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閑話 とある航海士の回想録

「同じ日本でも、500年違えばこうなるのか」

 思えば、この時代にきてもう十数年が経とうとしている。

 いや、正確に言えば戻ってきてか。

 確かに安吉には船丸として幼少期を過ごした記憶もある。

 そして、倒れている間に見た長い夢のことも。

「みんな元気にしているかなぁ」

 周りには誰もいない。

 安吉はいささか感傷的になっていた。



 現代日本において安吉は15にして船員になるべく、全国にあるうちの一つである館山海員学校に入学した。

 そして3年間、高校生として生活しながら厳しい寮生活を耐え、同時に船員としての知識を学んだ後、内航船という国内同士を結ぶ船の乗組員としてその業務に従事していた。

 そのまま、内航船員として彼は終わる運命にあった。


 だが、転機が訪れる。

 彼の勤めていた会社の親会社は日本三大海運会社の一つであり、たまたまそこから視察に来ていた船長の一人が安吉に目を付けたのだ。

「君、うちで作る新しい客船の一等航海士ファースト・オフィサーにならないか。船長キャプテンはもちろん私だ」

 その言葉に釣られ、彼は客船の一等航海士へと大抜擢されたのであった。

 


「悔いは……。無い」

 月夜を眺めながら酒を口に運ぶ。

 安吉はそう言って船長の顔を思い出した。

「あぁ。思えば兄上に似ていたかもな」

 そう言って安吉は武吉の顔と船長の顔を思い出して比べてみた。

 体格に優れ、豪快なその性格は確かに似ていた。

「実はどこかで血がつながっていたりして、な」

 安吉は誤魔化すようにそう笑った。

 自分たちがしていることは本当に正しいことなのか。

 バタフライエフェクトという言葉を聞いたことがある。

 ほんの小さな差異でも大きな影響となる場合がある。

「今更怖くなったの?」

 背後から突然そう声を掛けられた

「あぁ、恐ろしくなった」

 その声が誰かなど問うべくもない。

 ただ一人の妻の声がわからぬ男などいるはずがない。

「心を休める暇など無い」

 いつ、自分のぼろが出てしまうかわからない。

 未来の知識があると武吉に知られでもしたら?

 何が何でも彼はその知識を引き出そうとするだろう。

 いや、河野だろうが大内だろうが。

 友好的な関白でも。

「私にはどうなの?」

 小春は隣に座ると寂しそうに尋ねた。

「誰に聞かれているか解ったものじゃない」

 安吉は小春を諫めるように言った。

 すると彼女はくすりと笑った。

「ふふ、用心深いのね」

「臆病と言ってくれ」

 安吉はそう吐き捨てるように言うと小春の方に体重を預けた。

 傍から見れば会話の内容などイマイチつかめたものではないだろう。

「ねぇ、この海は誰の物?」

 小春は突然そう尋ねた。

 この大祝家の屋敷からは瀬戸内を一望することができる。

 彼女はまっすぐ、その瀬戸内海を見つめていた。

「万民の物、皆が平等の水平線だ」

 そう、海では皆が平等だ。

 貴賤なく、国籍も、人種も関係ない。

 僅かな規則ルールの元で皆が暮らしている。

「だが、今は違う」

 帆別銭と称し通行料を徴収する輩もいれば、通りかかる商船を襲っては生計を立てる不埒者もいる。


「俺は必ず、この海を平和なものにする。律令の元、平等な海を。俺が成し遂げる」

 

 何時になく、強気なその発言に小春は嬉しそうに笑うとこう答えた。

「期待しております、旦那様」


皆さま、突然の閑話と相成りました。

如何でしょうか。


平成から令和へと移ろいゆくこの時代。

安吉の志を再度確認すべくこのような話を投稿させていただきました。


なにか思うところがございましたら感想へとどうぞよろしくお願いいたします。

皆様の言葉が日々の励みになっております。


では、短いですが閑話はこの辺で失礼させていただきます。


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