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10話

「止まったな」

「えぇ」

 戦場に訪れたとある異変。

 それにいち早く気が付いたのは能島村上家の面々であった。

「潮も風も、止まった」

 武吉は空を見上げてそう呟いた。

 そして、ある兆候に気が付いた。

「貞道。これは負けぬ」

 その言葉を聞いて貞道は目を丸くした。

「どういうことですか?」

 臆することなく尋ねた貞道に武吉は苦笑いを浮かべた。

 すると人差し指をペロッと舐めると天に掲げた。

「湿り気、かすかな風、温度。肌で感じられぬ変化に気が付け」

 その言葉を聞いて素直に貞道は武吉の真似をした。

 暫く目をつむって変化を機敏に感じ取ろうとしたが、諦めたかのように笑うとこうつぶやいた。

「まだ、解りませぬ」

 貞道の返答に武吉は「素直に認めるのはいい事だ」と笑った。


「海の戦と陸の戦の違い、その身に叩き込んでやる」

 武吉はそう呟いた。



「潮も、風も止まった」

 前進を開始していた冬康はそう呟いた。

 潮や風が止まるとその場にとどまるのが容易となり、冬康にとっては僥倖であった。

「負ける道理がない」

 彼はそう呟くと、眼前に陣を構える武吉の安宅船を睨んだ。

 水平線には無数の小早が連なり、その中にポツリポツリと10艘程度の関船がその場に錨を下ろしている。

「敵は目の前だ! 武士もののふ共奮起せよ!」

 冬康はそう声を上げる。

「応!」

 彼の言葉に兵達は水面を揺らして応じた。

 


「兄上は勝つだろうか」

 冬康の後ろに続く十河一存はそう呟いた。

「いや、勝たねばならない」

 三好家からすればこの戦は一方面の戦いに過ぎない。

 畿内では六角家や将軍家との対立が絶えない。

 丹波の山名家にも兵を向けている。

 しかも土佐の情勢もまた、安定していない。

 三好家配下の西園寺氏と宇都宮氏が一条氏の侵攻を受け三好家に援軍を求めている。

「ここで多くの兵を損じれば三好の体制崩れる」

 一存はそう案じていた。

「兄上、急いては事を仕損じますぞ……」

 


「安宅冬康の隊がこちらへ向かってきまする!」

「その後方には十河一存の隊!」

「加羅義則、葉山友義の隊は小豆島に留め置かれている模様!」

 次々と上がって来る報告に武吉は笑みを浮かべていた。

 敵は合理的だ。

 故に手を読みやすい。

「塩飽の多賀信弘、小豆島の佐々木信胤の両名を呼べ」

 武吉は冷静にそう命じた。

「何をなされるので?」

 貞道の問いに武吉は笑みを浮かべた。

 まるで何か悪戯を思いついたかのような無邪気な笑みにも見えた。

「小早の使い方という物を叩き込んでやるのさ」

 

「殿! 我らに何か御用でしょうか!」

 数分としないうちに信胤と信弘が現れた。

「おぉ、よく来てくれた」

 両名に武吉は笑みを浮かべるとこちらに向かってくる冬康の陣を指さした。

「襲撃してこい」

 その言葉を聞いて二人は呆然とした表情であった。

 彼らの表情を見て武吉は満足げな笑みを浮かべる。

「風や潮は貴様らがよく分かっているだろう。これからどうなるのかも、解っているだろう?」

 武吉の問いに信胤は「勿論でございます」と自信ありげに応じた。

「意気やよし。一撃加えて敵の陣を乱すだけでよい」

「それだけでよいのですか?」

 信弘はそんな風に声を上げた。

 彼の言葉を聞いて武吉は「不満か?」と笑った。


「そんなもの、朝飯前にございまする」


 信弘と信胤の返答に武吉はニイッと笑うと「行ってこい!」と声を上げた。

「承知!」

 二人は跪くと自らの船へと戻っていった。

 彼らの様子を見て、貞道は眉をひそめていた。

「あの自信は何処から来るのでしょうかね」

 そう言って苦笑いを浮かべた貞道に武吉は諫めるようにこういった。

「ここらは自らの所領なのだ。奴らならやってのける」

 武吉の言葉を聞いて貞道は「なるほど」と感嘆の声を漏らす。

 ふと、何かを思い立ったかのように武吉はこんなことを呟いた。

「安吉はなにもせぬのか」

 


 その頃、摂津では動きがあった。

 河野家より発せられた使者がようやく摂津の三好長慶の元へと届いた出会った。

「塩飽諸島周辺にて能島村上家と安宅冬康様が交戦なさっている御様子」

 長慶がその報告を受け取ったのは調度、佐々木信胤が小豆島を離れたころであった。

「勝てそうか」

「如何せん数が集まらず……」

 長慶の問いに使者はそう答えた。

 報告を聞く限り冬康が兵を集めるのは1日となかったはずだ。

 その短時間で5000もの兵を集めたのだ。

 冬康を責めることは出来なかった。

「まぁ、任せるとしよう」

 長慶はそう答えた。

「それに、あの大祝が静観しているはずがない」

 そう静かに続けると長慶は政務に戻った。



「さて、どうしたものかな」

 それから、4日ほど前。

 河野家から大祝家に慌ててやって来た使者を追い返した夜のこと。

「旦那様のなさりたい様にするといいわ」

 縁側に腰かけ、月を見上げていると隣に小春が現れた。

「身重の体でこんな夜遅くまで……」

 安吉がそう言いかけると小春は唇ととがらせた。

 それを見て小さくため息を吐くと「みつに怒られてもしらないぞ」と笑った。

「安吉様が困っているのにおちおちと寝ていられますか」

 小春はそう無邪気な笑みを浮かべた。

「この戦を止めたい。策を授けてはくれないか」

 安吉はそうこぼした。

 あまりにも素直な物言いに小春は驚いた。

 くすりと笑みを浮かべるとこう答えた。

「どのような戦の終わり方を望まれるのかしら」

 小春の問いに安吉は「兄上にご自重していただきたい」と答えた。

 難しいことを言いますね、と小春が笑う。

「冬康殿が負けるギリギリのところでお救いして三好に恩を売るのがよろしいかと」

「兄上が満足しないだろう」

 小春の提案を安吉はそう否定した。

 それに、小春はニイッと笑みを浮かべた。

「旦那様が此度の戦を止められなかった罪を負って瀬戸内守を辞職すればよいのかと」

 その言葉を聞いて安吉は「なるほど」と呟いた。

「それ相応の地位を与えることで兄上を宥めるのだな?」

「そうです」

 安吉の言葉に小春はそう答えた。

 今、武吉は自らも年下であるはずの安吉が自らよりも高い地位についていることが気に食わないのだ。

 口で官位などに縛られないと言っても、それなりの地位を用意されれば満足するはずだ。

「長慶殿が了承するか?」

 その問い小春は不敵な笑みを浮かべるとこう答えた。

「長慶殿の援軍に赴かれればよろしいかと」

 小春の意外な返答に安吉は要領を得なかった。

 それを見て小春はこう続けた。

「今、三好は丹波の山名との戦に手を焼いております」

「あぁ、陸路で行くには山が多くて困難だと聞く」

 安吉はそう答えると、ハッとした。

「海上より、三好を援護する……」

 武吉に瀬戸内守を譲る代わりに山名との戦に大祝家が加勢する。

 しかも、その戦に帆船をもっていけば……。

「三好としては強大な火力を得られ──」

「大祝家は帆船の実戦データが取れる」

 小春の言葉を安吉がそう遮った。

 二人で見合わせるとニイッと笑った。


「それで決まりだ」 

 

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[一言] 酒やめたんじゃなかったのか・・・
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