魔国へ向けて
85話
フィンは優司の前に立ってニコニコと笑いながら話し出した。
「そんなに魔法が使える様になりたいのか!?魔法剣士として言わしてもらうが、剣術と同時に魔法を使うことは出来ないって、知っているのか!?」
「・・・え~っ!!剣術と同時に魔法は使えないの!?・・・」
優司は内心の驚きを必死に隠した。しかしながら、表情に現れてしまった様子だ。そんな優司を見てフィンは続けた。
「考えても見てくれ、呪文を唱えながら剣を振るなんて大変なことじゃないか!?二つのことを同時にやりながら命のやり取りをするなんて危険なことだと思うが、優司はどう思う?」
「・・・確かにそうだ!戦闘のこと以外を考えながらなんて戦えないなぁ・・・」
優司は頭の中でもっともだと思いながらフィンの問いに小さな声で答えた。
「確かに・・・、その通りだ・・・」
フィンは素直な優司の目を見て笑顔で話した。
「魔法剣士は魔法も使える剣士って意味で魔法と剣を同時に使える訳ではないんだ。状況によって魔法を使うか剣術を使うかってことなんだよ!一緒に戦う仲間によって魔法を使うか剣を使うかってことなんだ!」
「優司は紛れもないマスラオだろう!?この世界ではそれだけで十分だと思うがなぁ・・・」
フィンの言葉にその場にいたレイナ、ルリが頷いた。そしてルイが話し出した。
「優司は十分みんなのことを考えていると思う・・・、むしろ考えすぎるくらいに!今起きている状況はこの世界全員の問題だ!だから、一緒に行く者達はそれ相応の覚悟はとっくにしているはずだ!」
優司はルイの言葉を聞いて一度天を仰いでから全員へ笑顔を見せて言った。
「ありがとう、リンを必ず救い出そう!」
優司の心に改めて意志の様なものが産まれた様子だ。それは戦士としての決意であった。その様子を見てフィンが続けた。
「少しは役に立てたみたいだな!役立てついでにもう一つ話しておこう!魔法を同時に剣は使えないといったが、神通力は別だ!呪文の詠唱がいらないから剣と同時に使えるかもしれない!まぁ、見たことも聞いたことも無いがね!実際に居れば最強であることは間違いないだろうなぁ!ましてやマスラオとサイオニックの能力を兼ね揃えていたらとんでもないことだよ!」
「剣士に憑依した精霊族ならなれるのかもしれない・・・、あくまでも可能性だけどね!夢物語だよ!」
「それよりも、覚悟をしているからといって妹が死ぬのは俺には耐えられない・・・。妹のこと、よろしく頼んだぞ!まぁ、色々な意味でな!」
フィンはそう言うと優司の肩をポンっと叩いて歩いて行った。そんなフィンの後ろ姿を見ながらルイが話し出した。
「フィンもハヤタ同様サイオニックを目指しているんだ!遠く険しい道のりだが・・・」
優司達一行がエルフの里の郊外にある広場に集まっている。ブラックドラゴンの背に乗り込もうとしているところだ。ブラックドラゴンもヘパイスト達が乗りやすくなる様な仕掛けを取りつけていた。それまでは鱗にしがみつくだけであった。
「ひゃぁ~!こりゃぁ乗りやすくなりやしたねぇ!!エルフの里に来るときは死ぬ思いでやしたから!」
タケゾウが大きな声で喜んでいる。
「アニキ!そんなことを言ったらダメでやんすよ!」
いつものようにキヨタがタケゾウをたしなめている。
「全員乗ったか!?それでは魔国へ向かおうと思う!準備はいいか!?」
優司の号令にたいして全員がおうっと返事をした。優司は見送るトーマスやヘパイストの方を見た。するとトーマスが大きな声で叫んだ。
「リンのこと、よろしくお願いします!」
優司はトーマスの願いに片手を上げて答えた。その刹那、優司達を乗せたブラックドラゴンは飛び上がり、足で荷車を掴んだ瞬間、上空へ一気に飛び去った。見送っていた者達はブラックドラゴンの素早さに舌を巻いていたが、冷静になると旅だった者達全員の無事を祈りながらすでに見えなくなった空をいつまでも見つめていた。
魔国アスモデウス城の一室、アザゼルの執務室での出来事。
「ええい!まだ鬼人達がエルフの娘を奪った証拠を見つけられないのかっ!!」
アザゼルが配下のグレーターデーモンに怒りをぶつけている。そこへ別のグレーターデーモンが慌てた様子でアザゼルの執務室へ入ってきた。
「アザゼル様!申し上げます!鬼人族のラクシャーサの村が一時騒がしくなったとの報告がありました!」
「何っ!それで、どうなった!?」
「はっ!しばらくしてラクシャーサ族のラセツがアラハバキの居城へ赴き、その後にヤクシャ族のヤシャが慌てた様子でアラハバキの居城へ入って行ったとの報告です!」
アザゼルは報告を聞いた後、しばらく下を向いて考えていたが、顔を上げてグレーターデーモンへ指示を与えた。
「ラクシャーサの村で何があったのかを探れっ!恐らくエルフの娘に関することであろう!急げっ!」
そして、アザゼルはアスモデウスの元へ赴いた。
「アスモデウス様、よろしいでしょうか!?」
「アザゼルか、入れ!」
「どうだ?エルフの娘は見つかったか?」
アザゼルはアスモデウスの問い掛けに頭を下げながら話し始めた。
「申し訳ありません。未だエルフの娘の行方は解りません。しかしながら、ラクシャーサの村で騒動があったようです。これを機に揺さぶりを掛けてみてはいかがでしょうか?」
「揺さぶりとは、どのようなことか?」
「はい、騒動の心配をしながら内部を探ってみるのも一つの手かと・・・」
アスモデウスは少し考えてから話し始めた。
「しかし、我々がいかにして騒動を知ったのか、言い訳があろうか?」
「はい、そのことでしたら、我々がエルフの娘を探しているのはきゃつらも承知のはずです。その探索の過程で騒動を認知したと言えば宜しいかと・・・」
「ふむ・・・、それであれば儂がアラハバキ宛に手紙を書こう!何か手伝えることがあるかとの・・・、それを持ってお主が直接訪ねよ!」
アスモデウスはすぐさまアラハバキ宛の手紙を書き始めた。




