マグニと奏
マグニと奏
朝3時
マグニ・ウォルトの朝は早い
『フンフン〜♪』
鼻歌を歌いながら次から次へと新聞を入れていく
地球について常磐奏と居候して即決めたのがこの新聞配達の仕事だ
持ち前の物怖じしない性格もありすぐに決まり今の所かなり順調だ
人間より遥かに優れた肉体をもつマグニにとって早起きは全く苦にならない
人間離れしたスピードで新聞を配る様はもし確認できる人物が居れば何かの怪異と見間違え恐怖の対象にされそうだがホログラムによる視覚補正のおかげで極々一般的な原付きで新聞配達をする青年にしか見えない
視覚ホログラムをすり抜ける視力をもつ人間など奏くらいのものである
そもそも視覚ホログラムをすり抜けるとはどういう原理かよくわからないがそんな事もあるんだろうとマグニはあまり気にしていない
ひと仕事終え、帰宅すると美味しそうな匂いが嗅覚センサーを刺激する
焼き立ての綺麗な卵焼きを早速一掴みしようとすると咎められた
『駄目だよ外から帰ってきたら手を洗わなきゃ、あと素手も駄目、お箸があるでしょ』
『はーい、ごめんよ〜』
機械人であるマグニには別段雑菌等による体調不良なと有り得ないのだが郷に入れば郷に従えである
素直に従って手を洗って箸を使って食事していく
今朝の朝食は卵焼きに焼き魚、味噌汁に炊きたての白米と一般的な日本人の食卓であるがこれがとても美味しい
とっても美味しいといつものように告げると少女はそんな事はないよとなんとも言えない寂しげな表情を浮かべる
『そんな事はないのは無いと思うけどな〜』
控えめに言っても奏の作る料理はかなり美味い
少々の不満を持ってマグニは答える
一緒に暮らしはじめてまだ1週間程度だがこの少女は時に必要以上に自分自身を卑下する癖があるとマグニは見抜いていた
はじめは日本人特有の性質かと思っていたがどうやらそうではないみたいだ
得体の知れないロボットである自分と友好的に接してくれているこの少女をマグニは気に入っている
それだけに事あるごとに自分なんてと言われると悲しい
なんとかしてやりたいと思うがまだまだ知らない事ばかりだ
だから知りたいと思う
『ねえねえ、学校はどうなの』
『どう…って』
『友達とかさどんな事やってるのかとさか』
『友達…』
友達、ときいて奏は言葉につまる
この体質のせいかまともに友人を作ったことがない
マグニはあの様子だ
初対面の相手でも物怖じひとつしないし多分友達はたくさんいるのだろう
自分にとっては友達といえるような相手は悲しいかな今の所マグニくらいである
『カナちゃん?』
『…』
『もしもーし』
『…今学期中には作る』
とりあえず目標ができた