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10話

「順調。すべては順調」

 安吉は自室で一人夜空を見上げていた。

 毛利家を担ぎ、天下を担わせる。

 朝廷への工作も忘れずに行っている。

「まさか、こんな日がくるなんてな」

 一介の地方海賊に生まれた病弱な次男坊。

 それが、未来の知識があるというだけでここまで上り詰めた。

 天下の趨勢を背後から操れるほどにまで。

「そういえば、兄上はどう動くかな」

 安吉はそうため息をこぼす。

 瀬戸内海の絶対的支配者である能島村上家。

 村上武吉が瀬戸内守となったことにより、その力はより大きくなった。

 瀬戸内海西方では他家の増長を許さず、東方では安宅家と壮絶な軍拡競争を続けている。

 いくら大祝家が誇る帆船艦隊があろうと、能島村上家を相手取るのは不可能に近い。

「……。話を付けに行くか」

 彼は静かに立ち上がると、何名かの小姓を呼び、小早を出させるように命じたのであった。



「兄上、お久しゅうございます」

 翌朝、安吉は小早で能島に乗り付けると、武吉と面会を行っていた。

「ふん、よくもあの警戒線を搔い潜ったものだ」

 能島周辺には厳重な警戒態勢が敷かれている。

 普通の帆船を使えばいとも容易く発見されるだろう。

「少しは驚かれましたか? 瀬戸内守様」

 そう恭しく首を垂れる安吉に武吉は満足気な笑みを浮かべる。

「官位というのも悪くないな。誰もがたやすく膝を付きよるわ」

 その言葉を聞いて安吉は内心ほっとした。

 鎮海公方隷下の瀬戸内守。

 三好の権威のもと、実行者である武吉が瀬戸内海の海賊を……──。


 そこまで考えたところで安吉は硬直した。

 今現状、武吉は三好の権威に甘んじている。

 この状況で毛利が三好と一戦交えるとなれば、武吉はどちらにつくだろうか。

 もしかすれば、もしかするかもしれない。

「時に兄上。毛利と三好がきな臭く……」

 その言葉に武吉はニイッと笑った。

「我らが力を示すときか」

 その言葉を聞いた瞬間、冷や汗が流れるのを感じた。

 もはや武吉は三好配下の武将に甘んじる気ではないのかと。

 そうなれば、毛利家と組する大祝海軍だけで、三好・能島連合水軍を倒さねばならないのかと。

 そんな事態は避けたい。避けねばならなかった。

「兄上、大祝家は毛利に援軍を出そうかと思いまする」

 安吉の言葉を聞いた瞬間、武吉は表情を曇らせた。

 そしてほんの少し天を見上げると、スッと安吉に視線を移した。

「その心は」

「ははっ。まず一つ。我等、大祝家は毛利家と同盟を結んでおるゆえに」

 その言葉を聞いた武吉は唸る。

「とすると、大友・毛利・大祝の3家で三好に対抗しようと」

 彼の問いに安吉は「いかにも」と自信をもって答える。

「戦はいつだ?」

「7月に来るとの由」

 安吉の言葉を聞いて武吉は表情をゆがめた。

 なぜだろうかと首をかしげる安吉を他所に、武吉は鋭い声でこう応じた。

「重臣どもを呼べ! 安吉、苦労であった」

 その言葉は能島村上家の評定が開かれるということであった。

 武吉の命に安吉は静かに「承知」と答えると、彼の前から去っていた。

 もはや、安吉は能島村上家の人間ではない。

 評定に参加する資格など、なかったのだ。



 そのころ、毛利家では急ぎ戦の準備が進められていた。

 三好家が余った将を減らすための戦を仕掛けているということはわかっている。

 だが、毛利家にとっては単なる戦ではなかった。

「三好反抗の一石とすべし!」

 各地で苦戦を続ける三好家だが、万と万の軍勢がぶつかるような戦では十数年連勝を続けている。

 諸勢力が、積極的な攻勢に出られないのはこのためであった。

 元就の号令をもとに、家臣たちは募兵を強化し、己が武芸を磨くのであった。

 その中で、異質なものが、一人。

「はなぁてぇ!」

 野原を颯爽と駆け抜ける騎馬隊。

 その先頭を行くのは毛利元久。

 背後に続くは10騎ばかりの騎兵。

 だが、そのすべてが火縄銃を有していた。

 しかしそれは、大祝家が造る物の半分程度の長さでしかなかった。

 騎兵銃。明らかにそれは未来の思想であった。

 この時代、馬にまたがって銃を放つというのは不可能に近かった。

 十数年後には伊達家が何とか銃騎兵隊をなんとか物にするまで待たねばならない。

 しかもそれですらこのように走りながら撃つのではなく、静止して射撃し、騎兵の機動力を生かして側面に展開するという趣旨の方が強かった。

 原因はただ一つ、あまりにも長すぎる銃身と手間のかかる装填であった。

 元久はこれを銃身を短くすることで対応した。

 その分、装填にかかる時間も短くなるし、取り回しも用意になる。

「抜刀!」

 元久はそう叫ぶと太刀を振りぬいた。

 騎兵たちもそれに続き、荷車を模した藁束を切り付けていく。

 その姿を一人の男が見守っていた。

 毛利元就。

 彼は唯一、この部隊の創設に賛成した男であった。

 駆け抜けていく元久の隊を見守って元就は満足そうにつぶやいた。

「三好め……今に見ていろ」


 この男に、策あり。

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