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51話

「おかりなさいませ、旦那様」

 信長に連れられて、光秀と共に那古野城に戻ると一人の女性が一行向を出迎えた。

「帰蝶か、出迎えご苦労」

 そう言う信長に帰蝶は目を細めると「どなたですか」と尋ねた。

 帰蝶の問いに、信長は安吉へ視線を向ける。

「大祝家が当主、大祝安吉にございまする」

 安吉の言葉に帰蝶は「ふぅん」と興味なさそうな表情を浮かべた。

「瀬戸内の大名殿であるぞ」

 信長の言葉に帰蝶は「そのような方が何故こちらに?」とぶっきらぼうに尋ねた。

 その問いに安吉は微笑むと、信長に伝えたことをそのまま彼女にも伝えた。

「金。ですか」

 安吉の言葉を聞き終えた後、帰蝶は少しばかり興味がわいたような表情をしていた。

「如何ですか?」

 笑みを浮かべる安吉に帰蝶は小さくため息を吐くと信長を手招きした。

 それに、信長は困ったような表情を浮かべながら近づくと帰蝶が何やら信長に耳元でささやく。

「それは……」

「何もせずに、金の売買を行わせるのですか?」

 どうやら何か策を練っているらしい。

 帰蝶の言葉を聞いて信長は意を決したような表情を浮かべると、安吉にこう告げた。


「今川との戦にご助力願いたい。それが条件だ」

 

 信長の言葉に安吉は快く了承した。

 その後、一向は那古野城内部に連れられると食を共にしながら事の細事を決めた。



「いやはや、明智殿には助けられた」

 那古野城から熱海への道中で安吉は光秀にそう笑った。

「拙者は何も」

「明智殿がいなければ織田と戦になっていたかもしれない」

 そう言って苦笑いを浮かべる安吉。

 まさか、織田が水軍で待ち構えているとは思っていなかった。

 偶然とはいえ、光秀を連れていてよかったと心底感じていた。

「それで、鉄砲なのですが……」

 光秀はやや気まずそうにそう言った。

 彼の言葉に「覚えていたか」と安吉は笑みを浮かべる。

「大三島について来い、工房をみせてやる」

 安吉はそう言ってニヤッと笑った。



「と、言うわけだ」

 それから1週間後。

 時は既に6月中頃であった。

 大三島に戻った安吉は光秀と共に小春へ事の次第を伝えていた。

「明智光秀にございまする」

 そう言って首を垂れる光秀に小春は驚いたような表情を浮かべる。

「明智。美濃の明智城の城主ですね?」

 小春の問いに光秀は「よくご存じで」と驚いた。

 光秀の言葉に小春はニコリと微笑む。

「工房だが、見せられるものと見せられぬものがある」

 安吉がそう告げると光秀は慌てた。

「拙者は間者などではございませぬ! すべて見せろとは申しませぬ」

 彼の言葉に安吉は「解っておる」と苦笑いを浮かべると光秀に一度宿へ戻るように伝えた。

 光秀はそれに頷くと失礼しまする。と言い残してその場を去っていった。

「まさか、光秀を連れて来るとは思いませんでしたよ」

 彼がいなくなったことを確認すると小春は肩をなでおろした。

「まずかったか?」

「いえ、逆です」

 安吉の問いに小春はそう答えた。

 というのも、ある理由があった。

「あと数年で道三が死に、彼は諸国を流浪します」

 その言葉を聞いて安吉はニヤッと笑った。

「家で雇うと?」

「機会があれば」

 小春の言葉に安吉は「大丈夫なのか」と尋ねた。

 あの謀反人と有名な明智光秀だ。

 いつ謀反を起こされるか。

「大丈夫です。適切に舵を取れば何の問題もありません。得意でしょう?」

 そう得意げに笑う小春に安吉はため息を吐いた。


「せいぜい気張るとしよう」



「お待たせした」

 昼頃、安吉は2頭の馬を引き連れて光秀の泊まる宿を訪れた。

 そこは雲上館。近衛前久など公家が宿泊する場所であった。

「聊か、拙者は浮いておりませぬか」

 困ったような顔でそう笑う光秀に「今すぐにでも宿を変えるか?」と笑う。

「いやいや! 構いませぬ。寧ろ光栄でございまする」

 そう言って首を垂れる光秀に安吉は笑い声をあげると馬に飛び乗った。

 光秀もそれに倣い、安吉が連れていたもう一頭の馬に飛び乗る。

「大祝様、この島は栄えておりますね」

 鉄砲鍛冶に向かい、馬を歩かせながら光秀は安吉にそう伝えた。

 彼の言葉に安吉は嬉しそうに笑った。

「西の京と言う公家衆もいるそうだ」

 その言葉に光秀は驚いた。

「美濃もこのような豊かな街が欲しゅうございまする」

 光秀の言葉に安吉は「美濃、美濃か」と呟いた。

 この大三島が栄えているのは一重に造船業がその大部分を担っている。

 各地から大量の船大工を移住させ、1隻船が出来れば休む間もなく次の船の建造を始める。

 その為には膨大な量の資材と食料が必要になる。

 当然これを機会捉えた堺の商人たちが大三島を訪れる。

 その中には当然、豪商たちも含まれる。

 彼らを出迎えるために豪勢な宿を作る。

 次第に観光目的で大三島を訪れる公家も増える。

「美濃は難しいな」

 安吉はそう言って笑った。

「何故でございまするか」

 光秀は少しムッとしたようにそう尋ねた。

 その問いに安吉は微笑むと「海が無い」と笑った。

 この大三島が公家衆の観光地として成り立っているのも、商人たちが訪れるのも。

 その全ては村上海賊の一門である安吉がその安全を保障しているからであった。

「何か一つ、特産品を造るといい」

 安吉はそう告げた。

「手広くあれこれとやるのではなく、日ノ本1の特産品を1つ持て。それで大分変わる」

 その言葉に光秀は唸った。

 あれこれと呟いて思案しているようだ。

「文を貰えれば相談に乗ろう」

 安吉の言葉に光秀は「かたじけない」と答えた。

 今後の時代は、銭がすべてだ。

 それを手に入れるために各領主たちは経済の発展を目論むだろう。

 先に一歩抜きんでたものが覇権を手にする。

「ここだ」

 安吉はそう告げると、馬から降りた。

 そこには塀に囲まれた大きな長屋があった。

「入るぞ!」

 安吉がそう声を上げると「おう!」と中から声が返って来る。

 そして足を踏み入れる安吉。

 彼に続いて光秀も中へと入り込む。


「これは……?!」

 

 その光景を見た光秀は絶句した。

 

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