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15話

 三好長逸、芦田川にて大敗す。

 その報は畿内を駆け巡った。

 三好家としては六角義賢の討ち死にをはじめ、力をもった家臣団の弱体化に成功した。

 ただ、予想外のことも起き始めていた。

 それが勢力の境にいた国人衆たちの離反であった。

 長慶からすれば不要な家臣の口減らしといったところであったが、他国が見ればそれは違った。

 浅井・六角・北畠など今まで大名として名をはせていた彼らは三好家の精鋭で、

 それをいともたやすく撃退して見せた毛利は救世主のような存在であった。

「長逸めが! よくもやってくれたな!!」

 それをいち早く察知した長慶は長逸を呼び寄せると叱責した。

 その場にいるのは三好家の一門衆。

 外部に養子にでた安宅冬康や河野冬長も集まっており、三好家の首脳が勢ぞろいだった。

 

 ──。そのばで、長慶は長逸を叱責した。

 年長者である長逸は一門の中でも高い地位にあった。

 だが、それを若い冬康や冬長の前でやってしまった。

 その意味は、あまりにも大きかった。



「殿、折り入っての話とは何事でございまするか」

 そのころ、安吉は光秀を大山祇神社の本殿に呼んでいた。

「お主、一人でここに来たな。妻子はおらんのか」

 疑問の表情を浮かべる光秀に安吉はそう尋ねた。

 安吉の問いに光秀は懐かしそうに笑みを浮かべた。

「美濃に……。許嫁が」

「連れてこんのか」

「主家の取り決めによって決められた婚約故」

 光秀は寂しそうに笑う。

 土岐家によって明智光秀の婚約は決められていた。

 だが、土岐家がなくなってしまえばそれを守る道理もない。

「なるほど、な」

 安吉は彼の言葉を聞いてうんうんと頷いていた。

 小春から聞いていた話と相違ない。

 そして歴史から読み解かれる彼の人物像は──。

「ならば少し暇をやろう。8月1日、貴様に海鳴丸の1室を用意しとく。京でも美濃でも好きに行くがよい」

 安吉の言葉に光秀は目を丸くした。

 呆然とする光秀を安吉は「はよう行かんか!」と叱責すると、彼は慌てたように「失礼仕ります!」と答えて本殿を後にした。

「……あれでよいのか?」

「えぇ。完璧ですよ」

 小春の言葉を聞いて小さく溜息を吐く安吉。

「あの光秀が愛妻家。ねぇ」

 安吉はそう微笑ましそうに笑う。

 歴史では知将として名をはせるあの明智光秀が愛妻家。

「人とは意外だな」

「でもいいんですか? 三好が来るかもしれませんよ」

 今や光秀は大祝家にとってなくてはならない武将になりつつある。

「大丈夫だ。光秀一人いない程度で揺らぐほど貧弱じゃない」

 安吉は自信に満ちた表情でそう答えた。

「よっぽど、紀忠様を信頼されてるのですね」

「あぁ。俺の右腕だ」

 その言葉を聞いて小春はクスクスと楽しそうに笑う。

「時に、小春殿。この後我等は何をすればよいか」

 安吉は真剣な表情になると小春にそう尋ねた。

 毛利と協力して三好を打ち負かしたのはいい。

 だが、そのあとは何も考えていなかったのだ。

「毛利に天下を取らせるべく、動くべきですね」

「……安宅を叩くか」

 安吉の返答に小春は驚いたような表情を浮かべる。

「旦那様も大分わかってきましたね」

 嬉しそうな彼女を他所に、安吉は困ったような笑みを浮かべる。

 三好家の隆盛を支えているのはひとえに安宅氏あってこそといえる。

 四国と畿内を結ぶ淡路島の有力者であり、逆に行ってしまえば制海権を握ってしまえば、三好は弱体化する。

「安宅を粉砕し、河野を分離。河野を叩くか」

 安吉は簡単そうに言うが、言うは易く行うは難し。

 そもそも安宅家は船の数でいえば能島村上家に匹敵するほどの戦力を持つ。

 兵の練度でいえば大きく劣るものの、大祝家が太刀打ちできる相手ではなかった。

「どうやって安宅を叩けばいい?」

 安吉の問いに小春はニコリとほほ笑む。

 すると、こう答えた。


「叩く必要なんてございませんよ。行動不能にしてしまえばいいのです」


 

 1552年7月中旬。

 そのころ、尾張でも動きがあった。

「兄上……。なぜ、です」

 織田信長により、織田信行が暗殺された。

 家督相続からわずか3か月にして、信長は対抗しうる一門の削り取りにかかっていた。

「悪いな、信行。俺は天下を取らねばならんらしい」

 弟を切った信長はそう冷酷に告げた。

「……。これでよいのだな?」

 信長は背後にいる青年に尋ねた。

 彼こそが、信長の歴史を狂わせた張本人。

 信行暗殺を6年も早めた男であった。

「えぇ。さすがは、第六天魔王様」

「ふん、また。未来とやらか」

 青年の言葉に信長は不満そうに答える。

「貴様がもっと早く来ておればな」

 信長はそう苛立ちとともに答える。

 そして周囲の者たちに「行くぞ!」と声を上げるとその場を去って行ってしまった。

 残された青年は一人で静かに笑みを浮かべる。


「それでは、私があのお方に仕えることができないではないですか」


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