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19話

「どうだ」

 安吉は嘉丸の元を訪れていた。

 そこには建造途中の帆船と、武吉から依頼されたいくつもの関船がある。

「初めてのことばかりで予定を逸しておりまするが、なんとかなりそうでございます」

 そう言った嘉丸に安吉は満足げに頷いた。

「嘉丸よ、これより大きい船を造るのは可能か?」

 安吉がそう尋ねると嘉丸は額に手を添えて唸った。

 現状、造船所のサイズとしてはまだまだ余裕があるのだが、技術面では不安が残る。

「難しい、というのが本音ですねぇ。そもそもこれ以上の大型船なんて何に使うんですかい?」

 安吉の問いに嘉丸はそう答えると、逆に尋ねた。

「南蛮ではもっと大きな船があるんだ」

 そう言った安吉は水平線を見つめた。

 この時代、すでに何隻かの南蛮船がこの日本に訪れているが、そのどれもが今建造中の帆船よりも大型だ。

 加えて本国ではそれより大型の軍船が活躍している。

「安宅船よりも大型の船ですかい?」

 嘉丸の問いに安吉はうなずいた。

 この時代の船舶に安吉は詳しくない。

 だが、近い将来かならず安宅船が小型船と呼ばれるような時代が来るはずだ。

「この船は関船程度だが、最終的には安宅船の二倍の大きさを持つ船を造りたいんだ」

 そう言った安吉の顔を見つめて嘉丸は溜息を吐いた。

「わかりやした。最善をつくしやす」

 嘉丸のその言葉に安吉は「あぁ、頼む」と応じた。



「随分と復興してきましたね」

 ある日の夜。安吉と小春は現状を確認していた。

「あぁ。船大工がたくさん来たおかげて街はにぎわってきていますね」

 安吉はそういうと、町に築かれた建物を記している図面を見つめた。

 そこには造船所を囲むように住宅街が形成され、その付近に大型の船着き場が建造されており、そこからまっすぐ大山祇神社に向かって大通りが敷かれている。

「そろそろ、他の分野にも手を付ける頃合いですかね?」

 そう尋ねた安吉に小春は「えぇ、そろそろですね」と応じた。

 現在大通りは閑散としており、生活に必要なものを販売する商店がわずかに立ち並ぶ程度だ。

「貿易の中継地点として、一大商業拠点にする予定でしたか」

「はい。そのためにまず商人たちに貸し出すための倉庫群と、旅館の建造を進めます」

 小春の説明に安吉はふむふむと頷く。

「なるべく安価なものを港の近くに、絢爛豪華なものを少数この大山祇神社の付近に建設しましょう」

 小春はそういうと、地図の各所を指さしていく。

 場所は有り余っているし、建材もある程度ある。

「前者はまだしも……。後者は何に使うんです?」

「この大山祇神社に参拝する大物商人や、公家を対象にしようかと」

 安吉はその返答を聞くとあることを思いついた。

「京とここを往復する定期便でも開設しましょうか」

 その提案に小春はハッとすると「その手がありましたね!」と声を荒げた。

「堺、京、大三島を往復しながら人や物を運ぶ……。そうしましょう!」

 そう言った小春は地図を取り出すと食い入るように目を通していく。

 うん、うん。と小さく声に出しながら確認していくがあることに気が付いた。

「しかし、安宅船や関船では厳しいでしょうね……」

 いま、安宅船や関船には客人をもてなすような設備はない。

 しかも、軍船特有の武骨な造りになっており、公家を接待するには些か問題がある。

「うーん」

 小春が唸っているのを見て、安吉は不思議そうに尋ねた。

「帆船じゃだめなのですか?」

 そう尋ねた安吉に小春は「技術習得するのに二年はかかるとかおっしゃってませんでしたか?」と尋ねてきた。

「確かに訓練は2年の予定ですけど……。訓練も兼ねて航海すればよいのでは?」

 そう言った安吉に小春は目を点にしていた。

 そして、「あー!」と声を上げた。

「そんなことにも気が付かないなんて」

 小春は少しばかり恥ずかしそうに笑う。

「京とここの間なら適度に難所もあり、よい訓練になるかと思います」

 安吉に小春はうんうんと頷くと「どの程度で就役できそうですか?」と尋ねた。

「うーん」と安吉は唸ると「半年後に建造が終わるので……。それから半年もあれば」と答えた。

 とにかく半年もあれば最低限の技能は備えているだろう。

 それからはゆっくりと各種知識を落とし込んでいけばいい。

「では、なるべく早く就航をお願いします。あと、迎賓用の各種居室の再設計を……」

 そう言った小春に安吉は「迎賓用の居室はありますよ」と答えた。

 小春はそれに驚いた。

 だが、安吉としてはこの運用こそ本来の目的と言っても過言ではなかった。

 現代日本において帆船というのは練習船としての側面と、親善外交という二つの側面を持っている。

 故に、この時代でもそのようにして使う予定であったのだ。

「しかし、装飾品の用意は全くできていないので……」

 安吉の言葉に小春は溜息を吐いた。

 結局結論は元に戻る。

「細工師を招聘するしかなさそうですね」


 結局、何人かの人間を京や堺に派遣し、細工技師を招くこととなった。

 それから数週間後、安宅船2隻を中心に船団が形成され京へと旅立っていった。

 天文16年(1547年)5月1日のことであった。



 能島城のある一角。

 月夜を眺めながら、武吉と隆重は酒を酌み交わしていた。

「さて、安吉はどうしてるんですか?」

 武吉は酒を一気に飲み干すと隆重に尋ねた。

「どうやら帆船を建造しているようだ」

 隆重はそういうと、武吉とは違い少しずつ口に酒を運ぶ。

 隆重の元には安吉に関する情報が無数に入ってきている。

 その中には、帆船の情報もあった。

「今は関船程度だが、いずれ安宅船を超えるそうだ」

 隆重の言葉に武吉は笑った。

「そんなもの、何に使うというんですか」

 武吉は隆重の冗談だと思っていた。

 彼にとって安吉というのは実の弟でありながら、特に秀でたところのない人物だと思っていた。

 むしろ、若くして嶋家を継いだ貞道の方がよっぽど有能だと思っている節がある。

「事実だ。いずれ琉球にでも行くのではないか?」

 隆重はそう忌々しげに言った。

 村上家の活動範囲は瀬戸内の西半分だ。

 このほぼ全ては村上家の勢力が及ぶ圏内と言ってもよい。

 だが、そこを出れば村上家の兵や威光の通用しない大海原が広がっている。

「近頃は宗氏が筑前や肥前へ食指を伸ばし始めているようであるし、安吉も同じことを考えているのでは?」

 そう言った隆重に武吉は「ふぅん」と興味なさげに行った。

 大祝家がどう動こうと、村上家が落ちぶれるわけでもない。

 むしろ一門のつながりがある大祝家が栄えることは好ましくすらある。

「して、安吉が造った船はどうだ?」

 武吉の問いに隆重は「真、見事ですよ」と応じた。

 安吉が大三島で建造した各種軍船は均一化された建造計画によって建造された代物で、建造のミスが全くない。


「……警戒すべきか?」


 武吉はそう呟いた。

皆さまこんばんは。雪楽党です。

前作に比べ皆様の反応が薄くて、正直困惑しております。

面白いのか、面白くないのか……。

出来れば感想で一言いただけると幸いです。

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