表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/131

プロローグ

「我を捕まえてみよ!」

 ドタバタと奥館おくのやかたに少年の足音と声が響く。

忠丸ただまる様!」

 それを追うのは若い女中。

 彼女はこの奥館おくのやかたに来てまだ数カ月、未だ忠丸ただまるに振り回されていた。

「ほほ。元気よのう」

 中庭を挟んで縁側に腰をかける老女が笑うとその後ろにいた女が苦笑いした。

「落ち着きを持ってほしいものです」

「若いうちはあぁでいいのよ」

 老女は小春こはる、女の名はまつ

 まつの言葉に老女はそう微笑ほほえむと傍らに置いた盃を呷った。

 それを見て驚いたのはまつであった、慌てて小春こはるから盃を取り上げると呆れたように口を開いた。

「もうお年なのですから、酒は控えてください」

 そう言ったまつ小春こはるはおよよと泣き崩れた。

「死んだあの御方との思い出が酒であったのにそれを……」

 そう言ってわざとらしく泣き崩れた小春こはる

 それを諌めるようにまつ扇子せんす小春こはるの横腹をパシッと叩いた。

大殿様おおとのさま下戸げこでございまする」

「そうだったかな」

 まつの言葉に小春こはるはケロリと笑い未だに駆け回る忠丸ただまる微笑ほほえましそうに眺めた。

 季節は春、桜が咲き誇り松は影で慎ましく桜を支えている。

 まるでそれは夫婦のようで、在りし日の夫の姿を脳裏に浮かべていた。


 

「儂はまだ死んでおらぬぞ」

 感傷にひたっている小春こはるの頭上から声が降ってきた。

下戸殿様げことのさまではございませぬか」

瀬戸内守せとうちのかみと呼ばぬか」

 声の主は前当主の村上信吉むらかみのぶよしであった。

「瀬戸内ではもう戦は起きぬではありませんか」

 今から半月ほど前、この日本ひのもと天下泰平てんかたいへいの世が訪れた。


爺様じじさま! 戦話いくさばなしが聞きとうございまする!」

 気がつけば信吉の足元に忠丸ただまるが立ってそんなことを言ってきた。

 そんな忠丸ただまるをみて信吉のぶよしはは微笑ほほえむと腰をドスンと下ろし、口を開いた。

「しかたないのう、聞いても後悔するなよ?」

 そうニヤリと笑った信吉のぶよしは若さすら感じさせた。

毎週月曜日に投稿いたします。

1話については例外的に明日の夜投稿いたしますのでどうぞ、ご期待ください。


ぜひ、感想などよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ