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34話

「……何かがおかしくないか」

 安吉は風鳴丸の船上でそう呟いていた。

 彼は白紙の紙を机の上に取り出すと、囲碁の駒を並べ始めた。

「敵は、目の前から奇襲を仕掛けた」

 一人でここまでの戦況を確認していく。

「我等はそれに対抗すべく、前方に兵力を集中している……」

 安吉はそう言って並べた駒を前方に集めた。

 上から俯瞰するとよくわかるが陣形がT字になっている。

「ッ! まさか!」

 安吉はそうバッと顔を上げ靄の奥に広がる水平線を睨んだ。

「やられた!」

 簡単な話だ。

 こちらの陣形を魚鱗、つまりは円形陣だとしよう。

 それが敵に攻撃をしている。

 後方に予備戦力を持つ指揮官ならこの状況をどうとらえるだろうか。

 靄がかかり魚鱗の衝撃力を活かせず前線は停滞している。

 まさかそこに追加兵力を投入するはずがない。

「軍令撤回! 横方向に半数の兵を展開させろ!」

 安吉はそう叫んだが、応じる兵はいない。

 まさか――。

「我等本隊、これより活路を――」 

 代わりに隆実から放たれた小舟に乗っていた兵が答えた。

 その言葉を聞いて安吉は思わず「愚か者!」と叫んだ。

 この状況はまずい、非常にまずい。

 前線に味方が集中し、安吉や紀忠の後備えとの距離が離れている。

 だが、迂闊に安吉が前進することも出来ない。

 何よりも情報が不足している。

「殿ォ! 敵が! 側面より!」

 気が付くのが遅かった。

 安吉はそう後悔した。

 もはやすでに前方で戦っている隆実とも連絡はとれない。

 見方を見捨てて撤退することなどできない。

「紀忠!」

 安吉はそう叫んだ。

 海鳴丸から「応!」という紀忠の声が返って来る。

「我等で敵を押しとどめるぞ!」

 その言葉を聞いて紀忠から「承知!」と嬉しそうな声が返ってきた。

 安吉は彼の言葉を聞いて苦笑いするとともに武辺者の頼もしさを実感した。

「砲戦用意! 風鳴丸の初陣じゃ!」

 安吉の言葉に兵と水夫たちは「オォッ!」と応じると持ち場に就いた。

 こうなった以上破れかぶれでもやるしかない。



「なんだあれは!」

 対して、利通は靄の奥に霞んで見える大祝軍の帆船を見て狼狽していた。

 彼が率いる軍勢2000のうち、安宅船は5艘あるが、そのどれよりもやや大型で、尚且つ3本の帆柱マストを備えている。

 さらにその後方には関船程度のの同型船が鎮座している

「大祝は南蛮と手を結んだのか」

 利通は信じられないといったような眼でそれを見ていた。

 大野家にも南蛮人の噂は伝わっており、商人から南蛮人の乗る船についての絵も見ていた。

「ッ! 皆の衆怯むなぁ! 所詮は2艘のみぞ!」

 利通はそう雄たけびを上げると軍配を振り下ろした。

 それに応じて、前進する配下の船たち。

「弓を射かけよ!」

 利通は堅実に距離を詰めさせる。

 相手を弓で牽制しながら接近すれば数の利を最大限に生かすことができる。


 刹那、敵の船が光ったかと思うと水面が弾けた。



「放てぇぃ!」

 敵が接近してくるを視認すると砲の準備をさせた安吉。

 そして、射程に入ると鋭く射撃を命じた。

 射撃の衝撃で船体が激しくローリング(横揺れ)する。

 だが、転覆することなどありはしない。

「次弾装填!」

 先ほどまでは激しく降り注いでいた矢もこちらの砲撃に驚いて止んでいる。

 直後、後方の海鳴丸からも轟音が響く。

 靄がかかってよくわからないが最低でも小早5艘はつぶしたはずだ。

「紅衆用意!」

 だが、敵の戦意も旺盛だ。

 砲撃で何隻か潰されてたものの、小早を先頭に靄の奥から続々と関船や安宅船が姿を現す。

「火縄、射撃用意!」

 安吉の命令に紅の直垂を身に纏った紅衆が右舷に並ぶ。

 その姿はまさしく近代銃兵であり、この時代には似つかわしくない者であった。

「放てぇ!」

 威嚇だろうと構わない。

 この帆船に手出しはできない。

 そう相手に思わせなければならない。

 安吉の命令に応じるように紅衆は一斉に引き金を引く。

 一瞬にして周囲は硝煙と敵の悲鳴に包み込まれる。

「右舷後方! 敵の小早が!」

 船尾からの声が響く。

 安吉がハッとそちらを向くと、ちょうど砲の死角から敵の小早が接近してきていた。

 また、側面からもやや遠くはあるものの、着実に敵は距離を詰めてきている。

「紅衆の半数は船尾へと迎え!」

 安吉がそう命令すると衛門衆の一人が素早く半数の紅衆をまとめ上げると船尾へと引き連れていった。

 帆船は、機動力では劣る。

 だが、代わりに水夫たちの数を抑えることができ、尚且つ船内構造に余裕があるため、攻撃力を大きく得ることができる。

 まさしく、海上の要塞と言える。

「右舷砲撃用意!」

 敵が再度砲の射程内に入ったことを確認すると安吉はそう命じた。

 一挙に船内があわただしくなる。

 砲兵が各々に目標を設定し、砲口を向ける。

「放てぇぃ!」

 直後、火縄銃の射撃とはくらべものにならないほどの轟音が響く。

 火薬により放たれた鉄球は敵の軍船を砕きながら、水面に突き刺さる。

 その破孔から時には浸水し、時には火災を起こす。

 仮に運よく生き残ったとしても、接舷することすら許されない。

「火縄銃、放て」

 一斉に浴びせられる無数の銃弾。

 まさしく、風鳴丸と海鳴丸は海に浮かぶ城塞として圧倒的な強さを誇示していた。



「馬鹿な……」

 利通はその光景を見て呆然としていた。

 目の前に広がる光景はまさしく虐殺といって過言ではなかった。

 いくら船を突入させようと、接近する前に砲撃によって破壊され、運良く近づいても銃撃を浴びせられる。

「あり得ぬ!! あり得ぬ!」

 大野利通が心血を注いで育てた兵たちはまるで嬲るように殺されて行き、わずか半刻(1時間)で2000のうち1500が戦死するという大損害を受けた。

「……殿。引き際にございまする」

 桂山幸田がそう利通に進言した。

 彼らの元には安宅船が2艘と、関船が3艘残るのみであった。

「なぜだ」

 利通は震える声でそう尋ねた。

「なぜ、優位に立っていたわれらがこうも簡単に負けなければならないのだ」

 気が付けば悔し涙があふれていた。

 策は完璧だったはずだ。

「殿、拙者に安宅船2艘と関船2艘を与えくださいませ」

 幸田はそう言った。

「――一体、何を」

 利通は震える声でそう尋ねた。

 幸田は静かに首を振ると口を開いた。

「拙者が時間を稼ぎまする。その間にお逃げくださいませ」

 その言葉を聞いて利通はふっと笑った。

「貴様だけにはいかせはせん、俺も――」

 その瞬間、幸田は太刀の柄で利通の鳩尾みぞおちをどついた。

 突然のことに、利通は気を失い、その場に倒れる。

 幸田は何も言わずに利通を背負った。

三治郎さんじろう、殿を頼むぞ」

 幸田はそういうと、息子の三治郎に利通を預けた。 

 彼は幸田の息子であり、今回の戦は初陣であった。

「父上! 拙者も! 三治郎も御供させてください!」

 三治郎の言葉に幸田は「愚か者!」と怒鳴った。

「殿を我等が主城までお守りいたすのがお主の役目ぞ! それを放棄することなど許さん!」

 三治郎は、幸田の言葉にビクリと肩を震わせた。

 普段は優しい父の突き放した言葉に涙すら浮かべている。

 これが今生の別れになると彼も理解しているようであった。

「承知……ッ! 高山城にて、ご帰還をお待ちしております!」

 三治郎はそう答えると自らの関船に戻っていき、靄の奥へと消えていった。

 幸田はそれを見送ると振り返った。

「すまぬが、うぬらの命。拙者が預かってもよろしいか」

 幸田の問いに、反論するものはいなかった。

 一同声を揃えて口にしたのは――。

「我等が命! もとより利通様に捧げておりまする! 幸田殿ならば信頼できまする!」

 そう言って皆平伏した。

 流石は、殿。

 幸田は心の中で自らの主君を褒めたたえていた。

「両舷前へ! 用意!」

 幸田がそう命令すると各船が前進の用意をする。

「前へ!」

 自らの主君を逃がすべく。

 幸田らは前進を開始した。


先日は申し訳ございませんでした。

プロット段階の作品を投稿するという凡ミスを犯してしまい、皆様に混乱させてしまいました。


さて、みなさま転生海賊物語はいかがでしょうか。

ようやく河野家との戦が始まり歴史が大きく動いて行こうかというところです。

どうか温かい目でお見守りください。


また、感想などいただけると「読んでいただいているんだなぁ」という実感が沸くのでどんな内容でも構いません、ぜひお願いいたします。

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[気になる点] 利通は三治郎に連れていかれたのと抑へるのとで2人ゐるのだらうか?
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