蘭奢待(らんじゃたい)
らんじゃたい。
つい口にしたくなる。
といっても食べたるものではない。
言ってみたくなる言葉。
この言葉をしばらくぶりに耳にした。
『麒麟が来る』を数年ぶりに見た。
織田信長が切り取った東大寺の正倉院に
収蔵されている香木だ。
焚くと香しい香木。
しかし、ただの香木ではない。
今まで足利義満、織田信長、明治天皇らしか使用していない。
松永久秀が所有していた名物の 蘭奢待は、
一国に相当すると言われた。
だったら蘭奢待はそれ以上である。
天下人しか手に入れられることができない香木。
だから、俺には手に入れる権利がある。
今や日本の再建は俺の手腕にかかっている。
そう託された。
事実、俺の政党は明治以来初めて議席の85%を占める与党だ。
しかし、その瞬間、俺の私生活はなくなった。
日々、スケジュールに追われる。
その甲斐あって、再建は進んでいる。
首都移転の法案を制定した。
場所は岐阜県、滋賀県との県境。
そこに立法府としての新首都を構築する。
すべての最新技術を導入して。
Aiによる生体認証、自動運転、無人配送などなど。
これで、日本の最新技術の見本市を世界に知らしめることができる。
東京は立法府が移転しても行政府として首都とする。
首都が二つあってもいいだろ。
3つ首があるキングギドラもいるのだから。
新首都計画で国内の産業再生計画に一区切りがついた。
少しリラックスしたいが、外交問題が目白押しだ。
最大の問題は領土問題。
尖閣諸島と北方領土。
国のタテマエとは違い独裁者が政権を握っている国との交渉。
睡眠を削って、これらの解決策を思案していたが、
解決策はなく、眠れなくなってしまった。
結局、睡眠時間がなくなっても、いい案は浮かばなかった。
リラックスして、じっくり眠りたい、
それだけが俺の楽しみになっていた。
しかし、仕事がない休日でも、3時間ほどしか眠れなくなってしまった。。
リラックスしたい。
その時、頭をよぎった。
らんじゃたい、蘭奢待。
蘭奢待・・・
俺は決意した。
日本の未来は俺にかかっている。
蘭奢待を使わせてもらおう。
政権の全権力を使って、正倉院の東大寺に圧力をかけた。
広いところでは、宗教法人への税制を導入するとか、
個人の弱みを握り脅すとか。
その甲斐あって、2片の蘭奢待を手に入れた。
王の位を手中にするために・・・
そして、王となった。
自称だが。
もちろん、公には口にしない。
王になった彼らの世界侵略は辛らつだった。
アフリカや東欧進出に精を出したが、
不思議なことに尖閣諸島や北方四島から手を引いたのだった。
そう、俺は彼らに蘭奢待を送ったのだ。
そして、島と交換した。
当時の国、今でいえば県が買える名物なら、島が買えても当然だろう。
さらに彼らは、王という象徴が手に入れられるのだから。
これで日本の未来が開ける・・・
・・・俺に思い残すことはない
過酷な仕事が続き、体はぼろぼろになっていた。
ガンが全身に転移し、医者は生きているのが不思議と言った。
俺は後悔した。
蘭奢待を使ってしまったことを。
王の象徴というより、好奇心を抑えきれなかった。
徳川家康は使わなかったという。
蘭奢待を使うと不幸なことが起こるという言い伝えを警戒して。
らんじゃたい、
俺はもう一度、呟いてみた。
らんじゃたい、蘭奢待、口にしたくなる言霊。
つい書きたくなりました。