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29話

「具体的にどうするんだ」

 船長室に入った紀忠と安吉は向き合って策を練っていた。

 門右衛門はいま、紅衆の備品をまとめている。

「夕暮れ後の薄暮に攻撃を行う」

「危険だぞ」

 安吉の言葉に紀忠はそう答えた。

 無線機もまともにないこの時代、夜襲というのはそれなりの危険が付きまとう。

 同士討ちの可能性が格段に上がる。

「数を絞る」

 その言葉に紀忠は「正気か」と答えた。

 ただでさえ、数が足りないというのに。

 数を絞るとなればさらにそれは深刻になる。

「端艇は2艘で行く。紅衆10名で武豪殿を取り返す」

「武敏とやらはどうするんだ」

「連れていくほかあるまい」

 紀忠は大きなため息を吐いた。

「そうまでして、宜蘭に固執する理由は?」

 その問いに安吉はこう答えた。

「宜蘭から南に少し行くと鉱山がある」

 それを聞いて紀忠は鼻で嗤った。

 確証はあるのか。

 そう尋ねようとしていた。

「小春殿がそういうのだ」

 偉くまじめな表情でそういう安吉に紀忠は吹き出した。

「あの姫君がおっしゃられるならそうなのだろう」

 思い返せば不思議な姫であった。

 だが、どこか安吉とは馬があっていた。

「帰ったら妻でも娶るかなl」

「羨ましくなったか?」

 紀忠のつぶやきに安吉はそうニヤッと笑った。

 それを聞いて紀忠は安吉の肩を叩いて照れ笑いを浮かべた。

「すこし、な」



「武敏、静かにしていろよ」

 その日の夜、岬の影に船団を隠した安吉らは2艘の端艇を陸沿いに進ませると、入江に進入した。

 両岸は切り立った崖になっており、入江の奥に港があった。

「ワカッタ」

 安吉の言葉に武敏はそう言って素直に頷く。

 暫く進むと港に泊まる船が見えて来た。

「でけぇな」

 思わず紀忠はそうこぼした。

 安宅船よりは大きく、40門戦列艦よりは僅かに小さい船がそこにはあった。

「明のジャンク船似ているな」

 中国大陸で独自に発達した帆走船によく似ていた。

「あれ1隻だけか?」

 安吉が武敏にそう尋ねると彼は首を振った。

「全部デ3隻イル」

 それを聞いて安吉は頭を抱えた。

 敵の所在がはっきりしない以上、迂闊な行動はとれない。

「タブン、南ニ行ッテル」

「どういうことだ?」

「南蛮ノ船、襲ウ。儲カル」

 武敏の言葉にうなずいた安吉は彼を信じることにした。

「解った。信じよう」

 安吉はそう答えると、静かに「前進」と命じた。

 静寂な闇夜を2艘の端艇が切り裂いていく。

 港の奥にある小さな町にはまだ明かりが灯っている。

「静かに、静かにな。水夫は太刀をもってここで待機だ」

 砂浜に船をつけた安吉はそう命じる。

 紅衆は素早く整列すると、態勢を整えた。

「よし、続け」

 安吉はそう言って町の中へと入っていく。

「武敏。どの建物だ?」

 物陰に隠れた安吉は武敏にそう尋ねると、彼は「暗クテ、良ク解ラナイケド」と言いながらも、1つの家を指さした。

 そこは周りの家々と違ったこの闇夜の中でも煌々と窓から光が漏れ出していた。

「さしずめ、宴会中といったところか」

 安吉はそう言うと、指で指示を出す。

 安吉と武敏、そして5名の紅衆が1の組。

 紀忠と5名の紅衆が2の組としている。

「2の組、着いて来い」

 安吉の指示を見て紀忠が5名の紅衆を連れて家の裏へと回り込んでいく。

「ドウスル」

 武敏の問いに安吉は「俺たちが注意を引いている間に2の組が武豪殿を奪還する」と答えた。

 暫くすると安吉は「弾、込め」と紅衆たちに命じた。

「貴様はこれでも持っておけ」

 安吉はそう言うと武敏に小太刀を投げ渡した。

 そうこうしている内に「装填よろし」と紅衆が答える。

「構え」

 安吉が静かに命じると、紅衆の者たちが物陰から身を乗り出し、目の前の家を狙う。

「耳、塞いどけよ」

 彼はそう言って武敏に悪戯気な笑みを浮かべると、大声でこう命じた。


「撃てぇ!!」


 凄まじい轟音とともに、5発の銃弾が目の前の家を穴だらけにする。

「何奴!!」

「敵襲ゥ!!」

 意外にも敵の反応は早かった。

 家の中からそんな声が響くと、安吉は冷静に命令を下す。

「装填! 構え!」

 紅衆は素早くその命令に応じると、火縄銃を構える。

 その直後、都が勢いよく開け放たれると3人の男が現れた。

「撃て」

 安吉が冷酷に命じると火縄銃は火を噴く。

 そして、家の反対側からは紀忠の「突入!!」という勇ましい声が響く。

「火縄はもう良い、太刀を持てぇ!」

 安吉はそう叫ぶと、太刀を引き抜いた。

 紀忠が突入した今、不用意に火縄銃を撃てば同士討ちの危険がある。

「ヤスヨシ!」

 突入するべきか否か、そう思案していると武敏の声が響いた。

 その直後、背後から一人の男が斬りかかって来た。

「なっ?!」

 驚きの声を上げるとともに、太刀で斬撃を防ぐ。

 武敏の声が無ければ死んでいたと冷や汗をかきながら、敵の太刀を弾く。

「ぬぅ?!」

「すまぬな、これも世の定め」

 安吉はそう呟くと、無防備になった男の懐に入り込むと首に太刀を突き刺した。

 一安心、そう思っていた直後、今度は家の壁が蹴り破られた。

 慌てて振り返るとそこには歳不相応な大男がいた。

「なんだ、貴様か」

 現れたのは紀忠だった。

 彼の背後には見慣れない髭面の男もいた。

「父亲(父上)!」

 武敏はそう叫ぶとその男に抱き付いた。

 どうやら、武豪らしい。

「武敏、積もる話もあるだろうが。まずは帰るぞ」

 安吉はそう言って船の方向を睨んだ。

 もうすでにいくつかのかがり火が周囲に迫っている。

「走れ!」

 安吉はそう叫ぶと、端艇に向かって駆けだした。

 町を抜け、砂浜に辿り付くと、端艇が10人程との男どもに包囲されていた。

「どけぇ! どけぇ!!」

 安吉はそう雄たけびを上げながら背後から斬りかかると、紀忠もそれに続いた。

「斬り捨てぇい! 船を出すぞ!」

 瞬く間に男どもを蹴散らした安吉は水夫にそう命じる。

 砂浜に乗り上げていた端艇は見る見るうちに砂浜を離れていき、沖へと向かっていく。

 港は騒がしく、いつかは追手がくるだろう。

「你是谁(貴男は誰ですか)」

 一息ついたところで、不安そうな表情をした武豪がそう尋ねて来た。

 それに安吉は毅然とこう答えた。


「日ノ本一の船乗りだ」


 緊急事態宣言の解除、心よりお祝い申し上げます。

 これを機に皆さまの日常が戻られることをお祈り申し上げます。


 筆者はまだ暇を頂いておりますので、今後とも毎日投稿を続けていきたいと思っております。

 今後とも御愛読のほどよろしくお願い致します。


 また、少しでもお時間がおありでしたら感想など書いていただけると今後の励みになります。

 ご一考のほどよろしくお願い致します。

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