村と女装君
前回あらすじ
スピネル君が名前を付けてくれたったー
俺はスピネルに連れられ、近くにあった村に寄った。今更だが、異世界感が半端ない。殆どが想像していた異世界と同じだった。
「こんなところあったんだ…」
さっきスピネルと会う前、遠くまで見た時はこんな村は見えなかったはずだ。
「不思議だよねー。あそこにいたら、遠くの障害物とかが空気の汚れで見えなくなるの。見えたとしても、芝生とか花の色だと思うよ」
前を行くスピネルが俺の独り言に答える。
村の門を潜る。潜ったとたん、空気が軽くなった気がした。外はやはりスピネルのいう『毒』が空気にあるのかもしれない。
それにしても不思議な村だ。入った途端、蜃気楼の様に霞んでいた空が澄んだ。空気清浄機があるのか?
スピネルはそんな俺の疑問を見透かしたらしい。
「ここはねー、結界が貼ってあるの。濾過装置見たいなね。その濾過装置で外の空気を濾過してここに流しているんだよ!」
周りに注意を凝らしていると、この村の住民らしき人らが俺を興味深そうに見つめていた。恥ずかしくなり、空を見ながらスピネルの後を着いて行った。
モルフォチョウが舞、花々が咲き誇る。その姿はまるで天国の様だ。
いつの間にか俺はある建物の中にいた。自然に夢中になりすぎて、今までの道のりが分からない。
辺りを見回すと、簡単に言うと宿だった。よくドラク○などで見る典型的な宿。それがこの建物だ。
唯一違うところは、二階への階段がない事だ。ドアは入り口しかない。つまり、この階の部屋はここしかないということだ。
「おーい、ロリア!帰って来たよー」
スピネルは目の前にあるカウンターに声をかける。誰も居ないように見えるが…霊的な何かがいるのかもしれない。
「まーた死の草原に行ってきたのね!結界もギリギリだ
し、次毒に侵されても知らないからな!」
突然、カウンターから少女が飛び出してきた。
「うお」
その少女はかなり綺麗だった。人形のような肌と真っ白な髪に、紅い豪華な簪が煌めいている。
だが、格好がその秀麗さを少し落としていた。
真っ黒なへそ出しコーデに、長いローブ。細い手首にはゴツイブレスレットがジャラジャラと着いている。
一言で言えば、ヤンキー。不良感がわんさか溢れていた。
「あれ?見ない顔だな。あ、もしかしてまた転生してきたのか?」
思わず俺はギクリとする。なんで分かったんだろう?転生というか転移な気がするが。
スピネルは自慢げに言った。
「ふふん、僕が見つけたんだ。結構才能があると思ってつい連れてきちゃった!」
『才能があると思って』?
まさか…
能力とか付いたのか?
「まあ…すぐ分かるよなぁ…めっちゃオーラあるし」
俺は正直踊りたい気分だった。ていうことはあるわけがない。
能力は多くが「凍らす」とか、「闇を操る」だとか戦闘に関係する物だと思う。でも、俺は名誉じゃなくて、もっと大切なものが欲しいんだ。
『友達』だとか、『仲間』だとか。
今、やり直せるチャンスが来た。これを逃したら後は無い。
突然少女、いや、ロリアさんがグッとカウンター越しに顔を近づけてきた。
いい香りがふわりと漂う。
「両目が魔眼か…珍しいね。しかも、神の加護を受けている。死の草原で生きていられたのはこのおかげだね。」
ロリアさんは目を細める。
「太陽神…かな。能力は…」
ロリアさんは一旦離れ、何か考えていた様だ。
「…どんなものも簡単にする程度の能力」
「お、おぉ!」
スピネルは目を輝かせる。
確かに、すごい能力かもしれない。でも、俺にはいらない。だって、友達は簡単に出来てはいけないような気がするから。
「なんだい、兄ちゃん。不満だったかい?すごく使い勝手がいい能力だと思うけど。でも、予想だからそれが本当とは限らないけどね。」
心の中を読んだのか、ロリアはフォローを入れてくる。
「そういえば、私はロリア・オーソクレース。この宿の主人だ。昔は能力関係の研究者だったから、そこら辺で分からないことがあったら自由に聞いてね」
パチ、とウインクするロリア。
「ちなみに私は男だ」
「えっ…」
ずっと女だと思っていた。別に可愛いーとかは思っていないが、中々の衝撃だ。
「えっと…俺はホークス・アイです」
後ろでスピネルが自分が付けた名前を早速使ってくれて嬉しいのかぴょんぴょんしていたが無視した。
「あ、あの」
「なんだい?」
「死の草原について教えて欲しいんですが」
「ああ。長くなるがいいか?」
「はい」