プロローグ
私には何故か昔から人には見えない何かがいつも見えました。
何となくですが幽霊や妖怪の類いでは無いような気がします。
彼らは私が視えている事に気付くと驚いた顔をして目を逸らしたり、興味深そうに触れる方も居ました。
他の人には視えないという事実を知らなかった私は躊躇いもなくいつも彼らに話しかけていました
高校生になった今では、幼い頃忙しい両親の代わりに私と遊んでくれた優しい女の人の姿でさえもう朧げにすら思い出せないけど
そして今も目の前にその不思議な彼が居ます。
『そして僕はキミの為に歌うのさ』
…いつの日か怖くなって見ないフリをしていたのに
私は久しぶりに自分から話しかけたのです。
彼が小気味よく口ずさむそのフレーズは大好きだった祖父が口ずさんでた懐かしい歌そのものだったからかもしれません。
「暖かな信頼と愛に溢れた優しい夢を」
それは私が父と母にずっと欲して止まないもの。
もう、手には入らなくなったけど
私がこんなおかしな力を持っていたせいで。
いつの間にか大嫌いになったこの力を私は久しぶりに使いたいと心の底から願いました。
目の前にいる彼とその唄への想いを共有したくて。
それが私と彼の長い長い物語のはじまりでした。