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24話

 3度目の夜は無事に過ぎていった。

 11時頃までは不安で安吉も起きていたが、何事も起きないことに安心して眠りについた。

 翌朝、5時ごろに士官の一人が陸岸が見えたことを報告しに来た。

 遂に船団は奄美大島に到達した。

 大三島から台湾へのほぼ中間であった。

「船に注意しろ」

 安吉はそう厳命した。

 ここから先は琉球王国の領域になる。

 それに伴い、船の数も増えていくだろう。

 この時期、明は海禁政策を実施し、事実上海の利用を禁じていた。

 しかしながらその権威は琉球まで及ばず、結果として琉球が明とアジア諸国を中継することによって海禁政策を回避することが出来た。

 日本は諸勢力がこの琉球貿易と倭寇との貿易を使い分けているような状態であった。

 当初はこの琉球貿易を利用して火薬を入手しようとも考えたものの、結果として却下された。

 その一つに手数料が莫大にかかると言う事であった。

 南蛮商人から琉球を経由して購入すれば当然手数料がかかる。

 価格の1割にも満たないそれだが、無数の火薬を入手しようと思えば莫大な量になる。

 結局は直接購入したほうが良いのだ。

 その予想通り、奄美大島を通過し本島に近づくにつれて安宅船のような大型商船や中国のジャンク船を見かけるようになった。

 すれ違う船たちは、一様に安吉の船を見ると距離を取り、怖れるような目で見つめて来た。

「いい気はせぬな」

 安吉はそう言って笑う。

 久しぶりに見た船団以外の船にこんな対応をされれば悲しくもなる。

「一旦、本島の南端まで向かい、西岸に出る」

 現在船団は沖縄本島の東岸を航行している。

 本島の北端から西岸に回ってもよかったのだが、そちら側には小島や暗礁があるため、安全を取りこのような方法を採っている。

 ここにきて座礁なんかで離脱などしたくはない。

 何事もなく沖縄本島の荒崎岬を回った船団は西岸を北に向かうと、現在の那覇空港あたりに錨を下ろした。

 首里城から南西に10kmほどの地点であった。



「各船に伝えろ『本地点で8日間の休息をとる。各船半舷上陸とせよ』」

 その命令の元信号旗が揚げられる。

 半舷上陸というのは船内乗員の半分を上陸させ休暇を与えることであった。

 仮に錨泊していると言っても船内環境の保持や位置を保つために半数の人間は残す必要があった。

「続いて信号旗揚げ『各船長は本船に集まれたし』」

 甲板上に現れた安吉がそう命じる。

 この8日間を使い、船団の状況を把握し食料を積み込む必要があった。

「そのためにはすぐさま各船の船長を集める必要があった。

 安吉は信号旗が確かに揚がったのを確認すると端艇降下作業を眺めた。

 現在この神風には4艘の端艇が搭載されており、両舷の前後でそれぞれ作業が行われている。

「権兵衛はいるか?!」

「はっ。ここに」

 呼ばれた権兵衛はすぐさま安吉の元に参じた。

「8日間、上陸した乗組員が粗相をせぬように見張っていろ」

 その言葉に権兵衛は「よろしいのですか?」と尋ねた。

 この命令は実質的に8日間の上陸許可であり、他の誰にも認められていないものであった。

「構わぬ、必要に応じて紅衆を連れて行ってくれ」

「承知」

 この琉球で船員が問題を起こすと聊かめんどくさい。

 今後、琉球で補給を受けられなくなる可能性があるのだ。

「ただし、鉄砲は置いていくように」

 安吉の言葉に権兵衛は神妙そうな顔でうなずいた。

 他国の兵士が自国領で銃をもって闊歩するのをいい目で見る領主はいないだろう。

「遊んで来い」

 安吉はそう言ってニイッと笑った。

 権兵衛には苦労を掛けている。

 次期船長として様々なことを任せており、ここ最近は酷く疲労しているようなそぶりもあった。

 ここでリフレッシュしてもらおうというわけだ。



 それから1時間後、紀忠と門右衛門が神風に乗船した。

「8日間もここでいいのか」

 まず最初に疑問を呈したのは紀忠であった。

 当初予定では10日程度で台湾沿岸に到着する予定であった。

 だが、ここで8日も消化するとなるとそれは大きく遅れることになる。

「二日前の嵐で乗組員は疲労している。ここで休息を与えなければ事故になる」

 安吉の言葉に門右衛門は頷いていた。

「しかし着岸は出来ぬのか」

「入れる港が無いさ」

 安吉はそう言って笑った。

 この安宅船を大きく上回る船が入れる港は限られている。

 しかも軍船ともなればなおさらだ。

 少なくとも首都近郊に着岸させたくはないだろう。

「仕方あるまい」

 もし港に着岸できれば船に残るのは10名もいれば十分になる。

 部下を思う紀忠だからこそ、着岸させたかったのだろう。

「各船、水及び食料は足りているか?」

「恥ずかしながら、先の嵐で食料の一部が浸水しダメになり申した」

 門右衛門の言葉に安吉は「やはりか」とこぼした。

「島風はどうなのだ」

 安吉がそう尋ねると紀忠は難しそうな顔をしてこう答えた。


「大砲を5門喪失した。火薬も3割がダメになった」


 その言葉に、安吉は目を見開いた。

 恐れていたことが起きた。

 恐らく固縛が完全ではなかったのだろう。

 動揺の際に落下したものと思われる。

 紀忠が悪いというわけではない。

「神風と春風から火薬を1割ずつ移譲する」

「かたじけない」

 紀忠はそう言って詫びた。

 どうやら随分と落ち込んでいる様であった。

「気にするな、人員に被害はないな?」

 安吉の問いに二人は「異常なし」と応じた。

 その返答を聞いて安吉は胸をなでおろす。

 けが人が発生していれば航海を中断する可能性もあった。

「食料の積み込みと平行して今回の教訓をまとめようと思う。乗組員にも聞き取り調査を行うように」

 安吉の命令に二人は「応」と答えた。

 今回の航海での失敗は次への成功につながる。

 恐れることなく報告し今後に活かさなければならない。


「過去を振り返るよりも前を見るべし」

 

 安吉は落ち込んでいる紀忠にそう声をかけた。

 

 

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