表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/131

30話

「河野を攻める?!」

 安吉の言葉に一同はざわついた。

 いま、大祝は目下の敵として大内を抱えている。

 そんな中河野を攻めることができるのだろうか。

「別に河野を滅ぼすわけではない。来島や河野の持つ諸島を征するだけだ」

 安吉は家臣を落ち着かせるようにそう言った。

「地の利は我等にあり!」

 家臣の一人がそう声を上げた。

 それに皆が同意する。

「そうだ! 我等には能島のつわものもついている! 負ける道理などない!」

 安吉の言葉を聞いて家臣たちはさらに意気を高くした。

「陣立ては後ほど伝える! 各々準備いたせ」

 安吉の命令に家臣たちは立ち上がると「応!」と答えた。



「……河野は盟友ぞ」

 評定の後、安吉を諫めたのは安舎であった。

 大祝が大内に攻められられたとき、大祝を救ったのは河野であった。

「河野が我等を救ったことなどございません」

 安吉は冷たくそう言い放った。

 河野は味方した。

 だが、味方するだけだ。

 先の戦にしても来たのは来島の軍勢であり、申し分ばかりの直臣がきただけだ。

「……。大祝家の本家は河野でもあるぞ」

 安舎の言葉に安吉は溜息を吐いた。

「そのような遠い縁を気にしていてはどの家も攻められますまい」

 安吉の言葉に安舎は目を見開いた。

 反論しようとするものの、言葉が続かない。

 安吉はすでに覚悟を決めている。

 そう察した安舎は諦めるように笑うと「わかった、好きにいたせ」と言うと、項垂れた。

「養父上、申し訳ございませぬ」

 安吉はそういうと、その場を去っていった。



「河野に、勝てるの?」

 その日の夜。

 安吉と小春はいつものように自室で語らいあっていた。

 京でのできごとや、安吉がいなかった間の出来事など。

 この日は話題が尽きなかった。

 だがそれ以上に河野攻めについての話題は非常に重要なものであった。

「瀬戸内守として、目の前にある島一つ配下に出来ずして何が守護だ」

 そういって安吉は酒を呷った。

 今回の戦は瀬戸内守安吉としての初めての戦だ。

 必ず成功させなければならない。

「来島はどうするの?」

 小春はそう悲しそうに言った。

 彼女と通康は面識がある。

「滅ぼす」

 安吉は即座にそう答えた。

 敵に情けをかければ侮られる。

 そうなれば瀬戸内支配も難航することになる。

「ッ……。どうにか、出来ないの?」

 小春の問いに安吉は溜息を吐いた。

「俺に、策を授けてくれ。俺には何もない」

 安吉はそういうとさらに酒を呷る。

 いつもよりも酒の進みが早い。

 小春はそれを心配しながら、も頭を回転させる。

「河野、来島……。うーん」

 彼女の中にある知識をすべて動員する。

 そして何とか言葉をひねり出した。

「来島に離反させて、それの保護を名目に――」

 小春の言葉に安吉は即座に言葉を返した。

「河野家家老の来島が簡単に寝返るとは思えない」

 安吉の言葉に小春はうっと言葉を詰まらせた。

 来島を裏切らせるための大義名分と利が必要だ。

「やはり滅ぼすしか――」

 小春から反論がないことをみて、安吉はそう言った。

 彼女ならば、安吉はそう思っていた。

 だが、思い過ごしであった。

「河野道宣の養父である通直は! 村上通康に家督を相続させようとしていた!」

 小春は、そう声を上げた。

 何を世迷言を。

 安吉はそう言いかけたがすんでのところで言葉を呑み込んだ。

 小春の目は真剣そのものだった。

「しかし、それに反対した家臣により隠居させられ、弟の道宣が家督を継ぎ通直の養子となったの」

 小春は少しずつ記憶から、情報を繋ぎだしていく。

 ゆっくり、ゆっくりと。

「でも、結局これにも反対した重臣たちは多く居て、謀反を起こしている。来島もこれに続くよい機会ではないかと毛利、大祝、能島村上家から働きかける」

 小春の言葉に安吉は感心した。

 よくもそんな知識量が――。

「だが、それでは寝返らんぞ」

 安吉はそう言った。

 結局三家から誘われようと河野への忠義を尽くす。

 なぜなら、通康の正室は河野通直の娘であるからだ。

 血縁が彼らを繋ぎとめる。

「うん。でも、通直は今年の5月に老木実家ろうきさねいえの謀反をそそのかしたとして斬首されるの」

 小春はそこまで言ってにやりと笑った。

 彼女が前世で積み上げてきた知識は無駄ではなかった。

「……真か」

 安吉はごくりと息をのむとそう言った。

 よくもまぁ、河野氏のことなど覚えていたものだと感心する。

 安吉の問いに小春は少し躊躇ったあと、表情を引き締めると口を開いた。


「真実よ」

 


「来島から、返答はないか」

 それから、数か月後のこと。

 時はすでに5月になった。

 あれから何度か来島に書状を送ったが、返答は一切ない。

 黙殺、と言ったところだろうか。

「うん。でもそのうちにでも鞍替えしたくなるはず」

 小春はそう言ってにやりと笑った。

 その直後、小姓の越智三郎が駆け込んできた。

「申し上げます! 河野家で動きが!」

 その言葉を待っていた。

「老木実家、ご謀反! その責を取り、河野通直が打ち首になりました!」

 その言葉を聞いて安吉は小春の方をバッとみた。

 信じてはいた。我が妻を。

 だが、まさか本当に言い当てるとはという動揺があった。

「さぁ。旦那様、ここから先は貴方様の領分ですよ」

 小春はそう言ってニコリと微笑む。

 安吉はそれに「応」と答えると鋭く三郎に命じる。

「今一度、来島に書状を送れ!」

 安吉の命令に三郎は「はい!」と応じるとその場を去っていった。

 小春は不安げに安吉を見つめると尋ねた。

「……死なないで」

 安吉はそれに無言で立ち上がると、小春に背を向けて言葉を返した。

「敵に殺されるようなヘマはしない」



「義父上が死んだか」

 来島城、通康の自室で彼は家老の弓削政明ゆげまさあきと酒を飲み交わしていた。

 政明は通康と同い年程度であり、若いころから苦難を共にしてきた戦友でもあった。

「老木め……。逸りおって」

 政明は一気に酒を呷ると杯を庭に向かって投げつけた。

 来島村上家と通直は深いつながりがあり、政明も若い頃に通直から恩を受けている。

「お父上は殺されたのです」

 そう言って現れたのは、通直の娘である律であった。

「……滅多なことを言うでない」

 通康はそういって律を諫める。

 だが、内心では理解していた。

 老木実家は昔から主君である道宣よりも通直に従っていた。

 今回、通直を処刑したのは通泰や実家らの通直派への宣戦布告であった。

「大祝や毛利、能島からも謀反の誘いが来ているそうではないですか」

 律はそう言って言葉をつづけた。

「……某も。もはや河野には――」

 律の言葉に政明は同意した。

 しかし、通康はそれに大声を張り上げた。

「我が家は老木とは違い河野家の家老だぞ!」

 その言葉に政明は怯むことなく言い返した。

「我等が先陣を切り通直様の仇を取りましょうぞ!」

 仇討、その言葉に通康の心は揺らいだ。

 ただ単に謀反を起こすのでは大義名分がないが、義父である通直の仇討となれば話は違う。

「……。少し、考えさせてくれ」

 通康はそういって頭を抱えると縁側に腰を下ろした。

 政明はそれに追い打ちをかけるように言葉を続けた。

「大祝安吉が瀬戸内守に任じられました。これに従うは道理にございます」

 道理、大義がそろった。

「……。律」

 通康は自らの妻に声をかけた。

 その声音は震えており、戸惑いの色が滲んでいた。

「お主の実家を裏切り、戦になるかもしれぬぞ」

 そう言った通康に律は静かに微笑むとこう答えた。

「私はもはや、来島の人間。それに私と河野を繋ぎとめる父上はもはや――」

 律の言葉を聞いて、通康はある決心を固めた。

 そして立ち上がると政明に命じた。


「我等来島は亡き通直殿の仇討をすべく、河野に反旗を翻す!」



どうも皆さまこんにちわ。

30話となります。

 

瀬戸内守の件について方々からご指摘を頂いており、自らの無学を恥じるばかりです……。

勉学に励み、今後はこのようなことがないようにしていきたいと思っております。



追記


今週から試験的に更新頻度を上げていきたいと思っております。

月曜、水曜、金曜、日曜の週4回更新と致します。

どうぞ、ご支援のほどよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ