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41話

「殿ォ!!」

 銃声が響いたかと思えば、紅衆の一人が安吉に覆いかぶさった。

 彼は一瞬何が起きているのか理解できなかった。 

 だが、その直後に自らへ覆いかぶさった男が苦悶の表情を浮かべているのを見てハッとした。

「おい! 何が起きた!」

 安吉はそう叫んだ。

「敵の鉄砲衆にございまする!!」

 その言葉を聞いて安吉は「やられた」と叫んだ。

 ハッとした彼はすぐに「伏せろ!」と命じる。

 呆然と崖の上に立っていてもしょうがない。

 崖の縁から顔を出して敵を見るとそこには100程の鉄砲衆がいる。

「兎に角隠れろ!」

 安吉はそう叫ぶと、自らを庇った紅衆の男に声をかけた。

「源三郎じゃないか。愚か者め」

 彼はそう言ってニイッと笑う。 

 それに源三郎は「殿をお助けでき、光栄でございまする……」と弱弱しい声で答えた。

「ここで死んでもらっては困る。貴様は大事な戦力だぞ?」

 安吉はそう言って源三郎を勇気づけようとする。

 彼の言葉に源三郎は首を振った。

「うなじに……銃撃を喰らいました。生きられぬのは……解っております」

 源三郎はそう言って笑みを浮かべる。

 彼の言う通り首の裏からはどくどくと血が流れだしている。

 恐らく、助けるのは無理だろう。

「殿……。拙者は何かお役に立てましたか……?」

 源三郎はそう言って手を伸ばす。

 彼は台湾での遠征では神風に乗り、安吉をよく助けてくれていた。

「あぁ。十分、十分役に立ったぞ」

 安吉の言葉を聞いて源三郎は嬉しそうに笑った。

 そして、力尽きた。


「殿……」

 紅衆の一人が駆け寄る。

「源三郎、鉄砲を借りるぞ」

 安吉は彼にそう告げると、源三郎の持っていた鉄砲と火薬、弾薬を手に取った。

 そして、敵の方向を睨んだ。

「お主等。まだ戦えるな?」

 この戦始まって最初の死者に兵は動揺していた。

 だが、それでも逃げ出すわけにはいかなかった。

「弾込めぇい!!」

 安吉はそう叫ぶと装填作業を始めた。

 この戦に大祝家が参陣する理由などなかった。

 時の流れに身を流され、翻弄されここに立っている。

 すべて、安吉の迂闊さに起因していた。

「これが終わったら、しばらく戦は休みにしよう」

 安吉はそう呟くと装填作業を終えた。

「構え!」

 そう叫ぶと同時に崖の影から身を乗り出す。

 

「放てぇい!!」



「敵が出て来たぞ! 放て!」

 髭面の男はそう叫んだ。

 それは、安吉が鉄砲を放たせるのとほぼ同時であった。

「がぁっ?!」

 だが、精度とその数は段違いであった。

 たった一度の斉射で10人程が被弾し、倒れる。

「善吉殿ぉ!」

 先程までの余裕は何処へやら、鉄砲衆の一人が弱音を上げる。

 髭面の男の名前であった。

 田崎善吉。決して高い身分ではなかった。

 だが、根来のなかでも鉄砲の腕が高くそれを評価され六角家に雇われた。

「構え! 放てぇ!!」

 彼自ら火縄銃を操作しながらそう命じていた。

 だが、鉄砲を相手にしたことが無い彼らの士気は思ったよりも早く崩壊した。

 原理が解っていても、鉄砲という物は恐ろしい。

 敵の鉄砲が放たれた音が響けば誰か1人が死ぬ。

 それだけで逃げ出したくなる。

「嫌じゃ! 嫌じゃぁ!!」

 一人また一人と逃げ出す。

 相手も同じはず。

 なのに敵の銃撃は一向に弱くならない。

「どうなってやがる!」

 善吉はそう叫んだ。



「弾を受けた者は儂の水を使っても構わん! 傷の手当てをしろ!」

 その頃、安吉は冷や汗をかいていた。

 敵から見れば勢いが衰えていないように見えるそれも、安吉から見れば明らかに銃撃の勢いは弱まっていた。

 一人また一人と傷を負い、後ろへ下がる。

 ただ一つ違う事があるとすれば、紅衆は戦においてはプロフェッショナルだと言う事。

 所詮、根来衆と言えどと言えど戦のためだけに生きているわけではない。

 畑があり、家族がいる。

 そんな彼らと紅衆がマトモに相手になるわけがない。

 戦のために生活をし、戦場に生きる。

 それが傭兵集団である根来衆と常備軍、紅衆の大きな違いだった。

「見ろ! 敵は逃げていくぞ!」

 安吉がそう声を上げると、紅衆の者たちは歓声を上げた。

 勝てる、これなら勝てる。

 彼にはそんな確信めいたものがあった。



「根来衆! 退いていきまする!!」

 その報告を聞いた瞬間、定頼は頭を抱えた。

 将軍は後方で日和見を決め込み、決戦兵力として持ってきたはずの根来衆は独断専行の挙句あっさり敗走。

 だが、戦況は概ね優勢であった。

 蒲生定秀の隊は確実に前進している。

 嫡男、義賢もまた定秀に続き良く働いている。

「決定打がない」

 定頼はそう呟いた。

 この戦が長引けば定頼は窮地に立たされる。

 三好の援軍が来るよりも早く長逸の隊を撃破し、各方面の三好軍を各個撃破する必要があった。

「かくなるうえは天子様にお言葉を貰う他ないか……」

 定頼はそう呟いた。

 将軍と朝廷。

 そのどちらもが六角につけば立場を決めかねている諸将はすぐに六角に味方するに違いない。

「兵700はついてまいれ! 御所へと向かう!」

 定頼の言葉に馬廻り衆の一人が声を上げた。

「700ではすくのうございまする!」

 その言葉に定頼は「700でも多いくらいだ!」と声を上げた。

 流石にまだ、敵の援軍は京に辿り付いてはいないだろう。

 道中までは将軍の陣もある。

 危険など無いに等しかった。

「行くぞ!」

 彼はそう声を上げると僅かな手勢と共に御所へと向かった。

 そこに、紅の者たちが待っているとも知らずに。



「急げ! 急げ!!」

 その頃、安正と門右衛門。そして紅衆300程は必死に御所へと向かっていた。

 小春の思っていた通り京は戦になっていた。

 幸い、京の北で戦になっている程度で市街地に被害は及んでいないだろうが、いずれ被害が及ぶかもしれない。

 それを案じた安正と門右衛門はひとまず御所へと向かった。

 旗を見る限り将軍家は六角についたようで、三好家は山にこもるほかない様だ。

「安正様! 大丈夫でございまするか?!」

 門右衛門の問いに安正は「馬は不慣れなものでな!」と笑った。

 それを聞いて門右衛門はニイッと笑うとこう告げた。

「速度を上げまするぞ!」

 彼の言葉に、安正は悲鳴を上げた。

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[一言] 百話おめでとうございます! これからも応援します! 頑張ってください!
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