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第十三話 その脂肪は、本来の主の元に帰還する

 婚約式の会場に絹のドレスが破れる音が鳴り響いていた。

 

 ビリビリビリ!!

 

 そして、ジェシカがその身を飾っていた装飾品は音を立てて弾け飛んでいた。

 

 ブチブチブチッ!!

 

 なんとも恐ろしい光景だった。

 

 それまで、細く女性らしい体のラインが、見る間にぶくぶくと肉が付いていき、身にまとっていた美しいドレスは内側から溢れ出ようとする肉に耐えられずに悲鳴を挙げて裂けていた。

 そして、身にまとっていた真珠の首飾りは、今では首に食い込み、真珠を繋いでいたワイヤーの方が先に耐えきれなくなり、ブチッと音を立てて切れ、真珠は四方に飛び散っていた。

 

 今では、肉に布がついているような、見るに堪えない状態の伯爵令嬢がそこにいた。

 

「い゛や゛ぁ。み゛な゛い゛て゛ぇ~」


 肉に押しつぶされた声帯は、醜い音を出していた。

 

 肉に埋もれて、顔のパーツも定かではない状態で、何かの汁を撒き散らして泣き叫ぶ醜い肉の塊。

 

 それまで、蝶よ花よとジェシカを可愛がっていた両親は、その醜さに距離を取って、誰も助けようとはしなかった。

 

 

 しかし、ガウェインはそれどころではなかった。

 

 本来付くはずのなかった脂肪が、元の持ち主に返ったことで、アンリエットの体は本来の細さに戻っていたのだ。

 

 アンリエットは、元々食が細く痩せやすい体質だったので、子供の頃は小枝のようにやせ細っていたが、痩せると死ぬと思い込み、必死に食べたお陰で、女性らしい美しい体を手に入れていたのだ。

 

 そんな、本来あるべき姿に戻ったアンリエットは、ブカブカのドレスが体からストンと落ちそうになっていたのだ。

 このままでは、アンリエットの美しい裸体が晒されてしまうと、ガウェインは光の速度で身にまとっていた軍服の上着を脱ぎアンリエットに着せていた。

 アンリエットがガウェインの上着を身に着けたタイミングで、薄桃色のドレスが足元に落下していた。

 

 ガウェインは、自分の大きな軍服に体を泳がせるアンリエットに目を合わせられずにいた。

 

 元々、可愛らしいと思っていたところに、美しさも加わり動悸が大変なことになっていた。

 

(ヤバい……。これが世に言う、彼シャツというやつなのか?うん。いいな)


 ちらっと見たアンリエットの姿に、アホなことを考える将軍。

 

 アンリエットはというと、今まであった脂肪が無くなったことで、体が寒かった。

 小さくクシャミをすると、慌てたようにガウェインが言った。

 

「大丈夫か?いや、大丈夫じゃないな。早く室内に行こう」


 そう言って、体を気遣うも目を合わせようとしないガウェインの態度が悲しく思えたアンリエットは、頓珍漢なことを言っていた。

 

「将軍閣下はデブ専なのですか?痩せてしまったわたしには、もう興味はありませんか?」


 まさかそんなことを言われるとは思っていなかったガウェインは、慌ててアンリエットを見つめてから、顔を赤らめていた。

 

「違う!!俺は、アンリエットが好きなんだ。君の芯の強いところや、砂糖菓子のような甘く優しいところが、好きなんだ。ぽっちゃりでも、痩せていても関係ない!!その……」


 そこまで言ったガウェインは、アンリエットの耳元に唇を寄せて、彼女にだけ聞こえるように言った。

 

「アンリエットの格好が刺激的で……、目を合わせられなかった。早く、俺の妻になって欲しい……。アンリエットは、俺の妻になるのは嫌か?」


 まさかそんなことを言われるとは、思ってもいなかったアンリエットは、頬を赤らめてから、お返しとばかりに、ガウェインの耳元に唇を寄せて言った。

 

「嬉しいです。いつも楽しいお手紙をくれていた貴方のことが好きです……。わたしをお嫁さんにしてください」


 そう言って、身をかがめた状態のガウェインの頬に触れるだけのキスをした。

 

 ガウェインは、頬に感じる柔らかい感覚に、天にも昇る気持ちだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ………そうですか。ガウェイン様は純情なわりに、意外とむっつりさんだったのですね………(笑)
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