表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/131

16話

「この度の援軍、誠に感謝仕る」

 前の戦から数週間。

 戦後処理を終えた毛利家は元久を正式な使者として大三島に送り込んでいた。

「なんの。毛利殿の窮地とあらば」

 家臣たちを前に安吉は普段よりもかしこまった言葉を使う。

「時に、大祝家の武功一等はどちらに?」

「光秀には今、休暇をとらせておりましてな」

 安吉の言葉を聞いて元久はほんの一瞬動揺した。

 光秀、確かにその名前に反応した。

「……、承知仕った」

 少し残念そうな表情を浮かべる元久に安吉は内心笑みを浮かべる。

 あれだけの戦いぶりを毛利家の前ですれば、当然毛利家は獲りに来る。

 大祝家よりも良い条件を整えて、家臣団に迎えようとするだろう。

「ところで、元久殿」

 目の前にいる元久をスッと見つめて、安吉はそう声をかけた。

 シンと静まり返った本殿に、安吉の声が響く。


「上洛はいつなされる」



 そのころ、尾張では

「今川の軍勢8000余が三河に侵入しておりまする!」

「知多半島の諸将が反乱の由! 今川水軍が次々に援軍に駆けつけておりまする!」

 次々と舞い込んでくる報告。

 尾張は今まさに戦乱の渦に巻き込まれようとしていた。

 北方の斎藤家は兵力の増強を続け、西の三好はいまだ圧倒的力を持つ。

 さらに問題は東の今川家であった。

 父代より争い続けてきた仇敵が代替わりを狙って攻め込んできたのであった。

 織田家の当主たる信長は未だ家中の掌握がまるでできていない。

 ゆえに、今まで織田家の水軍を任せていた知多半島で反乱がおきる。

 ゆえに、今まで抑えていた三河西部を失陥した。

 ゆえに、同盟相手であるはずの斎藤家が圧力をかけてくる。

「静まらぬかァ……。うるさくて湯漬けも食えぬわ」

 うつけ者がそう、吐き捨てた。


「殿、三河西部を守られる信広様が退却のご許可をと」

 突然、色白で病的にまで痩せた男が姿を現した。

「何故だ」

「知多半島より背後を遮断されつつありとのことです」

 その言葉を聞いて信長はニイッと笑った。

「時ぞ今」

 彼はそうつぶやくと、その男の名を呼んだ。

「半兵衛ェ! 急ぎ大三島に使いを送れ! 『約束を果たしてもらう』とな!」

「御意」

 男はそう答えた。

 


「ねぇ。旦那様」

 小春と安吉は、いつものように自室で肩を並べていた。

「宜蘭、どうするおつもり?」

 その言葉に安吉は唇を噛み締めた。

 台湾の倭寇を始末したのはいいものの、対馬や五島列島にはその残党が数多く残っている。

 ひとまずはそれを平定するのが目標となっていた。

「だが、三好に動かれては仕方ないだろ……」

「能動的に動けばいいじゃないのよ」

 小春の言葉に安吉は眉をひそめた。

「小春殿の知識が活かせなくなったとしても?」

 その言葉に小春は笑みを浮かべた。

「もうすでに歴史は変わってる。十分役に立ってるじゃない」

 自信満々に答える彼女に、安吉は不安を覚えた。

 強がっているのは目に見えて明らかだった。

 子育て、女中たちの管理。

 さらには大祝家の内政や軍事面など多岐にわたって安吉を支える小春。

「……悪いな。あと十数年でこの戦乱を終わらせる」

「強気に出たわね」

 嬉しそうに笑う小春。

 それを他所に安吉は固い決意を決めていた。

「2正面作戦だ」



 7月末頃。

 織田家からの使者が大三島に到来。

 帆船による援軍を要請。

「神風を旗艦に合計7隻の40門戦列艦を派兵する」

 安吉は使者にそう答えると翌日には艦隊が大三島を立った。

 艦隊司令として大祝安吉が就くと、旗艦神風を座乗艦とし一路尾張へと向かった。

 さらにその翌日には堀田紀忠が指揮を執り台湾へ3隻の40門戦列艦が出港した。

 この瞬間、紀忠麾下の帆船艦隊は安吉の手元を離れた。

 また、この艦隊には紀忠の提案で5隻の商用帆船を伴っている。


 安吉は、尾張に向かう道中、日本近海の地図を見て笑みを浮かべた。

「さぁ、大戦争を始めよう」


 

 1552年8月1日。

 大祝安吉、熱田入港。

 その異様な艦隊は周辺諸将を驚愕させた。

 噂には聞いていた南蛮船を上回るほどの巨艦。

 それを前に知多半島の水軍も思わず手だしすることができなかった。

「大祝安吉。友邦織田家の援軍に参った次第にて」

 安吉が織田家の援軍に来たことにより、知多半島で反乱を起こした諸勢力は今川家から援軍を受けることができなくなった。

 戦国時代に、制海権という概念ができつつあった。

 安吉は熱田及び織田家の港湾に数隻の帆船を置くだけで、尾張近辺の制海権を掌握して見せたのであった。

 上洛を目指していた今川家。

 周辺の諸大名はこのまま織田家を下し三好と激突すると思っていた。

 だが、突如現れた大祝海軍。

 彼らによって碁盤は反転させられた。

 うろたえる今川家を他所に、織田信長は尾張を平定。

 また、三河西部に迫っていた今川の軍勢を竹中半兵衛の謀略にて撃退する。

 

 織田家が歴史の表舞台に躍り出た瞬間であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ