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57話

「おはようございます。昨晩はよくお眠りになられましたかな」

 朝の10時ごろ、安吉は雲上館に赴いた。

「朝食もいただき、感謝しかありません」

 ヤジロウは安吉にそう伝えると深々と頭を下げた。

 その後、ザビエルが何やらヤジロウに伝えると続けて彼は口を開いた。

「お渡ししたいものがあるのですが、船まで共に来てくれませんか?」

 ヤジロウの言葉に安吉は微笑むと「承知」と快諾した。


 それから数十分としないうちに安吉は身支度を終え、雲上館を再度訪れた。

「少ないですが、護衛の者もともにしますが、よろしいですかな」

 安吉はそう言って尋ねると、ヤジロウは「わざわざありがとうございます」と答えた。

 護衛の兵を見て驚いたのはザビエルだった。

 屈強な男たち20名すべてが驚くほど長い火縄銃を備えている。

 みるからに精強であり、それはポルトガルの儀仗兵のようでもあった。

「では、参りましょう」

 安吉がそう言って微笑むと一向は坂道を下った。

 大山祇神社や雲上館は山の中腹にある。

 そこから港町まではまさしく絶景であった。

「é lindo(美しい)」

 思わずザビエルもそう声を漏らすほどの景色であった。

 港を一望できるそれは大三島の繁栄を見せつけるには十分であった。

「拙者の誇りです」

 安吉はそう自慢げに笑った。

 

 坂を下っていくと、市井の者たちも増えてきた。

 最初は見たこともない南蛮人に驚いていたが、次第に好奇心旺盛な者たちが近づいてきた。

 安吉は彼らにザビエルが遠い異国から来たとことを伝えると一人の男が「どれほど遠いのですか?!」と声を上げた。

 その問いに頭を抱えるザビエルとヤジロウを手で制すと安吉は「まっすぐで9000海里ほどだ!」と笑った。

 それを聞いて船に乗る者たちが「おぉ……」と歓声を上げた。

 およそ距離にして14000kmほど。

 彼らにとっては想像もつかない遠さであった。

「しかも、大きな島がたくさんあるからまっすぐは行けぬぞ! 3倍ほどあるではないだろうか」

 安吉の言葉に群衆は溜息を吐いた。

 もはやそこまで来ると想像もつかなかった。

 皆改めて世界の広さを実感していた。

「さて、参りましょう」

 気圧されて呆然とするザビエルを余所に安吉はそう言って促した。


 その後、ザビエルは安吉に見送られ、自らの船に乗った。

「なぜあのものはポルトと日本の距離を知っていたのか……」

 ザビエルはそう呟くと空を見上げた。

「警戒するべきかもしれない」

 彼にとって、大三島沖に錨泊していた風鳴丸だけでも驚きだというのに、それを上回る船を何隻も建造しているという事実を聞き恐怖すら感じていた。

 

 のちにザビエルはこの大三島と周辺に点在する水軍衆を指して次のように記したという。

「日の本一の海賊である村上。東洋一の海軍である大祝。この二つは非常に密接に協力しており、脅威となりうる」

 そして、国王に向けた文章にこのように書き足した。

「敵とするよりも味方とすべし」



 その頃、ザビエルを見送った安吉のもとにある男が訪れていた。

「殿、もう間もなく40門戦列艦が5隻進水致します」

 男は、嘉丸。

 安吉が主導する帆船建造計画の主要人物であった。

「わかった、建造が完了し次第続けて5隻建造せよ」

 安吉がそう命じると嘉丸は「承知」と答えた。

 大海原を眺めて安吉は心躍らせた。

「ようやく、外に出られるぞ」


 翌日、金細工師たちが大山祇神社を訪れ、時計の完成を報告した。

 振り子時計を港を管理する建物の中に設置させ、太陽が南中した時間に針を12時に合わせるとその時間を『大三島基準時』と定めた。

 同時に、航海訓練所を卒業したもの数名を配置し、毎日太陽が南中すると同時に時計を合わせさせた。

 以後、この時計を中心に大祝による航海政策がすすめられていく。



「皆の衆、いよいよこの時が来た」

 安吉は大山祇神社で評定を開くとそのように宣言した。

 今や彼に反対する者はいない。

 すべては彼の意のままである。

「新たに完成した帆船をこのように命名したいと思う」

 安吉はそう言うと、床に並べられた5枚の和紙を左から順に裏返していく。

「島風、神風、朝風、春風、松風」

 彼は一つ一つ読み上げる。

 それを聞いて紀忠はたまらず尋ねた。

「なぜ、その様な名に?」

 紀忠の問いに、安吉は小さく微笑むとこう答えた。

「風が如く、海上を駆けるべし」

 その言葉を聞いて皆が納得した。

 40門戦列艦。

 その大きさは安宅船を超えるが、安吉が言うには速度は安宅船の三倍もあるそうだ。

 おそらく、今後の大祝水軍において最速の船となるだろう。

「あぁそうだ。紀忠よ」

 安吉はふと思い出したかのように紀忠に声をかけた。

「我々の海上戦力のことを皆はなんと言っている?」

 彼の問いに紀忠は首を傾げた。

 今更確認するほどのことではないだろうと。

「水軍、若しくは水軍衆とでも呼んでおりまする」

 その言葉を聞いて安吉は「そうだな」と答える。

 彼は大きく息を吸うと、口を開いた。


「今後、われらは海軍を名乗る」



「何か、意味があったのか?」

 その夜、安吉は小春に疑問を吐露していた。

 正直彼にとって水軍だろうが海軍だろうか何も変わりはない。

 だが、小春が「かならず海軍と呼び名を変えろ」というので、それに従った。

「意識を変える必要があるんですよ」

 小春はお腹を撫でながらそう微笑んだ。

「今までの、古き体制を脱却し。新たな軍隊となったという自覚が必要なのです」

 彼女の言葉には重みがあった。

 そして、夜空を見上げるとつづけた。

「旦那様、これから大祝は大きな転換点を迎えます。いくつもの苦難が待ち受けるでしょう」

 小春は、安吉に視線を向けるとジッと見つめた。

「貴方様はその覚悟がありますか?」

 引き返すなら、今が最期だ。

 40門戦列艦もいまなら、廃艦することもできる。

 だが、そんなことできようはずもない。

 彼は歩み始めてしまったのだ。

 大いなる一歩へと。

 

 日本を抜け出す一歩を踏み出したのだ。


「あぁ、約束しよう。我が妻、我が子。そしてこの民を守り抜くと」


 安吉の宣言に、小春は小さく微笑んだ。

「信じておりまする」

 

これで、第1章の国内編は終了となります。

次回から瀬戸内海を飛び出して東シナ海や黄海がメインとなります。

その中でもしばしば国内の争乱が絡みつくややこしい展開取りますのでご期待ください!


更新するたびに誤字報告をしてくださっている皆さま、本当にありがとうございます。

本来なら謝礼でもお支払いしたいのですが、そうもいきませんのでこの場でお礼を述べさせていただきます。


追記


今後更新頻度が大きく低下するかもしれません。

どうかご容赦ください。


感想、レビュー等々心よりお待ちしております。

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