京都幕末おにぎり屋
飯テロってのを目指してみました。
物語に出てくる物が食べたくなったら、評価をくれると嬉しいです。
京都の街中に、小さな屋台が出ていた。店をやるのは年の割に背がピシッと伸びてる老人で、赤い提灯には『おにぎり』と一言だけ描いてあった。
提灯にある通り、この屋台で売っているのは『おにぎり』だ。三角形で僅かな具を入れ、醤油を塗って香ばしく焼いた『焼きおにぎり』。具は三種類で、梅とおかかと鮭である。
注文が入れば、焼きおにぎりとお椀に注いだお茶を出してやる。お茶でおにぎりを流し込むも良し、おにぎりを浸して茶漬けにするも良しの人気商品だ。
そして夜は少し様子が変わって、お茶の代わりに梅の種とおかかの端と鮭の骨で取った『だし汁』が出て来る。そこにパリパリに焼いた鮭の皮を乗せて湯漬けにするのがまたオツなのだ。
「米爺さん、湯漬け一杯貰えます? 」
そう声をかけて来たのは常連の若者だ。この若者は昼も夜も常連の侍だ。
米爺さんと通り名で呼ばれた老人が、いつもと違う若者の格好を見て舌打ちをした。
「チッ、人斬った後にウチ来んなつってんだろ!」
「まだ斬ってないですよ。ほら、隊服に血とか付いてないでしょ?」
若者が水色の羽織を広げてクルリと回った。背中には誠の文字が入っている。
「あー、嫌だ嫌だ。人斬って何が楽しいんだかねぇ」
「楽しくて斬ってる訳じゃないですよ。お役目です」
ヘッ!と鼻を鳴らしながらも、老人は、おかかの入ったおにぎりの湯漬けを出してやった。
「……探したぞ総司」
「沖田!こんな所にいたのか!何をしている!」
「あ、局長に藤堂さん。ここの湯漬け絶品なんですよ!」
「何が湯漬けだ!待ち合わせ場所に居ろと言ったろ!」
「まあまあ。総司、お前がいつも言っていたのはここか?」
「はい!」
「どれ、親父さん私にも貰えるか」
「……人斬ってねぇでしょうね?」
老人の言葉に局長と呼ばれた男は目を丸くしたが、やがて苦笑して首を横に振った。
「ウチは食い物屋だ。人斬った後は許しませんぜ?」
「肝に命じよう。総司と同じ物を頼む。二つだ」
「へい」
三人は湯漬けをかき込む様に食べると、代金を台の上に置いた。
「馳走になった」
「また来ますね」
「……毎度」
翌日、瓦版は昨夜の事件で持ちきりだった。何でも『池田屋』という所で斬り合いがあったらしい。『新撰組』という名がデカデカと載っていた。
老人はそれを読んで、苦々しく鼻を鳴らした。