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26話

「毛利家から使いですと?」

 大山祇神社、評定の間で安舎から書状を受け取った安吉は目を見開いた。

 つい先ほどまで戦をしていた相手からの使者ともなれば何か不穏な気配がする。

「今、戦力はいかほどか」

 安舎はそう尋ねた。

 その問いにある男が手を上げた。

 筆頭家老、越智隆実であった。

「安宅船が3艘、関船が5艘。小早が10艘にございまする」

 あまりに貧弱であった。

 能島村上家が総計200隻にも及ぶ軍船を保有している中、ほぼ同規模の家である大祝家がその一割ほどしか有していないというのは随分と小規模に過ぎる。

「加えて、帆船が1隻に紅衆が300にございまする」

 紀忠はそう言って付け加えた。

 さらに、武装は施していないが関船と同規模の帆船を1隻有している。

「帆船、帆船といつまでも言っておっては面倒じゃ。何か名はないのか」

 安舎はそう尋ねた。

 その問いに安吉は待っていたと言わんばかりにニヤリと笑うと、懐から一枚の紙を取り出した。

「『海鳴かいめい丸』と致しまする」

 その言葉に一同はどよめいた。

 口々に諸将が「良き名だ」と安吉の案を褒めたたえる。

「毛利と戦になることはないだろうが、各々備えを怠らぬように」

 安吉が声を低くしてそういうと「応!」と皆は応じた。



「毛利が来る」

 同時期、能島にも同様の知らせが来ていた。

 大祝家が評定にてその件を取り扱ったのに対し、武吉と隆重は極めて慎重であった。

 大内の名代として毛利が来るのか。

 それとも、毛利家が単独で来るのか。

 この差で饗応する態度も変わるというものだ。

「どうも、大内の名代ではなく。毛利が来るようだ」

 隆重はそう答えると額に手を当てた。

 狙いがわからない。

 どうやらこの報は来島や大祝にも伝えられているようで密談というわけでもなさそうだ。

「大内の派閥争いとも関係がありそうだな」

 主家である大内が混乱している中、あの毛利が動いている。

 ここに接点がないとは思えない。

「少なくとも我が家の威を誇示しても問題はあるまい」

 武吉はそう言って結論を出した。

 相手の意図がわからない以上、今まで戦ってきた相手としての対応をとる他にない。

「若衆を集め、情報収集させよ。加えて安宅船を3艘、関船を10艘、それに小早を30艘で出迎えてやれ」

 その軍勢は1800にも及ぶ。

 武吉の有する軍勢の2割にも満たないが、これだけで大三島の軍勢を超えていた。

「……戦でもないのによろしいのですか?」

 そう尋ねた隆重に武吉はにやりと笑う。

「これは試験でもある。どれだけ早く兵が集うかの」

 武吉の軍勢にも欠点はある。

 それは半農半士であることだ。

 平時は漁や農作業、若しくは貨物船の水夫として従事している者どもを戦時に徴集しているだけなのだ。

 故に平時にかかる維持費というのはそれほど多くない。

 逆に安吉は完全に常時兵士でいるため、維持費は高くつくものの、武吉の軍勢に比べ練度は非常に高い。

「毛利に見せつけるぞ」

 武吉の言葉に隆重は平伏した。

「承知仕りました」



 元久が彼らの元を訪れたのはそれから2週間後のことであった。

「久方ぶりですね」

 安吉と対面した元久は開口一番そう言って笑った。

 その顔を見た安吉は口をポカンと開けた。

「もしや、あの時の大将殿か」

 その言葉に家中がざわついた。

 まさかあの火計を仕掛けた張本人がわざわざ来るとは思っていなかった。

 中には立ち上がらんばかりの殺気を漂わせている者すらいる。

「控えよ!」

 その場を制したのは安舎であった。

「……はっ」

 最初に安舎の言葉に承服したのは安香信康であった。

 彼は大三島沖の北沖海戦で元久と安吉の決戦で共に戦っていた一人だ。

「して、我等の仇敵が何用だ」

 声音を低くして尋ねたのは紀忠であった。

 元久はそれを聞いてけらけらと笑うと表情を引き締め、単刀直入に切り出した。

「我等と手を結びませんか?」

「ッ! 何を!!」

 越智隆実はそう声を荒げた。

「殿! この場でこ奴を叩き切りましょう! 我等の街を、やしろを焼いておいて今になって手を結ぼうなどと虫が良すぎまするぞ!」

 そう声を荒げた隆実は立ち上がると太刀の柄に手をかけた。

 一同は彼に続くでもないが、どこか同意するような眼をしていた。

「隆実ェ! 控えよ!」

 安舎はそう怒鳴り上げると左手で隆実を殴り飛ばした。

 その光景に一同は唖然とするほかなかった。

「我が家の家老が失礼つかまつった」

 安舎はそういうと床に額を付け謝罪した。

「しかし、我等の心情も察していただきたい。我等は大内が、憎いのです」

 安吉は安舎に続きそう言った。

 彼は「大内が憎い」と強調していった。

 あくまであの戦は大祝と大内の戦だ。

 実際に攻め寄せたのは毛利であっても、音頭を取ったのは大内であるのだ

「然らば」

 元久はそういうと、太刀を鞘ごと引き抜くと自らの前に置いた。

「大祝の怨念に我等毛利は加勢致す。これを盟の証に、安芸で昨年造られた中でも最も良い出来の物でしょう」

 真っ先に反応したのは紀忠であった。

 安吉を見て物をねだる子犬のような眼をしている。

「そのような業物、館で眠らせるのはもったいなく。後の戦で手柄を上げたものに下賜してもかまいませぬかな?」

 安吉の問いに元久はニコリと笑い、「かまいませぬ」と答えた。

 それを聞いた家臣の反応は一様であった。

 ぜひとも得たいと闘志を燃やすもの。

 興味なさげに見守る者。

 大祝家の家臣団が多種多様なことをよく表していた。

「ではこちらも友好の証を送らせていただこう」

 安吉はそういうと、紀忠を手招きした。

 そして、耳元で指示を伝えると彼は目を見開いた。

「……本当にいいのか? あれは――」

 安吉はそれに「かまわん」と敢えて元久に聞こえるように答えた。

 いかにそれが価値のあるものなのかを相手に知らしめる。

 その意図がある。

「承知」

 紀忠はそう答えると頭を垂れ、評定の間を出ていった。

 その様子を元久は不思議そうに見ていた。

「一体なんですか?」

 元久の問いに安吉はニヤリと笑うと「我が家自慢の物ですよ」と答えた。


 それから少しすると紀忠が白い布に包まれた何かを手に抱えて評定の間に戻った

 彼は伊豆かに元久の前にそれを置くと、元いた場所に座りなおした。

「どうぞ、ご覧ください」

 安吉の言葉に元久はうなずくと恐る恐る包んでいた布をはがしていく。

 すると姿を現したのは火縄銃であった。

「おぉ……。これは何とも見事な」

 元久はそう呟くと手に取って各部を見て回る。

 その手つきはどこか手馴れており、銃口が安吉に向けられることも、引き金に指がかかることもなかった

「何処の火縄銃ですか?」

 元久の問い。

 どこを見ても製造した人間の刻印がないのを見て不思議に思ったのだろう。


「これは、我等大三島で作られた火縄銃でございまする」


 その言葉を聞いて元久は目を見開くとともに唸った。

「これを本当にいただいても?」

 元久の問いに安吉はニコリと微笑むと「かまいませんよ。我等には無用の長物ですから」と応じた

 


 その日の夜。

「本当にできるんだな?」

 小春と安吉は自室である方策について協議していた。

「今の生産力なら必ず」

 小春の言葉を聞いた安吉は小さくうなずくと神妙な面持ちになった。

 彼らが今協議しているのは火縄銃の大幅更新だ。

 結果として今まで生産していたものがすべて旧式となるため、処分がてら元久へと一丁渡した。

「倉庫で腐らせるくらいなら毛利に渡す、か」

 安吉のつぶやきに小春は「えぇ」と応じて、さらに言葉をつなげた。

「もう、毛利に渡したんだから。やるほかないよ」

 安吉は小さく唸ると、意を決して口を開いた。


「皆に伝えよ。我が家は新型火縄銃の生産を行い。紅衆、および銃兵はすべて甲冑の着用を禁ずる」


 


 


昨日、更新忘れて申し訳ございませんでした。

本当にすいません。

気を付けます。


感想、ブックマーク。首を長くしてお待ちしております。

もしよろしければご一筆お願いいたします。


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