くなぁ〜!緑色の液体を注射し終わるとカシュッと言ってはんこ注射のような跡が付き、感じていた体の痛みがスゥーッと引いていった。

 レッグホルスターからナイフを取り出し、自分を掴んでいる蛇女の手を切断する。突然の痛みに驚いたのか蛇女は暴れ回り、痛みに悶えている。切断した部分は黒い血がドバドバと流れ、人間だったらもう死んでいるだろうなと言う量出ていたが平気そうだ。ふわりと浮いた身体は上手く受身を取れず、倒れるように地面にキスしそうになったところでエルニエッタに受け止められ、何とか地面とのキスは免れた。

「ありがと、危うく地面とキスするとこだった・・・」

「生きででよがっだ・・・」

ズビズビと鼻水と涙を流し号泣するエルニエッタに引きつつも蛇女にとどめを刺すため、エルニエッタの腕からおり地面に足をつける。少しふわふわした感覚があるがまぁ戦えなくはない。

「はぁ・・・はぁ・・・なんでだ・・・!!!あたしはあんたを洗脳したはずなのに・・・!!!なんで正気に戻ってんだ・・・!!!」

息も絶え絶えに切り落とされた方の腕を抑えながら蛇女はこちらをキッとにらんだと思う。目元が見えないが口は苦しみにゆがんでいる。

「師匠に言われたんだよ、お前は私にはなれないってな!!!!」

そう言ってもう片方の腕を扇子で爆発させる。獣の叫び声のような悲鳴と怒号が入り交じった声で蛇女はもがき苦しむ。

「はぁ・・・はぁ・・・お前はあたしだよ・・・あんたが・・・仲間を殺したんだ・・・!!!」

「そうやって私を煽って再生を目論んでんだろ?」

「んなっ!?」

「わかるよ、お前が私の心情を理解できるなら私にもお前の心情を理解することは出来る。ちょっと考えたらわかるだろ?」

「グッ・・・急に元気になりやがって!!!」

「師匠にお前の泣きっ面を献上するって約束したからね。死んでもらうよ!」

「嫌だ・・・死にたくない死にたくない死にたくない!!!!!」

そう言って近付かれないようにしっぽを振り回す蛇女。腕がないと土も操れないようだ。蛇女にあめちゃん爆弾を投げつけるとしっぽは簡単に弾け飛んだ。バタバタともがき苦しむ姿はまな板の上の鯛だ。蛇女の上に乗り、蛇女を見下ろす。真っ白だった面布は黒く汚れ、下の方が焦げてギザ歯がこちらを威嚇するようにギラギラと輝いている。

「何故だ!!!上手くいっていたのに!!!あたしの完璧な計画が!!!どこで狂ったんだ!!!三体もモンスターを作ったんだぞ!!!お前を!ウェナトリアを苦しめるために!!!!その結果がこれかよ!!!クソッ!!!」

ギャンギャン騒ぐ蛇女は滑稽で笑いそうになる。しかし、途中まではこいつの作戦に踊らされていたのは事実。そこは反省点だ。バタバタ暴れる蛇女の胸に足を乗せ、逃げられないよう押さえつける。

「お前に奪われた命は私の弱さでもある・・・これからはもっと気をつけるよ。」

そう言って蛇女の首にナイフを右から突き刺し、左へ抜いていった。嫌な奇声を発しながら蛇女の身体はジュワジュワと溶けて無くなった。


 安心して体の力が一気に抜ける。そこへみんなが駆け寄ってくる。ハナコ、ソウル先輩、エルニエッタ、アヤさん、ボスちゃん・・・全員骨折などの目立った怪我はなく、安心した。

「無茶しすぎだよ!!!」

そう言ってボスちゃんに抱きつかれる。それと同時にハナコとエルニエッタもグスグスと鼻水をすすりながら抱きついてくる。

「ぐるじぃ・・・」

「皆さん、あんまりきつくするとウェナトリアさんが死んでしまいますよ。」

「「「それは嫌/ダメ!!!」」」

アヤさんのその言葉に、抱きついていた三人が声を荒らげ少しだけ力が弱まった。

「ウェナトリア、無茶しすぎだぞ!って怒らないといけないんだろうけど・・・まぁ今回はなんも言わないよ。師匠もきっとそうするだろうし、お疲れ様。」

そう言ってソウル先輩は頭をポンポンと撫でる。結構みんなに心配をかけてしまったんだなっと今更気付いた。

「ごめん、でもみんな手伝ってくれてありがとう。」

「ズビッ・・・おうよ!」

「ウェナトリアちゃんの為だから!」

「いつでも頼って!」

「ウェナトリアがデレるとは・・・お前も丸くなったなぁ〜」

「ウェ・・・ウインナー?さんはいい人ですから当たり前です。」

アヤさんは言えた感を出しているが全然言えていないのはご愛嬌だ。

「いっっっったぁああああああ!!!!!」

さっき使ったハイポーションの効力が切れて体の痛みが倍増して戻ってきた。ボスちゃんは何を使ったのかわかっていたらしく、ボスちゃんから試作品として貰っていた一時的にドーパミンなどを多く分泌してランナーズハイのような状態に強制的にするやつだと周りに説明してくれた。それを聞いたみんなに「それは無茶しすぎ!」っと怒られてしまった。体が痛すぎて一ミリも動けなくなったため私はそのまま救護班の担架に乗せられ無事病院送りとなった。

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