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22話

「では、これを関白殿下の元へ」

 安吉はそう言って控えていた少年に手紙を手渡した。

 彼は安吉の小姓で大祝家家老の越智隆実が3男、越智三郎であった。

「よいか、三郎。必ず届けるのだぞ」

 安吉はそう念を押して三郎に言う。

 三郎は何度も何度もうなずくと「行ってまいりまする」といってその場を去っていった。

「そう悲しそうな顔をするでない」

 三郎の背後を見送る安吉の背後から安舎がそう声をかけた。

「何分、船旅を見送るのには慣れておりませんので」

 そういった安吉に安舎は呆れたような顔をするとため息を吐いた。

「これだから、村上の者は……」

 呆れる安舎をよそに、安吉は立ち上がった。

「何処に?」

 そう尋ねた安舎に安吉は「小春殿の元へまいりまする」と答える。

 安吉の返答を聞いた安舎はニカリと笑い、「夫婦の仲が良いようで何よりじゃ」と笑った。

 


「ふふ、随分と壮観なものね」

 街中を安吉と小春は二人で馬に跨りながら神社から港へと向かっていた。

 港では三郎を乗せた関船が今出航するところであった。

「落成式は来月よね?」

 今まであった安吉と小春の微妙な雰囲気というものは取り除かれている。

「兄上も呼ぶつもりだ」

 そういった安吉に小春は眉をひそめた。

「武吉様は余り好きじゃないのよね」

 小春の言葉に安吉はケラケラと嗤うと「兄上は人相がわるいからな」といった。

 武吉の風体はまさに海賊と言わんばかりの筋骨隆々の体に、堂々とした振る舞いだ。

 並大抵の女子ではそれに恐怖を抱くのも仕方ないだろう。

「兄上は豪快で俺は好きだぞ」

 そう言って得意げにする安吉に小春は呆れるようにため息を吐くと「どこまでもお人よしよね」と嘆いた。

 当の安吉はそんなこと聞こえていないようで、慣れない馬を必死に進めていく。

「関白殿下を始め2名の参議様と雲客(従五位以上)が3名様だ。大層豪華な物となるぞ」

 そう言って目を輝かせる安吉に小春は同意した。

 来月に控えた落成式のために準備を重ねて来た。

 神社の付近に宿街を形成させ、その中でもひときわ絢爛豪華な雲上館うんじょうのやかたには5ヶ月もの期間大工と装飾職人を全力投入し続けた。

 結果、大山祇神社に勝るとも劣らない大層立派な宿屋が完成した。

「小春がいなければどうにもならなかった」

 大山祇神社がある山の中腹から坂を下りながら安吉はそう呟いた。

 彼らの背後には件の雲上館がある。

 安吉だけだったら、落成式をこれほど大規模なものにするという発想すらなく、もっと静かな物であっただろう。

「安吉様がいなければ、私は死んでたわよ」

 対抗するように小春は頬を紅潮させながらそう言った。

 小春の言葉もまた事実であった。

 照れくさくて二人の空間に僅かな間が流れた。

 そして、一息つくと声を合わせてこういった。

「私たちだけじゃどうしようもなかった」

 そういった二人に長屋の建築を進める大工たちや町人たちが手を振る。

 微笑んで応じると、安吉はあたりを見渡して染み入るようにつぶやく。

「皆の協力が無ければどうにもならなかった」

 たとえ二人の転生者がいようと。

 歴史の流れはそう簡単に変わるものではない。

 すべては皆の力があってこそ。

「自惚れてはならぬな」

 そう言って笑った安吉に小春は体重を預けて「えぇ」と応じた。


 

「従一位関白殿下のおなぁぁりぃぃ!!」

 翌月の二十日。

 京の都の傍にある港で安吉は来賓を迎えていた。

 三郎から関白に届けられた書はそこから幾人かの来賓に伝えられ、こうして今日全員がこの場にそろった。

 関白を乗せた腰輿は30名ほどの警護が付き、安吉の前で静かに地に降りた。

「捧げ筒!」

 安吉は小春から教えられた現代風の号令を大声でかけると紅衆の者共が銃口を天に向け、胸の前で立てる。

 その姿はまさに現代の儀仗兵のようであった。

 安吉はその場に跪くと口上を述べる。

「拙者、常盤之介大祝安舎が子。大祝安吉にございまする。以後の大山祇神社までの船旅、拙者が船長を務めさせていただきまする」

 そういった安吉に関白、近衛前久は腰輿から降りた。

 前久の行動に警護の兵達はざわついたが、彼はそれを手で抑える。

「まこと、見事な儀仗兵じゃの。安吉とやら、歓迎ありがたし」

 そういった前久はやや頭を下げた。

 公家とは思えぬその行動に安吉は少々面を食らった。

 しかしすぐに気を取り戻すと、立ち上がり背後に振り替える。

 右手を払うと背後に横一列で並んでいた紅衆が左右に分かれていく。

 そして、彼らの間に帆船までの一筋の道が出来上がった。

「拙者にお続きくださいませ」

 そういった安吉に前久は静かに「承った」と答えると静かに安吉に続いた。

 こんな調子で残りの公家を帆船に迎える。

 

 全員の乗船が確認されると安吉は帆船の船尾にある操舵輪の前に立つ。

 そして紅衆を右舷に並ばせる。

「空砲用意!」

 そう叫んだ安吉。

 現在帆船は右舷を陸につけて係留されている。

 必然的に紅衆は地上側の中空に向って火縄銃を構える。

 陸にはこれまで公家衆を警護して来た兵達が何事かとこちらを眺めている。

 そして甲板の上には公家たちが紅衆を見つめる。

「離岸用意よし!」

 そんな状況の中、水夫がそう安吉に報告した。

 安吉は右手を高々と天に掲げ、振り下ろした。

 紅衆はそれに合わせて寸分の狂いもなく火縄銃の引き金を同時に引いた。

 直後、甲板上を爆音と硝煙が支配する。

 安吉はそれに気を取られることなく水夫たちに命令を出す。

「舫綱はなてぇぃ!」

 安吉の命令に水夫たちは素早く行動し、係留を解いた。

「ほら貝鳴らせ!」

 安吉がそういうと、帆が張られているマストの最上部の水夫がほら貝を鳴らした。

 呆然とする公家たち。

 彼らをよそに船は風を受け、加速していく。

 歴史を大きく変えることとなる京から大三島への大航海が始まった。



「……似ても似つかぬわ」

 その日の夜。

 甲板上にでて空を見上げる一人の男がいた。

 関白。近衛前久であった。

「関白殿下、お体を病みますよ」

 そう言って声をかけたのは安吉であった。

 お付きの者もつけずに船首からぼうっと空を見上げる前久は余りにも異質だった。

「夜空が綺麗ですね」

 安吉の言葉に前久は静かに頷く。

「この星々一つ一つが太陽のようなものなのだと思うとこの宇宙の広さを実感する」

 前久の言葉に安吉はうむうむと頷く。

 そしてあることに気が付きハッとした瞬間、その場に前久の姿はなかった。

「まさか、な」

 甲板上で一人残された安吉はそう静かに呟いた。

 

一週間ぶりです。

雪楽党でございまする。


さて、今回はいかがでしたでしょうか。

やや足早になったかもしれません。

どの程度の塩梅がよいか、もしよろしければ皆様のお声を聞きたいです。


もうそろそろでブックマークも1000に到達します。

本当にありがとうございます。

ですが、これからが本番だと意気込んでより一層励んでいきたいと思いますのでご支援のほどよろしくお願いします。


感想、常日頃からありがとうございます。

とても励みになっております。


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― 新着の感想 ―
[一言] 転生者多いな
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