エンジェル・シャウト!
厨2病を煮詰めて煮焦がして凝縮した結果出来たようなssです。楽しんでもらえれば幸いです
西暦、という年号が使われていない世界。
気が遠くなるほどの昔から続く話。人々は不規則に現れる次元の穴『ゲイツオブヘル』から次々と現れる悪魔との闘争を続けていた。強力な力を振るう悪魔に対抗できる存在は一つだけ。
太古の昔より伝わる力『魔力』を用いて戦う戦士『魔女』だけだ。魔力は女性にしか宿らず、名の通り女性しか適合者はいない。悪魔に対抗しうるたった一つの戦力。のはずだった
時は現代。科学が発展し世界中が強力な対悪魔の兵器を開発するも、やはり悪魔にはなかなか成果を出せずにいた。永い刻の中で人間は魔女を統率し悪魔を駆逐する組織『ワルプルギス』を結成、世界中にその根を広げ悪魔を駆逐、平和を維持していた。
特にイベントもなく、ただ積み重ねられていく日常の中の一つ。6月6日午後6時にそれは起こった。悪魔対策本部『ワルプルギス』の中央魔力観測所、そこで計器が今までにないくらいの大きさでアラートを掻き鳴らす
「ちょっと、大変!! 大気中の魔力が基準値を大幅に超え始めてる!! こんな規模で、世界中で魔力の乱れが出るなんて……本部に連絡を!! 世界中で奴らが来るわ!!」
「緊急事態発生!! 大気中の魔力が急上昇、特大規模のゲイツオブヘルが発生する可能性あり、総員第一戦闘配備につけ!! 繰り返す……」
ワルプルギス作戦会議室に張られた世界地図に魔力の乱れが赤い円として描写されていく。それは一瞬で急激に範囲を拡大、やがて世界地図全てが赤く染まった。ワルプルギス統括理事会は円卓に座りながら悲観に暮れる。悔しさに歯噛みするもの、頭を抱え絶望に顔を歪めるもの、パニックを起こし過呼吸を起こすもの。
「なんてことなの……」
「終わりよ……世界の終わり……うふ、ウフフフフフフフフ……」
「死にたくない、死にたくない!! 私はいずれワルプルギスを牛耳る女、こんなところで ぁ」
自分の胸に抱えていた野望をさらけ出してしまった理事会の一人の魔女。一人だけ大声を出していたのが災いした。幼虫型の悪魔が会議室に突如出現、その魔女の頭を食いちぎり、露出した首の断面から体内に侵入、中身を食い荒らし始めた
「っく、許せ!!」
理事会メンバーの中で戦闘に秀でたものが幼虫の詰まった皮袋となってしまったモノを魔法で焼き尽くす。崩れ落ちる皮袋と、その中で悶えるように体をくねらせる悪魔が焼け落ちて灰となり床に落ちた。
「……我々に悲観している時間はない、各本部へ伝えろ。全力で抵抗し生き残れと!!」
この命令を受諾し実行できた本部はどれほどいるだろうか。願わくば多くの命が救われることを祈って理事会は戦い始めた
突然世界各国で始まった惨劇。次々と空中に現れる次元の穴、『ゲイツオブヘル』。あっという間に消えていく命の灯。
「助けて、たすk、助けて!!」
首都東京。大規模交差点で悪魔に追われ走り回る人間たち、それを追い回す獣のような姿の悪魔。やがて一人が転倒し、悪魔はその表情に愉悦を浮かべながらゆっくりと倒れた人間に迫る
「助けてくれーーーー!!!!!!」
と、獣の悪魔が表情を凍らせその場から踵を返し走り去っていく。下級悪魔である獣の悪魔が逃げる場合はたった一つだけ。
『 。 、 。 』
自分よりずっと格上の悪魔が現れた時だけだ
「あ、あぁ……ぁ……」
交差点中央、世界中で観測されたゲイツオブヘルの中でも類を見ない規模のゲイツオブヘルが出現する。巨大なゲートの中からはニンゲンの形をした何かが悠然と歩いてくる。それを皮切りにソレの背後から悠然と悪魔の騎士の軍勢が現れた。人間には聞き取りも理解もできない悪魔の言語を呟きながら悠然と歩みを進める。
足元に転がる羽虫など意に介さず、足元から沸き立つ邪悪な魔力が気化した霧があらゆるものをぐずぐずに腐敗させ滅ぼしていく。それはブロック塀も、街路樹も、倒れていた人間も例外でなく
「ぁ、あぁ!! ぁ……ァ」
その悪魔たちが悠然と歩き去った後には腐り落ち原型を無くした『何か』だけが地面のシミとして残っていた。
「く、総員迎撃を開始せよ!!」
『 。 、 。 、 』
ようやく現れたワルプルギスの魔女たちがそれぞれの武装を手に悪魔たちに反撃を始めた。獣の悪魔は駆逐されているが、悪魔の騎士の軍勢は別格だ。今までに数十匹と悪魔を滅ぼしてきた魔女が濡れ紙のようにズタズタに引き裂かれ、殺されていく。
突如として世界を襲った一方的な理不尽。このままでは人間界は魔界の悪魔に乗っ取られ世界の法則が崩れてしまう。
突如として襲ってきた理不尽に対して世界は、その理不尽を上回る理不尽で答えた
「か、はっ、はあっ、はあっ……! わたしは、私は!!」
『 、 』
禍々しい鎧を纏った悪魔の騎士が最後に生き残った魔女にその巨大な槍を向ける。そしてその槍が彼女を貫こうとした瞬間、鼓膜を激しく揺さぶる轟音が辺りに響いた。
ダガァァァァァン……!!!
悪魔の騎士の胸鎧に空いた三つの穴。鎧で顔は見えないがその様子から明らかな動揺の色を浮かべ、刹那、悪魔の身体が塵も残さず崩れ落ちた。
『 ? 』
巨大なゲイツオブヘルの真ん中、小さな小さな光が灯っている。その光は徐々に力を強め、ゲイツオブヘルを侵食し
バギャァァァァァン……
叩き割った
「よぉ、俺抜きで随分とタノシイことしちゃってるみてぇだな。肥溜めのこびりついたクソ共よォ」
壊れたゲイツオブヘルが砕けたガラスの破片のように降りしきる中、光の中から現れた青年は端正な顔を歪めて嗤った
「今から盛大なお掃除の時間だぜ。キレイサッパリさせたやるから、覚悟しろよ」
『 。 KMRS』
「あァ? めんどくせぇ……俺の名前はカラスマ シント。いざ尋常に勝負ってか? CMIeSさんよ」
後に世界史に刻まれた空前絶後の惨劇、『ワルプルギスの惨劇』。その悲劇の中で最大級の被害を受けた大交差点の戦闘で、たった一人生き残った魔女はこう語っている。その青年の姿は天使というにはあまりにもおぞましく残酷で、人間というにはあまりにも美しすぎた、と
「そらァ!!」
青年、カラスマが手に持つ銃から一度に放たれた三発の弾丸が悪魔騎士を薄氷のごとく粉々に撃ち砕いていく。全長三十センチはあろうかという巨大な三連式リボルバー。銃器の常識や物理演算を鼻で嘲笑うかのような、ムチャクチャなその一丁。名を『天銃・シリウス』。コンマ秒差で放たれる、強烈な聖の力を込められた弾丸は一発目で悪魔の鎧を撃ち砕き、二発目で悪魔の肉体を砕き、三発目でその魂を痕跡も残さず葬り去る。カラスマが持つ遮るものを撃ち砕く概念の結晶。
「悪ぃがこいつに弾切れはねぇ。テメェら悪魔を殺し終わるまでゴキゲンなまんまだ」
次々の呪詛のこもった魔法を放ってくる悪魔騎士の軍勢真っただ中に突っ込み、踊るように引き金を引き、悪魔騎士を撃ち砕いていく。
『 ? 』
「お褒めに預かり光栄ってヤツだ」
魔法を使う悪魔が全滅し、生き残った悪魔騎士は剣や槍を抜き放つ。カラスマはそれを見て心底楽しそうに笑う。
「そうか、次は近接格闘か。いいだろう」
カラスマが手を突き出すと、光が収束し一本の棒のような形に凝固する。その棒をクルリと軽やかに回転させると、回転の軌跡に沿うように棒の先端には大きな刃が出現していた。『天鎌・アルカディア』。純白の棒部に漆黒の刃、それらを彩るように黄金の装飾がちりばめられ、それは殺傷武器にして一種の芸術性までも感じさせる。カラスマが振るう、魂まで切り裂く断罪の象徴
カラスマが指だけで軽く振るうたび、大鎌が重い音を立てて風を斬る。飛びかかってきた悪魔騎士の剣を棒部の底で払いのけ剣を吹き飛ばし、丁度ヘソの辺りに深々と刃を突き刺す。
大鎌を突き刺したまま振るい、亡骸となった悪魔騎士を他の飛びかかってくる悪魔騎士に投げつける。かつての仲間という肉弾を叩きつけられ、吹き飛ばされる騎士だが他の騎士がそのスキを突いて突貫する。カラスマはそれに慌てることなくシリウスで対応、その銃身で剣を払いのけ脳天に銃弾を叩き込む。
『 ! !!』
頭目の大悪魔が瘴気を撒き散らす黒い軍馬を召喚、剣を掲げ突進してきた。カラスマは正面から受けるのは危険だと判断、街灯に向けて腕を振る。すると腕から神々しい黄金の煌めきを放つ鎖が出現。街灯に巻き付き自身を街灯へと引き寄せカラスマは突進から逃れた。
『天鎖・エルフェウス』。カラスマが持つ武装の一つ。カラスマが持つ邪悪を逃さぬよう縛り付け打ち据える縛鎖の象徴。
大悪魔の馬は瘴気を撒き散らしながらジャンプし、ビルを蹴り出し方向を急転換。再びカラスマへと迫る。
「ちぃ!!」
避けられないと悟ったカラスマはアルカディアに力を注ぎ待ち構える。そして悪魔とカラスマの斬撃が交差した。
「がっ、ふぅ、クソ……」
『 !!』
二人の身体に深い傷が刻まれた。
「さすがは七十二に数えられるヤツだ、下位とはいえマトモにやり合ったらダメだな」
『 !! ?!』
口の端に血を垂らしながらカラスマは笑う。新しいオモチャを手に入れた子どものように
「さぁヤろうぜ! どっちが先にイっちまうか、チキンレースだ!!」
カラスマの瞳が黒から黄金へと変わる。濡れ羽のような黒い髪は根元から徐々に白くなり、ぢりぢりとそのオーラは辺りの空気を震わせていった
「帰光!!」
強烈な閃光がカラスマへと降り注ぎ、大悪魔すら顔を覆う。閃光が収まった時、そこには歪な粛正者が佇んでいた。
頭の上には欠けた天使の輪のようなもの、そして肩を覆うように四枚の濡れ羽のような黒い翼が生えている。それは天使と呼ぶにはあまりに異形で、人間と呼ぶにはあまりに歪だった
「あんまり長いことこの姿でいるのはやばいんでな。速攻だ」
刹那、虚空からエルフェウスが多数出現し大悪魔を大の字に縛り上げる。カラスマはアルカディアを光の槍へと変換、投げつける
『 ?! !!!』
あらゆる不浄を断罪する光の槍が大悪魔の胸を貫く。だがそれでも消滅には至らない。これは大悪魔の力が強大すぎる故である。それを予期していたカラスマはさらなる追撃を行う
カラスマの足に光が収束、大悪魔へ向かってカラスマは走り出す。両の足が地面を踏みしめるたびにスパークが弾け、光が強くなる
「悪滅!!」
両の足で繰り出された強烈なドロップキックは光の槍に更なる悪魔を滅する力を注ぎ込み、大悪魔ですら耐えきれない一撃となった。
こうして世界中に開いたゲイツオブヘルの要となっていた悪魔は消滅し、世界の危機は一時的に去った。その後、カラスマの消息を知る者はいない。が、世界が悪魔の脅威に見舞われるたびに青年は現れ、時として生き残ったワルプルギスとも連携を組み悪魔を滅ぼしていくのだった。
元は連載用に書いてたんですが、短編にまとめてみるチャレンジしてみました。連載……できたらいいなぁ