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なかよくなれるかな

『おはようございます!』

『おはようパトリシア今日も元気だな』

『おはよう!』

『おはようパトリシアさん』


開口一番、金髪碧眼の少女が教師やクラスメイトに元気よく挨拶する

この学校では見慣れた光景だ

パトリシア・ファースト、高校からこの日本に留学してきた少女はたまに訛りがあるものの流暢な日本語を話す

快活で優しい彼女を嫌う者こそいないが少々距離感が近過ぎるせいか積極的に仲良く近付こうとはしない

あまり人馴れしていない常磐奏もその一人だった

昨日までは


『おはようパトリシアさん』

『おはよう常磐さん、最近楽しそうだね』

『そう、かな』

『うん、とっても!』


無邪気な笑顔に若干気後れを感じながらもはにかむ

人と関わらず傍目から見ても暗い自分に毎朝声をかけてくれるこの少女に自分から声をかけたのはこれが初めてだ

機械人マグニ・ウォルトと同居し出して1週間

ほんの僅かな期間に彼は自分で仕事を見つけてきて積極的に周りとも関わりを持っている

彼の雇い主は彼と同じく音楽に少なからずの興味があるようで日々色々な曲を教えて貰ってきては披露してくれる

最近は二人の間でスピッツがブームらしい

朝のドラマの主題歌を完全に覚えたらしく朝食の合間に歌っている

いつも積極的で自分の夢に向かって前向きな彼は奏にとって眩しい

彼の友人として少しでも見合う自分になりたいとなけなしのちっぽけな勇気を振り絞った


『今日1限目現国小テストだよね、私漢字苦手だからなあ…』

『私は物理が苦手』


そのまま流れで話ながら教室に入る

クラスメイトとはいえ珍しい組み合わせに一瞬クラスがざわつくがすぐに皆日常に戻る

ちらほらと常磐さんとパトリシアさんって仲良かったっけ?など話す声が聞こえる

仲良くはない、まともに会話したのはこれが初めてだ

仲良く見えてるとしたら彼女が友好的だからだろう

1限目、2限目と過ぎていき昼休みになった

いつもなら1人で作ってきた弁当を食べるところだが今日は違った


『いっしょに食べていい?』

『うん…』


彼女の席は後ろなのでそのまま机を真後ろに向けて向かい合わせる

こうやって食べるのは強制的に数人で向かい合わせて食べていた小学生以来だ

無論強制的なのでまともな会話なんて生まれるわけがなく、運が悪いとあからさまに席を離されるなんてこともあった


『常磐さんって1人が好きなのかなって思ってたんだ』

『間違いでも無い、と思う』

『ごめん、迷惑だった?』

『迷惑なんかじゃないよ…』


ただ祖父以外の人と接するのが苦手だっただけだ

幼い頃には普通に友達もいた 

特に幼なじみのとある少女とはお互いに親友といえるくらい仲が良かった

だけど視える能力に目覚めて全てが変わってしまった

彼女は人間では無かったのだ

体格こそ人間のそれであるが幼なじみにはふさふさとした耳や尻尾が生えていた

顔も獣のそれに近かった

彼女達一家は所謂フィクションで言う所の獣人だったのだ

幼い奏は無邪気さ故に彼女の正体を人前でなんの気無しにバラしてしまった

結果は言うまでもなく最悪だった

奏は皆に嘘つき呼ばわりされ、親友も遠くへ引っ越してしまった

それからは最悪だった

人間の中に時々潜む親友みたいな獣の人間、蝙蝠のような羽根が生えた人間等

まだ幼い奏は黙っている事が出来ずその度に厄介事が増えていく

両親はすっかり奏を持て余し、奏もいつしか心を閉ざした

唯一の味方は宇宙という広い世界を知っている祖父だけだった

その祖父にも実の息子である父と険悪になる結果になり負担をかけてしまったのが奏には心苦しかった


『常磐さん?』

物思いにふけこんでいると心配そうに顔を覗き込まれた

『なんでもない』

『そっか…』


何か言いたそうだったがそれ以上彼女は追求して来なかった

正直に話した所でどうにもなる話じゃない


『人と接するのが苦手なだけ』

『それは私もわかる』

『え?』

『私ってほら距離が近過ぎる時よくあるでしょ?もっと普通に出来たら良いのになあって思うんだけどなかなか上手く行かないんだ』

『パトリシアさん…』

『皆と仲良くしたいけどそれで嫌な思いをしてもらいたく無い』

『…わ、私は嫌じゃ無かったよ』

『常磐さん』

『確かにびっくりするけど、けど私みたいな子に毎日毎日声をかけてくれた子ってパトリシアさんくらいだから…だから』


そこまで一気にまくし立てて次の言葉に詰まる

能力のせいにして長いこと友達を作ろうとしなかったツケだ

何を話したら良いのかわからない


『カナちゃんって呼んでいい?』


パトリシアが私の両手を包み込むように握る


『私の事はパティって呼んで』


そう言って笑った

応えるように私も握り返す


『パティ』


あっという間に時間が過ぎ下校時刻になる

いつもは1人で帰っていた道を2人で並んで歩いてく


『あっカナちゃんおかえり!友達?』

『うん…』

マグニの姿を見かけた刹那、パティの目が大きく見開かれたが浮かれていたので気が付かなかった


『カナちゃんこの人…』

『えっと、パティみたいに留学生でうちにホームステイしてるの』

『マグニ・ウォルト、マグって呼んでね』

『いっしょにすんでるんだ…よろしくマグ』


秒で仲良くなる2人を見つめながら先ほどのパティの言葉を反芻する

いっしょにすんでるんだ…

なんの気もないその言葉が何故だが心に残って少し落ち着かない

その気持ちの正体がわからないまままた明日とパティと別れ今度はマグニと2人で帰路についた



ーーーーーーー   ーーーーーーー


『おかえり』

『ただいま〜』

タワーマンションの1室、パティはその人物に笑顔を向ける

開口一番に学校での出来事を話していく


『リヴィが言ってた通りになったよありがとう』

『別に礼を言われるほどじゃない、君が頑張ったおかげだ』


ニコニコと上機嫌のパティにリヴィと呼ばれたその青年も謙遜しながらもどことなく嬉しそうに返事を返す


『あ、それでねリヴィ、リヴィと同じ人に会ったよ』

『パティそれは…』

『リヴィの事は黙ってたよ、言って良いのかまだわかんなかったし』

『そうか…』

 

この惑星に住む人々はまだ地球外に対する生命に対して興味を示しながらも潜在的に恐怖心という壁を作っている

敵対ではなく友好を目指す"彼ら"は特定の状況下を除きこの発展途上の惑星で堂々とその正体を晒せる訳ではない

それはこの惑星の人々に対してだけで無く時に同郷の者同士でも慎重になる

特にこの惑星の橋渡し役であるこの青年にとっては


パトリシアは青年を見上げる

真夏の空のような紺碧色を基調とした美しい鋼鉄のボディに覆われた逞しい長身の青年

彼女自身も170と長身ながらも2メートル半を越えるその青年と比べると父親と幼子のような体格差だ

宇宙開発機構で働く父エディを補佐する若い機械人

所謂なんでも屋であるワーカーとして宇宙を駆ける彼は多忙だ

エディの補佐以外にもたくさんの仕事を抱えながらも穏やかで優しい彼はこうやって彼女の家庭教師として、友人として何かと気をかけてくれている

パトリシアがこうやってまくし立てるように話かけても嫌な顔ひとつせずよく聞いてくれて必要な時は助言もくれる

余計なお世話かもしれないがそんな彼に同郷の話相手が出来れば良いのにと彼女は思う

出来れば友人である奏といっしょにいる彼と

奏が彼をどう思っているのかまだ分からないが同じ機械人の友人を持つもの同士色々と語り合う事が出来ればなと思う


『パティ』


琥珀色のバイザーと目が合う

彼女の願い事は早くも叶うことになった



 
















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